キラキラした夢の場所
ゆみちゃんには大好きなお父さんがいます。
お父さんはいつも、ゆみちゃんがねる少し前にお家に帰ってきていました。だからゆみちゃんは「おかえり」とお父さんに言ってからねむります。「ただいま」と笑顔で言ってから頭をくしゃくしゃになでてくれるお父さん。その後「おやすみ」と言ってくれるお父さん。ゆみちゃんは大きくてやさしいお父さんが大好きでした。ただ、あるときからゆみちゃんのお父さんはお家に帰らなくなりました。
「お父さんは帰ってくるからね」
「ほんとうに?」
「ゆみがいい子で待っていれば必ずね」
「わかった!」
お母さんの言葉を信じて待つと、本当にお父さんは帰ってきてくれました。それから、お父さんはずっとお家にいてくれました。おかえりは言えなくなったけど、一緒にいられる時間が増えたのです。また、お父さんとお母さんとゆみちゃんの家族3人で、はじめて遊園地にも行きました。高いお空まで連れてってくれるかんらん車や、くるくる回るコーヒーカップに乗りました。遊園地はゆみちゃんにとって、絵本の中のようにキラキラとしていて、まるで夢のようでした。そして、お家に帰る前には、お父さんがウサギのぬいぐるみを買ってくれました。
「だいじにするんだぞ」
「うん!」
ゆみちゃんはしあわせでした。
しかし、しあわせな時間は長く続きません。また、お父さんがお家からいなくなってしまいました。
「おとうさんは?」
「またすぐ帰ってくるよ」
「わかった。じゃあいい子で待ってる」
ゆみちゃんは、お父さんが家に帰ってきてからのことを考えます。今度はどこに行くのかな。遊園地楽しかったな。また3人で行きたいな。その日の夜は、お父さんに買ってもらったウサギのぬいぐるみを抱きしめながら、ねむりました。
またしばらくたった、あるしずかな夜に、ねむっていたゆみちゃんは、お母さんの声で目がさめました。
「ゆみ。お父さんに会いにいこう」
「お父さんに会えるの?」
「もちろん。お母さんの車でいこうね」
「やったぁ!」
ゆみちゃんはパジャマのままでお母さんといっしょにお外にでました。
「お母さん。オバケでないかな」
車の中でお母さんに聞きます。お父さんに会えるよろこびで、ゆみちゃんは忘れていましたが、いつもならオバケがでるから、ねていなければいけない時間でした。
「そうだね。オバケはお母さんもいやだな」
お母さんはそれだけ言うと車を発車させました。
車からおりて、大きな建物に入ると、お父さんの部屋に案内されました。お父さんは、白くて不思議な部屋のベッドでねていました。
「ねぇ。お父さんは、ねているの?」
「そうだね。お父さん、ねちゃったみたい」
「そうなんだ。じゃあ起きたら、また遊園地に行きたいな」
「そうだね。また3人で行こうね」
「うん!お父さん、はやく起きないかな」
「起きてほしいね。でも、お父さんは疲れてるみたいだから、ねむらせてあげよう。ね、ゆみ」
「わかった。お父さん。おやすみ」
ゆみちゃんはお父さんに、自分が大好きなあの言葉をいいました。また3人で、あのキラキラした夢の場所に行けると思うと、とてもうれしい気持ちでいっぱいです。
ゆみちゃんのお父さんは静かに笑っていました。




