天才発明家
「というわけで、これを使えばより綺麗に歯を磨くことができるんです」
今日、俺はギルドを訪れフィーネさんに商品の提案をしていた。アポだけでも取れればと思いギルドへ来たが、偶然にも受付にいるフィーネさんとシャーリーと会うことができたのだ。
以前、話した画期的な商品とやらの提案があると伝えると、フィーネ達に連れられてギルドにある個室へと連れてこられた。他人に見られることがないこの場所で、俺は自分が作った歯ブラシ、オセロ、それに似たようなカードゲームはあるが一応トランプも用意し、二人の前でプレゼンテーションを行いながら商品の説明をした。
「へえ、面白いわね。馬の尾を使って歯を磨くなんて考えもしなかったわ」
「言ったろ、フィーネ。子供の発想は馬鹿にならないって」
シャーリーが犬歯をニィと覗かせて誇らしげにその豊かな胸を張る。まあ、このアイデアは前世からの既成品をまんま持ってきただけなんですけどね。まあ、背に腹は代えられないし、この国にはおそらく特許とかなんかもないだろうしセーフだろう。
「どうでしょうか」
「うん、悪くない……。いえ、とても素晴らしい商品だと思うわ。是非私たちに買い取らせてもらえるかしら」
「はいっ」
やった、商談成立だ。実現できるかはわからないが、アイデアはまだまだある。本当なら自分で売るのが一番手っ取り早いし稼げるんだろうが、まだ元手もないしツテもない今、行商人のフィーネさんというビジネスパートナーは得難い相手だ。
「それじゃあ報酬はこれで大丈夫かしら。確認してもらえる」
フィーナさんが用意していた金を小袋に詰めて、俺へと渡してくる。受けとると、ずっしりとした重みが掌にかかり、思わず顔が綻んでしまう。中身を見てみると、黄金色に輝く硬貨がぎっしりと入っている。えっ⁉ 何コレ。さすがにこの額は想定していなかったぞ。これだけあれば優に数か月ほどは働かなくても食っていけるだろう。間違えているんじゃないのか?
「あの、これって……」
「え、少なかったかしら」
「いや、多すぎかなって」
キョトンとした顔でそう言われ、俺は言葉を詰まらせる。いっちゃなんだが、この商品は画期的ではあるもののすぐに他人にも作れてしまう類のものだ。そんな商品にこれだけの金額を払うとするなら、フィーネさんの商業センスには少しばかり疑問を抱かざるを得ない。
「ああ、そうね。でも、それはあなたという子に対する投資も込みだからよ。また、あなたがなんらかのアイデアや商品を考えついたときに、また私たちのところに来てくれることを期待してのね」
フィーネさんはそう言って俺に微笑む。俺としても報酬を弾んでくれるなら、今後前世のアイデアをフィーネさんに優先的に提案することはやぶさかではない。まあ、今はフィーネさんしかツテはないということもあるのだけれど。
けど、これで皆に腹いっぱい食わせてあげることができる。いくら貧困生活をしているといっても、食費だけは絶対に削りたくはない。だって、皆育ち盛りだしね。
それに、早期教育というのはやはり大事だと思う。結果は求めないけど、やっぱり皆にはベストな環境を用意してあげたいとは思っている。だから、そのためのお金が欲しいのだ。勿論そのなかでも、食育は決して疎かにはしてはいけない一つだ。
「なら、これはありがたく受け取っておきます」
「ええ、今回の商談が次へとつながる良い結果になることを期待してるわ」
俺とフィーネさんは、互いにまっすぐ見つめ合い笑い合う。今回はいい商いができた。前世ではポンコツだった俺も、前世の知識を使えばこのとおり。知識チートってスゲーなあ。
「でも、これでフィーネの親父さんに一泡吹かせることもできるんじゃないか」
シャーリーがポンとフィーネの肩を叩く。なんだろう、フィーネさんは父親と仲が悪いのかな。まあ、気安く聞く気もないし、聞いても何もできないだろうから聞かないけど。
「うーん、駄目ね。今回の商品はうけることはうけるでしょうけど、でもすぐに模倣できてしまう単純なものよ。利益を独占するというのは難しいでしょうね」
「そっかあ。まあ、気長にやるか」
フィーネさんもやはり、このことには気づいていたか。まあ、俺もそこらは考えてはいるんだが、材料が手に入らないと作れないんだよなあ。それに製法はうろ覚えだから確実にできるかは分からないし。
「フィーネさん。私も買いたいものがあるんですけど、フィーネさんにお願いすれば手に入れられますか」
「言ってもらえれば、大抵のものは用意できると思うわ。……もしかして、それは次の商品につながるものなのかしら」
「はい」
俺がその素材を伝えると、フィーネさんはわかったと頷く。幸い今金が手に入ったばかりだし、それを投資に回すと思えば痛くない。
「おう、天才発明家様の誕生だな」
「ええ、まったく大したものだと思うわ」
二人に褒めそやされて俺は気まずい思いをする。金のためだから仕方ないが、本来こういった技術などは職人や研究者、発明家などが心血注いで生み出してきたのだろう。その上澄み、ごっそり頂きます。
「それじゃあ、リコ。あたしともう一回オセロしよーぜ」
シャーリーはオセロが気に入ったらしく、再戦を挑んでくる。
ふふ、小学生時代にオセロ名人の名前を欲しいままにした、この俺にいい度胸だ。
「ほどほどにしときなさいよ」
フィーネさんが呆れたように、腕を組みながら俺たちの対局を見ている。結局、この後6回シャーリーとオセロをするはめになった。結果はもちろん俺の全勝だ。
その後、ギルドを出る際にフィーネさんは家族へのお土産として飴玉や焼き菓子をくれた。いいお土産を貰った、皆喜ぶことだろう。ホクホクな気分で金とお菓子を大事に抱えながら、俺は帰路へとついた。




