表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天眼の聖女 ~いつか導くSランク~  作者: 編理大河
銀髪小鬼と家出兄妹
26/269

三人で


 晴天の下、俺たちは秘密基地の前で歯磨きをしていた。俺はアレクとエリスを並ばせて、その前へと立つ。


「歯磨き体操始めましょお‼」

「しょおー‼」

「……おー」


 二人の手には、俺と同じく自作の歯ブラシと石造りのコップがある。健康な生活のためには、毎食後の歯磨きは必須だ。家族として共に生きていくこととなってから、早速二人の生活用品も用意した。ベッドもとりあえず三つ分しつらえたが、エリスは毎晩俺のベッドへと潜り込んでくる。まあ、子供の体温は温かくて、俺もよく寝れるから別にいいんだけどエリスは甘えん坊だな。


「右下ァ‼」


 クマのこ、りっすのこ。チャチャチャチャチャララララ。

 俺の鼻歌に合わせて、アレクとエリスも塩のついたブラシでゴシゴシと歯を磨く。生活習慣というのは、とても大事だ。幼い頃からしっかりと身につけておかねば。うん、今日もスッキリした。まだ歯は乳歯だけど、永久歯になったら一生モノだからね。ブクブク、ペッと三人で口を漱ぐ。よし、本日も完璧な口腔ケアだ。


「今日も、街へ行ってお花を売るの?」

「うん、蓄えがほとんど尽きちゃったからね。これからは三人分稼がないといけないし」


 ドリスの襲撃後しばらく引きこもり生活をしていたこともあり、バラ色の生活を夢見ていた俺の貯蓄がついに枯渇した。それ自体には後悔は一切ないが、このままでは三人とも飢えてしまう。最初はドリスからぶんどった剣を売ることも考えた。だが、目を輝かせて剣を眺めるアレクの前でそれを言い出せず、結局その剣はアレクの物となっている。相変わらず夜一人でこっそりと起き出しては、その剣を使い月の下で素振りをしていた。そして、あれ以降は一般街でもドリスの姿を見ていない。ドリスの悪評の高さは、神殿の神官たちもよく知っていたようだ。俺が街中でその名を話題にしていた神官二人に気付き尋ねたところ、なんとオーレン商会を解雇されて田舎へと帰ったらしい。なんでも今回とは別件で複数の婦女への暴行が明るみとなり、オーレン商会の方でも庇いきれないレベルになってしまったからだという。

 あの事件以降もオーレン商会自体は存続しているみたいだが、特に目立った動きは感じられない。ドリスの言葉を信じるなら、アレクとエリスは既に死んでいる事になってるからな。ドリスも、二人の母親についた嘘を今更ひっくり返すこともないのだろう。

 だから、今日は二人を連れて一般街へと行くつもりだ。俺が付いていれば、多少の荒事もなんとかなるだろう。それに、今はエリスの癒しの加護もある。多少の怪我ももう怖くない。


「お金があれば、ネズミ肉よりいいお肉も食べられるよ」


 お金に困った俺は、ついに二人にも禁断の肉を食べさせていた。少しかわいそうだが、背に腹は代えられぬ。俺の弟妹になったからには、一人前のホームレスとなる義務があるのだ。


「え? でもネズミのお肉も美味しいし、別に私はいーよ」

「存外慣れるものだね」


 二人は、そう言って顔を見合わせ笑う。なんと逞しくなったのだろう。……だが、まだ甘い。俺は、こんな時のためにと用意しておいたセリフを言い放つ。


「確かにネズミ肉は美味しい部類だね。でも、君たちゴキブリって食べたことあるかい?」

「えっ?」

「ッ⁉」


 俺の、その言葉に二人は硬直する。よしっ、勝った。


「ゴキブリってあの黒い……」

「姉さん、もしかして⁉」


 ふふふ、驚いてる驚いてる。あの日以降は俺も食ってないが、それでも食ったという事実に変わりはない。ここぞとばかりに首をシャフ度に曲げて華麗に言い放つ。


「ゴキブリ? 食ったことあるよ」


 ふっふっふっ。どうだ、参ったか! これで姉としての威厳を……って、あれっ? 二人の距離が少し遠ざかったような。俺は一歩前へと出る。すると二人はズサッと一歩後ろへと下がる。……しまった! ドン引きされてしまった……。


「……あぅ。べ、別に二人に食べさせるなんてことはないから、安心して? ね?」

「そっかあ、よかったあ……」

「でも、食べたことあるんだよね……」

「し、仕方なく……ね」


 なんとか避けられるのは回避できたが、引かれてしまった事には変わりない。姉として蔑まされる事だけは避けねば。今まではサバイバーとして誇らしいと思ってた武勇伝だが、確かに内容はアレすぎる。あんましアレな武勇伝は、もうよそうと心に誓う。


「もし実入りが良かったら、串焼きでも買って食べようよ。美味しい串焼きの屋台を知ってるんだ」


 俺は話題を逸らすため、そう二人へと提案する。しっかり食肉として育てられた獣肉は脂がのって、それはまた美味なのだ。パサパサすぎるネズミ肉なんて、ハッキリいってクズだね。すると、案の定二人は目を輝かせて食いついてきた。


「ええっ、ホントー?」

「串焼きか。……父さんを迎えに行った帰りに、よく食べさせてくれたなあ」


 ククク、チョロいな。やっぱ、子供は食い物で釣るに限る。健ちゃんと優ちゃんは喧嘩して泣きわめいてても、アイスを買いにコンビニへ行こうって誘ったらすぐ泣き止んでたし。……あ、ヤベ、俺もアイス食いたくなってきた。


「じゃあ行こうかっ」

「「うんっ!」」


 俺は二人と並んで街へ向かう。

 今日は、これから雑草の花を売ってお金を稼ぐ。今回はアレクとエリスもいるから、スラムに一緒に住んでる兄妹という設定にして涙を誘おうかな。その後は、いつもよく野菜をオマケしてくれる野菜売りのおっちゃんのところで野菜くずを貰うんだ。あのおっちゃん、屑の中に厚みのある欠片を結構混ぜててくれるんだよなあ。ほんとありがてえ。それが終わったら、これまたよくオマケしてくれる串焼きのおっちゃんのところで三人分の串焼きを買おう。そのあと、もし広場で俺のオキニにしてるエルフのストリート吟遊詩人のお姉ちゃんがいたら、みんなで串焼きを食べながら歌でも聞こう。二人には、徹底的に快適なホームレスハウツーを教えてあげないと!

 俺は、この二年間こんな感じで一人気ままに生きてきた。でも、これからは一人じゃない。三人で、もっと楽しく幸せに生きていきたい。……いや、生きてみせる。この魔法と眼の力を使って、絶対に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ