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天眼の聖女 ~いつか導くSランク~  作者: 編理大河
ポンコツ家長とスリ少年
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魔法が使えるから


 スタンは三日ほどして完全に回復した。

 でも熱が下がってから「あのことは忘れてくれ」と恥ずかしそうに言っていた。本人的には、己の境遇を話すつもりなどなかったらしい。熱だと変なテンションになるからね。まあ、おかげでアレクとエリスもスタンに対して以前より親身になっているし、特に問題はないか。


「はい、スタン君の負けだね」

「ああ、エリスは強ぇな」


 そんなスタンはというと、今はエリスと二人でテーブルにつき、俺の作ったオセロをしている。俺とアレクは隣でそれをみていた。街で買った塗料を使い、俺の土魔法で作り上げたものだ。暇つぶしにアレクやエリスに教えたら、二人共とても楽しそうに熱中していた。それを見て、これは案外売れるのではと思った。なので、今度フィーネさんに提案する予定だ。


「じゃあ、次はお兄ちゃんとスタン君ね」

「では、やろうか」


 アレクとスタンもいまのところは上手くやっている。「あのときはすまない」と謝るアレクに、「あんたは間違えてない。別に謝らなくていい」と素っ気なくスタンは返していた。まあ、二人共男の子だしそういうところは引き摺らないのだろう。エリスの応援の下、オセロを始める二人を眺めながら、この前スタンと話したことを思い出す。




「ねえ、スタン。よかったらウチにおいでよ。行くところもないだろうし、一人だと何かあったとき困るでしょ」


 あの後、アレクとエリスからスタンをウチに入れられないかとの話があった。特にエリスなどは目を赤くしながら熱心に俺を説得してきた。余程、スタンの境遇に心うたれるものがあったらしい。アレクもエリスに賛同し、お願いしますと頭を下げてきた。気持ちはエリスと同じだったのだろう。俺としてもそのつもりだったから、どう二人にそのことを切り出そうか悩みどころであった。なので、その申し出は嬉しい限りであった。


「うーん、他人の世話になるってのもなあ。それに俺は前のグループと遺恨もあるし、迷惑をかけちまうかもしれねえしな」


 日中、テーブルにつき昼食を済ませた後で、熱も引き体調の回復したスタンにそう申し出たとき、スタンはそのことも気掛かりなのか躊躇いを見せた。まあ、スタンは俺たちが魔法を使えることは知らないし、そう心配するのも無理はないことだけど。


「大丈夫だよ。俺たちがあんなチンピラごときに負けるはずがないし」

「はぁ⁉ ちびっ子のくせに随分な自信だな、オイ。気合だけじゃ喧嘩には勝てねえぞ」


 スタンはそう言い切った俺に少しばかり呆れた様子だ。


「大丈夫だよ、お姉ちゃんは強いんだから。魔法が使えるんだよ」


 エリスが胸を張って、スタンにそう告げる。


「おい、マジかよ⁉」

「嘘じゃないぞ」


 俺は己の手に焔を纏わせる。それを見たスタンは驚愕に眼を見開いた。まだウチに来るかもわからないスタンに魔法のことを教えるのはどうしようかと悩んだが、もしスタンが一人で生きていくことを選んだとしても、魔法が使えれば生き抜ける可能性は大分あがるだろう。


「リコ、お前貴族の血でも引いてるのか?」

「いや、そのことなんだが」


 俺は魔法が血統に依らずに行使できるかもしれないということをスタンに伝える。スタンは驚きと呆れが入り混じったような、そんな表情となった。俺が魔法を使えるというのは理解したが、血が関係ないということは信じられないようだ。


「本気で言ってるのか?」

「本当だよ。私たちも最初は信じられなかったけど、でもお姉ちゃんに教えてもらって使えるようになったの。ほら」


 エリスは笑顔でそう言うと、自分の掌の上に小さな氷の塊を生成する。


「おおぉ」

「凄いでしょ。お兄ちゃんも使えるんだよ」

「え?」


 エリスにそうふられたアレクは、呆けたような顔となる。だが、ジッと自分を見てくる俺たち三人に諦めたように、地面に手をかざすとそこから小さな土人形がボコッと隆起し現れる。土人形は俺たちに向かって、その手をビシッと突き出してくた。そのまんまるおててからぴょこんとひとつ指のようなものが飛び出ている。親指を立てているつもりだろうか。


「なんだコレ」

「いや、よくわからないんだけど」


 たぶんゴーレムとかそっち系の魔法だと思うんだけど、アレクもいまいちよくわかってないらしいからな。謎は深まるばかりだ。


「戻って」


 アレクが土人形にそう命令するが、土人形はプルプルと首を横に振り断固拒否の姿勢をみせている。魔法についてそれほど詳しくないが、アレクの使役するこの子には自我らしいものがあるらしい。


「疲れるからさ、お願い」


 再三のアレクのお願いに、土人形はがっくりと肩を下ろすと地面へと溶けるように戻っていく。


「どう、これで信じられた?」

「あ、ああ、凄いな。皆、魔法なんて貴族か魔法使いの血を引いてないと使えないっていってたのに」


 そう、世間では魔法はそのようになっている。問題はそれが思い込みなのか、意図的に為されているのかということだ。もし後者である場合、「皆さん魔法がつかえますよー」などと世間に大声で伝えたら、なんらかのヤバイ組織などの制裁があるかもしれない。だから絶対このことは周囲に言いふらすなとアレクとエリスにも強く言い含めている。スタンにもそのへんのことはキッチリと言っておこう。


「でも、いいのかよ。俺なんかにそんなの教えちまって」

「うん、スタンなら悪用しないって信じられるし。それにスタンも魔法が使えたら便利でしょ」

「んー、あんまり買い被られてもなあ」


 スタンは両手を組み天を仰ぎ、しばし悩んだ後口を開く。


「まあ、とりあえず暫く世話になるって形じゃダメか」

「別にスタンがそうしたいんだったら、別にいいよ。もしスタンがここでの生活が嫌になったっていうなら出ていけばいいし」


 まあ、人間同士だから合う合わないもあるだろうし。アレクとエリスはドがつくほど真っすぐなタイプだが、スタンはよくも悪くも普通の少年といった感じだ。いきなり家族なんていう関係は無理だろう。それに他のグループと生活していた経験もある。ここでの生活がスタンにとって苦痛になるなら、止める気はない。でも、その前に一人でも生きていけるように魔法を使えるようになれば、大分ここでも生きやすくなるだろう。


「じゃあ、そういうことで頼む。世話になるな」

「うん、ようこそスタン」




「よし、俺の勝ちだな」

「ああ、僕の負けだ。スタンは本当に強いな」

「お兄ちゃんはちょっと弱すぎるけどね」


 今もオセロに熱中している三人を見る。何はともあれ、スタンという住人が新たに増えたのだ。アレクとエリスに仲のいい友人ができるのは嬉しいが、その分家計も圧迫するだろう。急いで金策に励まねば。


「よし、次はお姉ちゃんとスタン君で勝負だね」

「ふふ、俺は強いぜ。勝負だ、スタン」

「おう、かかってこいや」


 小学校のときオセロ名人の名前を欲しいままにした俺の実力を見せてやる。何歳になっても、人とこうして戯れるのは楽しい。それに肉体は9歳のままだからな。家計のこともあるが、少しは歳相応に楽しむことも必要だろう。

 そうして俺は難しいことは一時忘れ、三人と共にオセロを存分に楽しんだ。


  



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