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天眼の聖女 ~いつか導くSランク~  作者: 編理大河
ポンコツ家長とスリ少年
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迷宮デビューだよ


 しばらく迷宮を進むと、再び子供たちのグループが待機している空間に出る。年齢は先ほどの子供たちよりも少しばかり幼い感じだ。彼らは俺の姿を見かけてもチラリと視線を向けただけで直ぐに興味をなくし、周囲をキョロキョロと不安げに見回している。

 そんなところに一匹の傷ついたゴブリンが現れた。おそらく戦闘から逃げてきたのだろうか。左腕が欠損しており、足を引き摺りながらこちらヘと歩いてくる。


「来たっ。手負いだっ!」


 それを指さし、一人の子供が声をあげる。すると全員が、そのゴブリンへと群がり始める。


「ギィイイイ!」


 ゴブリンも負けじと決死の抵抗をするが、さすがに一匹では多数を相手取ることができなかった。子供たちが持ったナイフや棒、石などで滅多やたらに攻撃され力尽きてしまう。そして一人の男の子が倒したゴブリンの胸部を切り開き、赤い石をブチブチと引き抜いた。


「やった。待ったかいがあったね!」

「これで、ご飯が食べれるね!」


 喜びに湧く、ちびっこグループ。先ほどの発言といい、どうやら手負いのモンスターを狙って倒しているようだ。

 そんなとき、奥からガヤガヤと男たちの野太い声が響いてくる。


「おっ、いたぞ! モッパーのガキどもだ」

「おーい、プレゼントを持ってきたぞー!」


 陽気に騒ぐ大人たちの集団から声を掛けられ、子供たちはビクつき逃げようとする素振りをみせる。だが、それに気付いた男が怒声を浴びせると子供たちは逃げるのを諦めた。


「テメエら、逃げたらぶっ殺すぞ‼ 人様がワザワザ贈り物を用意してやってんのによお!」


 見ると、男の腕には緑色の生物が首をロックされ引きずられている。それは、先ほどの子供たちからゴブリンと呼ばれた魔物であった。ギイギイと叫ぶゴブリンを笑いながら引きずる男の顔は赤い。もしかしたら酒でも飲んでるのかもしれない。

 少年たちは目をつけられている。だが幸い俺は、まだ見つかっていないようだ。その隙に、こっそり忍び足で近くの岩場へと身を隠す。


「えー! 俺らが苦労して魔物ぶっ殺してるのに、君たちは取り逃がした魔物目当てに荒稼ぎですかー!?」

「あ……す、すみません。てっきり、どうでもいい獲物なのかなって……」

「その根性が気に入らねええええええええええええ‼」


 弁明する少年に対し、突然発狂したかのように怒声をあげるゴブリンを抱えた男。うん、あのテンションは確実に酔ってるな。しかも結構なムキムキで髪型だってモヒカンだ。うーん、これは典型的なイキリDQNだな。もし夜の繁華街で絡まれたら、前世の俺ならば呆気なく財布を差し出していただろう。


「というわけでぇ、君たちには今からこのゴブリン君と戦ってもらいーす。モチ、タイマンな?」


 そう男は言うとゴブリンの背を蹴りだし、子供たちの前へと突き飛ばす。ゴブリンはすぐさま起き上がり周囲を見回すと、弱そうな少年たちを標的と定めて威嚇し始める。


「ゴブゥ‼ ゴブブッ!」

「ひいぃ……!」


 その剣幕に押される少年たち。それを見た男たちは嘲笑しながら、彼らを煽ってみせる。


「おいおい、そんなんでココ来ちゃダメでしょ」

「ほらほら、もっと気合いれんとー」

「で、誰がやんだ? ……言っとくけど、逃げたら全員ぶっ殺すからな」


 最後にドスの利いた脅しをされ、顔を見合わせる子供たち。すると、その中で一番年長の少年が前へと進み出てきた。


「……僕がやります」


 必死な表情で、そう伝える少年。その様子に男たちは、わざとらしい拍手と声援を送る。


「よっ、男の子!」

「うんうん、先輩として教えがいがあるなあ」

「よしっ、始めな!」


 いまだ警戒を解かないゴブリンに、少年はナイフを振りかざし牽制していく。しかしゆっくりと距離をつめたゴブリンは、ここぞとばかりに身を低くして少年へと飛び掛かる。


「ゴブッ!」

「うわあああ!?」


 それでも少年はゴブリンに組み付かせまいと、必死に距離を保ちながら手にしたナイフで攻撃を加える。そして数回の攻防を重ねた後、やがて小さくない傷を負ったゴブリンは自ら仕掛けることなく沈静化した。


「よしっ、やれる!」

「「「頑張れっー‼」」」


 ゴブリンの様子を見て自信を得たのか、気合の声をあげる少年。仲間の健闘に他の子供たちも歓声をあげる。だが、それは男たちにとって面白くないのか白けた様子をみせている。その中で一人の男が袋の中から錆びたナイフを取り出し、ゴブリンへと向かって放り投げる。


「素手相手に得物持ちじゃあ男が廃るぞ。だからよお、これで対等だなあ?」


 それ(ナイフ)をゴブリンは空中で器用にキャッチすると、威勢のいい声をあげ少年を威嚇する。


「ゴブブウウウウッ!」

「ヒッ!?」


 そして、ゴブリンから差し向けられたナイフの切っ先に少年は思わず委縮する。更に恐怖から後ずさってしまい、そのとき小石に足を取られ尻餅をついてしまう。


「ゴブッ‼」

「いやあああ!?」

「ひゃっほうっ!」


 それを見て好機とばかりに少年へ飛び掛かるゴブリン。その様子を見た子供たちは悲鳴をあげ、男たちは歓声をあげた。

 そして硬直した少年へとゴブリンの刃が振り下ろされそうになった、そのとき──ゴブリンの頭部がストンと落ちる。それから頭部を失ったゴブリンの体はトテトテと少年の横を通り過ぎ、ぱたりと倒れて動かなくなる。


「えっ……?」

「な、なんだぁ⁉」


 そこにいた男たちと子供たちが、その様子を見て一様に驚愕する。

 さすがに見るにたえないからな。俺が風の刃を発動し、ゴブリンへと放ったのだ。それから俺は懐に手をいれると例の仮面を装着する。……さあて、銀髪鬼のスラム迷宮デビューだ。そして俺は岩陰より姿を現すと、ケツの穴に力を入れながら声をイケボにして男たちへと話しかけた。


「ヨワイモノイジメハタノシイカ?」


 颯爽と現れた俺に、それを見た男たちは驚愕の声をあげる。


「うぉ、なんだこの気味の悪い声は……?」

「しかも、あの仮面は……なんだアリャ。もしかして邪教の手先か何か?」

「……ワレ、ギンパツキナリ」


 スラム街を護るダークヒーローだよ。しかし、この仮面は少々相手に畏怖を与えすぎているかもしれないな。だけど、もう少し敵にも格好いいと思われたいと思うのは間違えているだろうか?


「はあ、ギンパツキぃ? なんだぁ、そりゃ」


 この暗黒街に近い場所では、どうやら俺の名は行き届いてないらしい。子供たちも困惑した様子で、こちらを見ている。


「おい、気をつけろ! こいつ魔法を使うみたいだぞ」

「最近聞く、魔法を使うガキってこいつか。正義気取って襲ってくるらしい」


 男たちは突然現れた俺に武器を向け、警戒態勢を取る。なんか心当たりはあるようだが俺は初めてだし、それは別人だな。……まあ、思い当たる人物は他にも一人いるけど。


「なんでもいいぜ。喧嘩売ってくるなら買っ、ブフォオ!?」


 先制攻撃で男の顔面へ風弾を放つと、風弾を放たれた男は盛大にすっ飛んだ。うん、俺の力も日々向上しているな。ドリスという難敵との戦いから早三ヶ月、魔法の威力を上げることにも成功していた。こりゃ、将来的にはSランク冒険者になるのも夢じゃない……なんてね?


「サレ、ソウスレバイノチマデハトランゾ」

「く、くそぅ。魔法を使うなんて卑怯者がぁ! ……引くぞっ」


 今の一撃で実力差を悟ったのか、男たちは負傷者を抱え去っていく。まあ、ステータスが100台前半しかない雑魚ばかりだから心配はしていなかったけど。


「あ、あの。ありがとう、助けてくれて……!」


 逃げ去る男たちを見送っていると、ゴブリンと戦っていた少年が俺におずおずと礼を言ってくる。


「ヨイ。ソレヨリモココハキケンダ。カセグナラホカノホウホウダッテアル」

「そうかもそれないけど。……でも、仲間に病気のやつがいるから」


 なるほど、それで無理してここまできたのか。それなら外野の俺がどうこう言うことではないのかもしれないな。でも、この子は俺が介入しなければ死んでたかもしれない。そう考えると難しいところではある。


「ね、ねえ。このゴブリン、譲ってくれないかな……? ギンパツキさんは強いから、必要ない、よね……?」


 少年は必死の表情で、そう俺に訴えてくる。……うーん。正直、そろそろ日も落ちるし魔石ゲットして帰りたいんだけど……。でも、今の話を聞いちゃうとなあ。


「ウム、カマワヌゾ。ダガ、イノチハダイジニシロ」

「あ、ありがとうっ‼ おい、みんなっ! ギンパツキさんが、このゴブリンくれるって!」


 そう少年が仲間たちに伝えると、子供たちは歓声をあげながらゴブリンを解体していく。……うーん、逞しい。


「ギンパツキさーん! ありがとねー!」

「ウム、ヨロコンデクレテナニヨリダ」


 魔石や素材を回収しきった子供たちは、俺に手を振りながら出口への道を戻っていく。逞しいけど、擦れてない良い子たちだったな。……だけど、あの少年たちも困窮したら再びここに来るんだろうなあ。俺が今やっていることは焼け石に水で、本当は何も意味がないのではないか。ふと、そんなことを思った。

 でも、だからといって目の前で困っている人を助けないのも正解ではないということは解る。だから、今はこれでいいよね。人一人ができることなんて所詮は限られているし、人は容易く英雄になんてなれはしない。それは前世でばっちし学習済みなのだから。

 さて、今度こそ魔石をゲットしなければ。気を取り直し、俺は誰もいなくなった迷宮をさらに奥へと進むことにした。







 



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