真夏の夜の会話2
まだ話題はあるし、俺はアレクと話し合いを続けることにした。
再び並んで座り、月を眺めながら会話を交わす。
「アレクは騎士になるのが夢だったんだもんね」
以前もこうして、月明かりの下でそうした会話を交わしたのを思い出す。今もその夢は変わってないのだろう。
「ええ、確かにそうでした。でも、それは難しいかもしれません」
アレクは自信なさげに、そう呟くと少し俯き加減となる。
「え、どうして?」
「騎士には出身も考慮されるんです。門地の怪しい者はいくら秀でてても駄目って父さんは言ってました。父さんはそれに憤りも感じてましたけど」
アレクは月を見上げながら寂しそうに笑う。
うーん、確かに警察とかは国籍とか、出身を親族にまでわたって精査されるって聞いたけど、騎士もまたそうなのだろうか。スラム出身の者は騎士になるのは厳しいのかも。
「で、でもさ。国に仕えなくても騎士として称えられる人はいるよ。アレクもそれを目指せばいいんじゃないかな」
「え⁉ そんな方たちがいるのですか」
「う、うん。いっぱいいるよー」
想像以上に食いついてきたアレク。まあ、俺が知っているのはいわゆるラノベの人たちなのだが。
「聞かせてもらえませんか、姉さん」
「……う、うん」
アレクはとても目を輝かせて俺にその話をせがんでくる。拒めるはずなどなかった。
「自由騎士バーンとそれに寄り添うハイエルフのディードリッヒ‼ カッコいいです‼」
「でしょ。……えへへ」
「それに自由騎士団を設立したシャムロット。英雄というのは、時代や社会に影響されることなく存在しているのですねっ‼」
アレクは想像以上に乗ってきてしまった。おかげで俺は今まで蓄えたラノベ知識を全て放出し、アレクにそれを教授するはめとなってしまったのだ。
「ま、まあね」
「僕も、国家や社会のしがらみに捉われない、そんな騎士になりたいです」
「アレクならなれるよ」
興奮冷めやらぬといった様子で立ち上がり、再度剣を振り虚空を斬るアレク。そのとき、ちょうど雲に隠れていた月が現れ、その光がアレクを照らす。その涼やかで怜悧な容姿や、堂々としたたたずまいを見て、やはりこの子は特別な子なのだと俺は思わされる。後数年して大人の体つきとなったとき、どれほどの男となっているか。
「そのためにも頑張らなくちゃね」
「はい。でも姉さんのおまじないもあるから大丈夫だと思います」
おまじないか。この眼でこの子たちをどのくらい引き上げてやれるのか。時折、このステータスを見れる力がゲーム脳の産物で、俺の妄想なのではないかという想いにも囚われるが、今のところ結構当てはまっているし、問題はないとは思うが。
「姉さん」
「ん?」
「今日は色々お話ができて楽しかったです。また、色んな話を聞かせてもらってもいいですか」
「うん、勿論。時々はこうして二人で話すのもいいかもね」
エリスがいるとお兄ちゃんしてしまうのかもしれないな。今のアレクは歳相応のあどけない表情を見せている。こうして二人きりならアレクも素を出して話せるのだろう。今後も家長として、こういう機会を作ってあげなければ。
「それと、今度アイツにも謝ろうと思います」
「うん、そうだね」
ふっ切れたようにアレクは、微笑みながら俺にそう告げる。それがいいだろう。スタンも善い奴だし、もしかしたら歳も近いから友人になれるかもしれない。このスラムで悪友以外の友を得るのは難しいから、いい機会だ。
「ふわあ」
意図せずあくびがでる。会話は楽しかったが、大分夜更かししてしまった。アレクもそうだが、俺も体はまだ子供だ。睡眠も欠かすことはできない。寝る子は育つっていうしね。
「今日はもう寝ようか。アレクも剣の修業はいいけど、夜更かしは駄目だよ。寝ないと背も伸びないしね。今度からは皆が寝静まる夜じゃなくて、夕ご飯食べ終わってからにしなよ。エリスもアレクの剣の修業のことは応援してくれると思うし」
気を使ってか、アレクは俺たちが寝静まってからこっそり脱け出していたが、睡眠も考えるとそちらの方がいいだろう。今まではアレクに気を使い、ノータッチだったけど、こっちの方がいいに決まっている。
「そうですね。では、これからはそうします」
「それじゃあ、帰ろうか」
俺はアレクを伴って秘密基地へと戻る。健やかな寝息をたてるエリスの横に体を横たえると、スッと眠りに入っていく自分がわかった。
腹を割って話し合って、俺自身も大分すっきりとしたらしい。穏やかな気持ちの中、俺は前世の夢を見た。それは俺が子供の頃、無邪気だったときの夢であった。




