スマホ戦記リンクス
真夜中、灯りも消えたビル街の中をレン・鴻上は走る。
スマホに提示される位置情報には残り150mと表示されていた。
「ここか」
位置情報の示す先、暗い街に不気味な亀裂が浮いていた。
亀裂からは光が漏れているがどこか毒々しい光だった。
「仕事の時間だ」
レンはスマホを操作しアプリケーションを起動させる。
アプリの名前は【リンクス】。アイコンには鍵穴のマークがついている。
起動と同時にロック音がなり共に認証画面が提示される。
「同調」
[code−04認証 リンクシステムを起動します]
声帯認証によるロック解除がされる。手に持ったスマホから光が溢れ、全身に纏わりつく。
[同調完了 code−04 臨界]
光が収まるとパワードスーツのような紫のラインが入った黒いスーツを纏ったレンがいた。
煙を漂わせ重甲な機械音と共にリンクシステムcode-04【臨界】真っ黒な刃を持つ大鎌が刀身から赤黒い粒子を仄かに纏わせ顕現する。死神を彷彿させるそれは機械的な部分も相まって不気味な存在感を放っていた。
これが臨界を纏った世界の調停者『リンクス』としてのレンの姿だった。
スマホにインストールされたリンクシステム。
これがレンがリンクスである証であり、臨界を起動させるシステムでもある。
傍らに浮き続けるスマホには04の刻印が表示されている。
「臨界、ゲートを開くぞ」
[ゲートを展開します]
臨界を振るうと空間に裂け目が広がり人1人分のゲートが開く。
「これより戦闘を開始する」
ゲートに飛び込むと景色が一転する。
現実世界とはかけ離れた景色の世界
世界のあらゆるデータと強く結びついた世界で彼らが守る世界。
ピクセルアートのようにポロポロと崩壊を繰り返しているビビットカラーのビル街。
所々に裂傷が走り、壊れたテレビのようにノイズが走る。
どこか壊れていてそれでも幻想的な世界。
『GYAAAAAAAAAAAAAAA!!』
耳を引き裂くような咆哮と共にビルの1つが崩壊し消える。
「目標確認」
咆哮の先には化け物がいた。
ゲームでいうとドラゴンゾンビとでも言うのだろうか。
竜のような外見だがところどころが爛れ骨が剥き出しになっている。
羽も虫食いのようにボロボロで飛べるようには見えない。
そんなヤツが咆哮をあげ暴れている。
「竜型のディバイスか……厄介だな」
レンは化け物のことをディバイスと呼んだ。
メモリワールドを崩壊させる因子を持つ存在で放置させるとメモリワールドどころか現実世界にも影響が出る。データで結びついている分、ネット社会の現実世界にはダメージがでかい。
ディバイスを倒すことが出来るのはメモリワールドに行くことの出来るリンクスだけ。
リンクスは1人ではない。
「センパーイ!待ってくださいよー!」
「遅いぞ立花!」
「これでもコーコーセーなんで!親の目盗んでこっそり家抜け出すのがキツイんです!」
2発の銃声と共に真っ赤な二挺拳銃を構えたセーラー服の少女、アマネ・立花がやってくる。
code-13【凶界】の所有者 アマネ・立花。傍らに13の刻印を持つ赤いスマホが浮いている。
「あれが今回のディバイスですか?」
「ああ、やる気があるのはいいが飛ばしすぎるなよ、新人」
「わかってます!凶界装填!」
ガチりと音がなり凶界に弾が込められる。
無骨で重装甲な見た目の銃。どちらも少女が持つには大きく重そうだがアマネは軽々と扱う。
リンクスとして身体能力が上がっているからだ。
「援護します!」
アマネは大きく踏み込むとビルの壁を足場にして縦横無尽に跳躍する。
射撃武器である凶界を扱うアマネは新人というのもあって直接攻撃ではなく威嚇射撃や迎撃、援護といった後衛を担当する。身体能力が上がっているにしろ近接で挑むメリットもない。
「凶界!頼んだよ!」
[凶界充填]
赤い粒子が集約され凶界に吸い込まれていく。
赤い粒子をエネルギーとして取り込むことで威力の強化を行っているのだ。
それを横目にレンは臨界を軽く振るいディバイスへと駆け出す。
鎌から溢れる赤い粒子がさながら彗星のようにレンの通った道にラインを残す。
[臨界開放]
機械的な音声がなると臨界の鎌の部分が一回り大きくなる。
踊るようにその刃でディバイスを切り裂いていく。
「センパイ!」
レンに向かって振り下ろされた爪をアマネが銃弾で弾く。
アマネのサポートもあり、ディバイスの体に鎌による一撃を何度も叩き込む。
[臨界透過]
目で追えないほどの速度で放たれた連撃によりディバイスの動きが鈍くなる。
臨界の能力の一つ「透過」。本来は壁などを通り抜けることができる能力だがレンが透過させるものは空気だった。空気という大気の壁を透過することで空気抵抗を一切感じさせない。
レンの動きが加わって神速の技となった。
「立花!仕留めろ!」
「了解です!」
[凶界開放]
凶界の銃口の前に幾つものゲートが展開される。
「目標捕捉!撃ちまーす!」
アマネの声を聞きレンは大きく飛びディバイスから距離を取る。
直後メモリワールドが赤く染まった。
凶界から放たれた二筋の光線。
極限にまで圧縮されたエネルギーをまとめて放出する凶界の奥義的な技。
ディバイスは光に飲まれチリ一つ残らなかった。ディバイスの反応も消えている。
「えげつねえな。跡形もねえ」
「これやっぱ封印レベルっすよね。まあこれじゃないと威力あんま出ないんですけど」
隣に降り立ったアマネがそう軽く返す。
その手に握られた凶界からは熱が篭っているのか煙が上がっている。
「立花、一歩下がれ」
「ん」
先ほどまでアマネが立っていた場所にメモリーワールドに亀裂が入り男が入ってくる。
青いジャケットを羽織り、その手には深い藍色の槍が握られている。
「あれあれー?もう終わっちゃった感じ?」
「あー!タイチョー!遅くないですかぁ?もうセンパイと倒しちゃったんですけどー」
「ジンさんお疲れ様です」
隊長、ジンと呼ばれた男は軽い調子で2人に声をかける。
リンクスでも古参のcode-02【深界】の使い手、時崎ジン。
藍色の槍【深界】を地面に突き刺し、体重をかけ斜めに立っている。
ジンはアマネとレンをしばらく観察すると口を開いた。
「まあお荷物持った状態でこれならまあ大丈夫そうだね」
「言われてますよセンパイ」
「荷物はお前だバカタレ」
「痛い⁉暴力反対!」
臨界の縁で頭を一突き。
軽いがダメージが入ったのかアマネは頭を抑えながら後ずさる。
「背が縮んだらどうしてくれるんですか!」
「もとからお前はチビだから大丈夫だ」
「ひどいっ⁉気にしてたのに!」
「2人ともー夫婦漫才はいいからそろそろあっちに帰ろうか」
「「夫婦漫才じゃない!」」
「あははー息ピッタリ」
その光景を少し離れた場所から眺める一組の男女がいた。
女は崩れかけのビルの縁に腰をかけ男は背後に控えていた。
「あれがリンクスね……」
女のその双眸は3人を、というよりもアマネを捉えていた。
じっとりと値踏みをするような視線だが気づかれる様子はない。
「実際我々には及ばないかと」
「そう……まあいいわ。計画のためにも早めに摘んでおいたほうがいいわね」
「どういたしますか?」
女は歪んだ妖しい笑みを浮かべ男に指示する。
「ふふっ……まずはそうね……凶界の所有者を殺しなさい。手段は好きにして構わないわ。余裕があれば臨界のもね。深界はしばらく放置でいいわ」
「了解しました」
男は指示を受けると闇に紛れて姿を消した。
頬に手を添えアマネを見据える。
「悪く思わないでよね?凶界を手にしたアナタが悪いの」
蠱惑的な笑みを浮かべた女の隣には01と表示されるスマホが浮いていた。
「せめて計画の邪魔にならないでよね?」





