看病
俺はすぐさまスタンのステータスを視る。HPはまだ0にはなっていない。よかった、死んでいないようだ。だが、大分弱っている。早く救助しないと危ないだろう。
「大丈夫かっ⁉」
倒れているスタンにアレクとエリスと共に駆け寄ると声をかける。スタンは意識を取り戻し、腫れあがり半分塞がっている目を開けると俺たちを見上げる。
「……おぉ、リコか。やったぜ、俺は」
やり遂げたと言わんばかりに満足な表情で、ニィと自慢げに笑ってみせる。
「何があった」
「足を洗ったのさ。おかげで取り戻せた。もう、見失わねぇ」
そこまで言うとスタンは呻き、再び意識を失ってしまう。
「おいっ⁉」
慌てて触ると、スタンの体は大分熱を帯びている。怪我だけでも治してやらないと。幸い周囲に人はいない。なら、ここで加護を行使しても構わないだろう。
「エリスッ」
「うん」
エリスはスタンに駆け寄ると、その両手をかざす。
「いと気高き我が主よ。その慈悲によって、弱き子を癒し給え」
聖句を唱えると、途端にエリスの両手が眩き光を放ち、瞬く間にスタンの傷が癒えていく。大分楽になったのか、スタンは穏やかな表情となり、健やかな寝息を立て始めた。
「ふう、これで取り敢えずは大丈夫か。でも、熱もあるし、このままにはしておけないな。アレク、エリス、スタンを家に運ぶぞ」
「早く看病してあげないとね」
「では、僕が背負います」
優良物件な秘密基地であり、人目につかないようにこっそり出入りしているが、スタンにならたぶん知られてもマズイことにはなるまい。それにさっき言った足を洗うという言葉。きっと、グループを抜けた報復としてリンチでもされたのだろう。ならば、これは以前スリについて偉そうに説教した俺の責任ということになる。幸い二人も拒否することなく俺に賛同してくれた。
アレクがスタンをその背に負うと、俺たちは秘密基地へと戻ることにした。
家に戻った俺たちは、まずスタンをベッドへと横にした。傷は癒えたが、体はまだ大分熱い。殴られ過ぎて熱が出てしまったのだろう。その額に濡れタオルを置いてやる。
「まあ、しばらくは安静かな」
一安心した俺は、スタンのこれからについて思案する。以前、スタンに説教じみたことを言ってしまったが、まさかその直後にグループを抜けるとは思ってもみなかった。五年、十年して大人になったとき、己の身を振り返ってみて欲しいという気持ちで言ったのだが。さすがに小さな子供がたった一人で生きていけるはずはないからな。
スタンは結構クレバーなタイプだと思っていたが、やはり子供の純真さなのだろうか。それを踏まえずに随分安直に踏み入ってしまったと、自身の軽率さにすこしばかり呆れる。これではあまり以前のアレクのことを笑えない。
「スタンがこうなったのは、僕のせいですね。足を洗ったと言っていましたが、それにこんな代償があるなんて思いもしなかった」
アレクもスタンを見ながら、すこし思いつめた表情だ。責任を感じているのかもしれない。でも脱け出すにしても何故こっそり抜けなかったのか。スタンにならできそうな気もするが。スタンなりの事情があったのかもしれないな。
「今はそれを気にしてる場合じゃない。暫くスタンをここで面倒見たいと思ってるけど、二人は大丈夫?」
せめて熱が引くまではここで面倒を見るべきだろう。二人も優しいから断らないだろうけど、他者を生活圏に引き入れるというのは、結構面倒なことだ。特に二人は多感な子供だから、一応賛否は問うことにした。
「うんっ、大丈夫。私たちも同じようにお姉ちゃんに助けられたしね」
「構いません。それに……」
エリスは満面の笑顔で頷いてくれる。まあ、こういう子だしね。アレクも賛成してくれたが、そこで何かを言おうとして止めてしまう。やっぱり何か思うことがあるのだろうか。
「何? アレク」
「いえ、なんでもありません。まずはスタンの回復を待ちましょう」
「うん、そうだね」
痛ましい表情でスタンを見つめるアレク。まあ、アレクなりに思うこともあるんだろう。今度また二人で話し合ったときにでも、聞いてみることにするか。思いつめてもなにもいいことはないしな。
「じゃあ、決まりだね」
俺がそう言うと、二人は笑顔で頷く。とりあえずはこれでいいか。でも、我が家の人口密度がまた増えたな。一人で持て余してた頃が嘘のようだ。まあ、スペース自体はあるし、あと2,3人ぐらいなら余裕で入りそうだから別に問題ないが。




