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ソレは恋愛じゃないっ!

 親友のヒロが教えてくれたバスケは、特に取り柄の無かったタツキに特技を与えてくれた上、人生を大きく変える事となる。中学に上がり同じチームでバスケ漫画のような青春を送る事を期待していた。


 しかし念願の同じ中学生に入る事になるも、ヒロにはタツキの知らない秘密があった。

 この春、中学生になる俺には憧れている親友がいた。少し長めの髪をサラサラと靡かせ、キレがよく多彩なドリブルをする彼は学校は違ったものの俺にバスケを教えてくれた師匠の様な存在だった。


 一言で言えば『秘密の特訓』


 毎日の様に、近所のバスケットゴールのある公園で修行した俺は、自分の入っているミニバスのチームでエースと呼ばれるまでになっていた。


 だけど俺は彼と中学で同じチームになる前に、その親友『ヒロ』に一度でも勝ちたいと思い春休みの最後の日に呼び出す事にする。


「タツキ、急にどうしたんだよ?」

「俺はヒロに感謝している。あの日声をかけてくれた日から今まで……」


 そう言ってヒロは少しため息をつき、大きめのパーカーのポケットに手を入れた。


「そんな事言う為に呼び出したのか?」

「まぁ、それが半分」

「タツキとは付き合い長いからな。なんとなくお前が呼び出した理由はわかるぜ?」


 俺は自分のボールを向け、覚悟を決めた。


「頼む! 俺と勝負してくれ」

「いつもやってるじゃねーか?」

「いや、遊びじゃ無く本気でして欲しいんだ」

「なるほど……いいぜ?」


 ヒロは手をクロスさせながらストレッチするといつでも来いとばかりにニヤリと笑う。


「泣いてもしらねぇぞ?」


 ヒロがゴールの方に歩くと俺は合図など無く普段通りに構えた。


「そのままこいよ?」


 俺より少し背の高いヒロ。1on1は毎日の様にしている。だが今までとは違う雰囲気にのまれない様に息を殺して俺はゴールに向かった。


 すかさずゴールラインをしっかりと塞ぐディフェンス、エリア内に入る事ができない。細かく入れるフェイントにも引っかかる様子は無い。左足を入れくるりとロールターンを掛けた瞬間、俺の手からボールの感触が無くなった。


「まだまだだな」

「何言ってんだよ。始まったばかりだろ?」


 威勢を張るも、ヒロは俺をヒラリとかわしゴールにボールがすいこまれて行く。これまでミニバスで練習したディフェンスが全く通用しない。


「これでラスト!」


 そう言ってヒロはニヤリと笑い少し深く守っていた隙を突くとスリーポイントを放ちそれは弧を描きネットを鳴らした。


 10対0……俺は無様に完敗した。

 はっきり言ってダサすぎる


「そう落ち込むなって!」

「いや落ち込むよ。まさか一回も勝てないとは思わなかった」

「タツキは気負いすぎなんだよ。そう言う時はどう動くのかは読みやすいからな」


 落ち込んだ反面、この憧れのままヒロと同じチームになれるという期待もある。だが、中学の強豪たちにも彼が負けるイメージが全く湧かなかった。


「中学では絶対勝つからな」

「……うん。待ってる」


 仕方ないなと言わんばかりの表情でヒロは明日の準備があると、そのまま振り向かずに帰る。帰り際軽く手を振るヒロは多分、俺が上手くなるのをずっと待っているのかもしれない。


 その気持ちに答えられない自分に嘆き、俺は日が沈むまで練習を続けた。



 次の日の入学式。

 学ランの首周りに違和感を感じながら中学校に向かう。昨日、ヘトヘトになるまで練習したにも関わらず晴れた空に清々しい気分だった。


 彼はもう学校に着いているだろうか?


 ヒロは待ち合わせはいつも早い。その性格かは俺は丁度会うのを狙っていた。


「あれ? タツキ?」


 案の定、ヒロの声で呼び止められる。

 これで予想通りここから憧れていたバスケ漫画のシーンの様に俺の全国大会へのバスケ生活が始まる……はずだった。


「ええっ!?」

「ったくうるさいな、急に大声だすんじゃねぇよ」


 ヒロの姿に、あたまの中が真っ白になる。


「ちょっと待ってくれ。それ【セーラー服】だよな?」

「まぁ、中学の制服だからな。パーカーで来る訳にはいかねえだろ?」

「いやいや、そこじゃなくて」


 何度みても、ヒロは【セーラー服】を着ている。出会ってから二年、彼いや彼女の一人称が俺という事もありそんな素振りは一度も無かった。


「お、俺のバスケ生活は!?」

「そんなのバスケ部があるだろ?」

「なんで普通に女の子ぶってんだよ!?」


 俺のツッコミにヒロはきょとんとした顔をする。


「おいタツキ、お前まさか俺の事男だと思ってたのか?」

「どう見ても男だっただろ!」

「こんなにかわいいのにか?」

「どちらかというとイケメンの部類だろ!」

「よせやい!」

「何で照れてんだよ!」


 納得はいかないが元々そうだと言うのならどうする事も出来ない。


「だから落ち込むなって、バスケならいつでもできるだろ?」

「俺の青春が……」

「そんな事言われてもだな、付けて来るわけには行かないだろ」

「その格好で下ネタは笑えねえよ」


 だが、当初の予想に反して元々整った顔をしていたヒロは男にとっては親しみやすい女の子として人気がある様だった。


「すげえな中学校は、先輩から連絡先きかれちゃったよ」

「はいはい」

「やっぱり俺モテるよな!」

「だから男のノリで絡んでくるなよ……」


 別にヒロがモテる事に文句はない。だがそれは男としてだったらの話だ。そんな中、見知らぬ同級生が声をかけてくる。


「なぁ、お前西村樹(にしむらたつき)だろ?」

「そうだけど、誰?」

「俺は東田春樹(ひがしだはるき)。お前もバスケ部にはいるんだろ?」

「おおっ! もちろん入るぜ」


 声を掛けて来たハルキは本来仲良くなる流れのはずなのだが少し浮かない顔をしている。


「あのさ、お前高野の彼氏なのか?」

「高野?」

高野弘美(たかのひろみ)だよ。仲良く話していただろ?」

「あいつ高野って苗字なのか。別にヒロとはバスケ友達なたけだぜ?」

「なるほどな……」


 何か納得した様なハルキ。フルネームを知っている彼はヒロと同じ小学校だったのだろう。


「ハルキはポジションどこだよ?」

「シューティングガードだよ。覚えて無いのかよ」

「すまん……」

「それはいいよ。まぁ一緒に頑張ろうぜ?」


 少しネガティブなハルキだが、俺はヒロの事を聞きたいと思っていた。だが、話を切り出す前にヒロの方から話しかけてきた。


「東田くん何はなしてるの?」

「高野……お前ら付き合ってないんだよな?」

「うん、友達だよ?」


 ん?


「変な噂立つから気をつけた方がいいぞ」

「ありがと。まぁ気にしないけどね」


 ん?

 ハルキが席に戻ると、俺は聞きたい事で言葉が溢れそうになりヒロの肩を掴んだ。


「ちょっとまて。お前なんで俺の時だけ喋り方ちがうんだよ」

「まぁ、外面?」

「あの喋り方なら俺だって……」

「女の子として接してた?」


 俺は「そうだ」と言い掛けてやめた。ヒロが言う様に女の子として接していたなら今の関係は築けてはいないだろうと思う。それでもその違和感がなんとなく嫌だった。



 入学してから一週間が経つと、予定通り俺とハルキはバスケ部に入る。同じクラスで経験者という事もありハルキとも打ち解け始めていた。


「タツキやっぱり上手いよな。シュートさえ入る様になれば先輩にも負けないだろ?」

「ゴールが高くなったからな。まぁ、直ぐに慣れてくるとは思うけど」


 キャプテンにも期待してくれているのか、スタメンメンバーと対戦させてくれているのには気がついていた。


「そういえばヒロが小学校の時どんな奴だったんだよ?」


 少なくともバスケをしている以上、何かしらの対戦する機会はあったはずだ。


「高野の事、気になるのか? 今と変わりねぇよ。他の学校に彼氏が居るみたいな話はあったけどな」

「それであれか……バスケはどうなんだよ?」

「タツキが教えてたんだろ? 体育で試合した時はそれなりに上手かったと思うぞ?」


 彼の言葉に耳を疑った。

 それなり?

 バスケ部の先輩は俺より上手い。だけどヒロより上手いとは思ってはいなかった。


 まさかヒロは……


 部活が終わると俺は急いであの公園に走った。

 俺の予想が正しければ、きっとヒロは今もそこにいて一人で練習している。


 予想通り、夕日の中パーカー姿のヒロがいた。一人で黙々とゴールに向き合い、仮想の敵と対戦している様にすら見える。


「ヒロ!」

「なんだよタツキ。部活終わったのか?」

「うん」

「最近部活で出来てなかったよな。久しぶりにするか?」


 ニヤリと笑い、ボールを投げた。学校とは違うバスケの上手い男のヒロ。俺の憧れていたヒロがそこに立っていた。


「ヒロ。なんで女バスに入らなかったんだよ」

「俺には狭いだろ?」

「お前、本気で出来ないからだろ?」

「何言ってんだよ……俺はいつも」


 そう言った瞬間、俺はシュートを撃つと綺麗な弧を描いてゴールに入る。


「これで一勝。勝ち逃げされたく無かったら放課後体育倉庫に来いよ?」

「タツキ待てよ!」


 納得出来ない様子のヒロに俺はそう言って、本当に来るかも分からない約束を押し付けた。



 そして次の日の放課後、俺は部活前の誰もいない体育倉庫で、セーラー服を脱がす事になった。


「ヒロ、脱げよ」

「一応後ろ向けよな……」


 後ろを向くと背後で着替えている音がする。あらかじめ言っておくと、別に彼女とエッチな事をするつもりなわけじゃ無い。脱がすと言ってもちゃんと着替えも用意している。


「こんなの着せてどうする気だよ?」

「ヒロにはバスケ部に入ってもらおうと思ってな」

「は?」


「もちろん、男子バスケ部の方だけど!」


 俺は振り返り部活の準備で部員が集まりだした体育倉庫のドアを開けた。

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