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天眼の聖女 ~いつか導くSランク~  作者: 編理大河
ポンコツ家長とスリ少年
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要領だけはいいんだ


 とある日中。


「スタン君、お姉ちゃんって言ってみて」

「いや、ムリだから」


 エリスがスタンに自身を姉と呼ばせようと迫っていた。以前、エリスは弟や妹が欲しいって言ってたからなあ。だけど、スタンはそれを頑なに拒む。まあ、一歳違いの女の子に急にそう迫られても、結構きついものもあるだろう。特にスタンは自立心の高い子だからなあ。


「えー、なんで?」

「いや、やっぱキツイわ」

「えー」


 スタンの拒絶にエリスはショボンとなる。可哀相だと思いつつ、俺は二人に声をかける。


「ねえ、喋ってないで手伝ってよ」


 そう、今は秘密基地を大掃除中なのだ。スタンという新たな居住者も増えたため、今までいい加減に設定していた我が家のレイアウトを見直したのだ。入り口に近い場所は完全にリビングとして、寝室は一つの個室を丸々一つ使うことにした。


「しかし、すげえなココは」


 スタンが寝藁を抱えながら、基地を見回す。ふふ、そうだろう。俺がここを発見してから二年。毎日、改善を積み重ね、DIYしてきたのだ。換気のシステムはばっちりだし、雨が降って流れ込んでも、しっかり排水できるように排水溝を設置している。キッチンで火を使っても、煙が籠ることはない。


「自慢の我が家だからね。お風呂だってあるし」


 エリスも胸を張って、スタンに自慢する。風呂を用意してやったら案の定スタンもびっくりしてたっけ。スタンもスラムの少年らしくそれなりに色々匂わせてたが、毎日風呂へ入れ、ぬるま湯とここで洗剤代わりに使用されている植物の実で服を洗ってやっているから、文明人として恥ずかしくない身なりになっている。

 ただ、やっぱし石鹸ではないから多少脂くささは残ってしまうのが難点だ。やはり石鹸が欲しいところであるが、これは材料が揃うまでは待たないといけないだろう。


「ほら、手が止まってるよ。この後は特訓もしないといけないんだから、ちゃっちゃとやる。手を止めないアレクを見習って」

「うー、わかった。ごめんねお姉ちゃん」


 アレクは黙々と物を移動させている。ドがつくくらいの真面目さが時に心配だが、こういう時は本当に頼もしい。エリスとスタンもそれをみて黙々と手伝いを始める。よしよし、これなら部屋の変更もすぐ終わりそうだ。




 部屋の整理を終えると、昼食を挟み俺たちは修行のため空き室へと移動する。


「ん、それじゃあ今日も魔法訓練を始めるぞ。でも、その前に」

「おまじないだね」


 エリスが嬉しそうに俺の両手を取り、強く握ってくる。


「ん、それじゃあやるよ」


 己の眼を意識しながら、ステータスを視る。そして、強く祈りながら念じると己の中から何かがエリスに流れ込み、ステータスが光り輝くのを感じた。よし、成功だ。エリスは魔力や魅力が光りやすいな。毎回光っている気がする。


「よし」

「うん、あったかい」


 エリスがエヘヘと己の両手の掌を眺める。


「じゃあ、次はスタンだ」

「おう、頼まあ」


 ぶっきらぼうに片手を差し出すスタン。俺はエリスと同様に祈りを込めて、おまじないを行なう。まだ数回しか行なっていないが、スタンは素早さや器用さに特化しているタイプだろう。そこは毎回光っている。でも他のステータスも光りやすいし、万能型な気もするな。


「確かになんか熱くなる感じがするな。マジで効果がありそうだ」


 スタンが握られた手を宙にかざし、手のひらを見上げる。スタンにも俺の眼のことは大雑把に伝え、能力の向上のことも説明している。

 だが詳細な数字などは伝えていない。何故なら、数値を知ることでそれにこだわり過ぎたり、他と比べてしまい落ち込んだりしたら逆効果になると思ったからだ。それと、俺のこの能力が本当にそのような効果があるかも、実はまだ推測の段階にしかすぎないのだ。アレクとエリスというサンプルケースはあるし、二人の能力は同年齢より高いが、それはただ二人が優秀ということに過ぎない可能性もある。

 だから、俺はあえてこれをおまじないと称して行なっていた。まあ、本当にそう信じ込めばプラシーボ効果も期待できるのではという思惑も込みである。でも、これからはスタンというサンプルも加わるからそれが本当かどうかもより分かりやすくなるだろう。

 アレクにも同様におなじないをした後で、まずは四人で座禅を組んで瞑想を行う。これも最初に魔力訓練として何となく始めたことであるが、たった一人二年間毎日欠かさず続けていく中で、有効な訓練であるということを確信している。前世で禅寺での一日体験で覚えた呼吸法と瞑想術を使い、己の中の魔力を意識し研ぎ澄ませていく。すると己の内に渦巻く魔力の波動ともいえるべきものを知覚する。

 今の自分はそれを明確につかみ取ることができた。例えはアレだが、自転車が一度こげるようになったら、その感覚が二度と失われなくなるのとかなり似ている。


「じゃあ、次は実際に魔法を使ってみようか」


 しばしの瞑想の後、次は実践に移ることにした。俺がそう言うと、アレクの前にボコッと土人形が勢いよく現れる。


「早いよッ⁉」


 アレクがフライング気味な土人形をそう諫める。最近では意思の疎通が取れてきたが、やはり完全に律することはできないらしい。土人形はアレクに気にするなというように右手をチョイチョイと動かしてみせる。


「じゃあ、次は私だね。えいっ」


 エリスが両手を突き出すと、途端に小さな氷柱が現れる。おおっ、いきなり水でなく氷を生成するなんて。最近のエリスの魔法の上達はほんとに素晴らしいな。土人形もそれをほめたたえるように、エリスへと親指を立ててみせる。

 でも、そろそろスラムの迷宮で実戦に使えるレベルになっていると思える。俺一人で迷宮は万が一があると困るためアレクとエリスに止められたが、二人が自衛の手段を持てるならそろそろ迷宮もいいかもしれないな。


「じゃあ、次はスタンだな」


 まだ、スタンは魔法が使えないが、まあ始めて数日しかたってないしな。スタンは風魔法と相性がいいから、風をイメージさせている。


「スタン君頑張って。私も魔法ができるのに二か月かかったし、失敗しても大丈夫だよ。とにかく集中だよ、シューチュー」

「ん、そうか」


 エリスのその応援に、スタンは少し気まずいような顔をする。どうしたんだろう? 女の子に慰められるのが気まずいのかな。


「大丈夫、スタン?」

「あー、まあな。取り敢えずやるぜ?」


 スタンが右手を突き出し、目を閉じ呼吸を整える。その瞬間――


「「えっ⁉」」


 そこから突風が吹き荒れ、俺とエリスの声が重なる。


「おおっ、凄いなスタン」


 普段はあまり動じないアレクも、目を見開いてスタンを褒める。


「まあな、要領だけはいいんだ俺は」


 控えめだが、やはり魔法が使えて嬉しいのだろう。やや自慢げにも見える笑みを浮かべるスタン。だが、教えて三日で使えるとは、要領がいいにもほどがある。


「えーー、せっかく失敗したら慰めてあげようと色々考えてたのにー」


 エリスはスタンにお姉ちゃんぶりたいのか、露骨にがっかりとしてみせる。まあ、でもスタンが魔法を使えるようになれたのはよかった。これで魔法に血統が関係ないという俺の推測も大分事実に近づいた。聞いたところによるとスタンにも貴族や魔法使いの親族はいないらしいしな。

 その後もしばらく、俺たちは魔法訓練に精を出すこととした。

 



 






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― 新着の感想 ―
[気になる点] (予定は未定)【根源の魔女】であるリコさんはそのうちインベントリを身に付けるのでは?なんせあるとなにかと便利で捗るからね。 あと、 リコ‥魔法使い アレク‥剣士 エリス‥僧侶 スタン‥…
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