闇の中へ
それは私たちにとって最高の日々の幕開けになるはずが、最悪の展開の序章になるとは旅行に出かけた当初は思いもよらなかった話だ。
ホテルの入り口のドアなどから見える風景は一面にサイレンを灯したパトカー群があちらこちらとズラリと並び、宿泊客は軒並み待機を要請させられ、ホテルのロビーにはパトカー群に引けを取らないほどの宿泊客が待機させられており、もちろん私たちもその中の一人だった。
流れてくる噂によれば、最上階に近い部屋のに宿泊していた人物がチェックアウト時刻から数時間経っても来ないため、電話をかけても応答がなかったらしく、従業員が確認しに行ったところ露天風呂の中が一面血で覆われており、慌てて警察に連絡したことからこの騒ぎになっているわけである。泊まっていた人物は北嶋という人物らしいという噂も私は耳にしていた。
「せっかくの楽しい旅行だったってのに不安なことだね〜。まさか殺人だなんて」
「でも、まだ殺人って決まったわけじゃないでしょ?」
「いや〜殺人だよ。だって露天風呂が血の海になってたって言ったら、殺人でしょ。自殺ならそんな風景にならないだろうし」
凛とは今回の事件についての意見を披露しあったが、今日の予定であったビーチの散策やグルメ、史跡などを巡って楽しい思い出を作ろうとした最中に起こった出来事でこんな形で崩されてしまうとは本当に不運である。
◆◇◆◇
私たちや他にもロビーに集められた宿泊客は一人一人刑事から殺害されたと思われる北嶋さんという人について心当たりのあることや怪しいことはなかったかという聞き込みが行われ、私は北嶋さんの写真を見てハッとしたことがある。
この人、私と昨日の夜ぶつかったあの無愛想な人だ.......
今思えば、あの人、何かに追われているように慌てていたような雰囲気が思い起こされるが、まさかそれから1夜にして無惨な姿になるとは昨夜は思いもしなかった。
もちろん私はその違和感を刑事に話し、一応それなりの証言として取り扱ってくれるところだろう。
「それにしてもまさか昨日玲香が不機嫌で帰ってきた原因になった人が被害者になるとはねぇ......」
「そうね......今となってはあの時の無愛想は私に構ってる暇がなかったほどに追い詰められていた結果なのかもしれない......」
早く解決するといいな........。確かに私があの人の違和感にあの時気づいていたとしても何ができたかと言われれば何もできなかったと思う。ただ、今となってはそのことが余計に後悔として私の心に深く沈殿してしまっていた。
しかし、その犯人とは一体誰なんだろうか.........。
私の中にはその疑問もその時共に巻き起こることとなっていたのであった......。




