駅での集合
私、原田玲香が出版社の仕事を辞め、庵のいるこの職場に辿り着いてから早2ヶ月が経とうとし、外はより一層寒さが増し、日によっては雪の粉が塩を撒くようにパラパラとあたりに散開して雪の塊をあちらこちらに作り始める時期になってきていた。
この間にも来た依頼の整理や担当も板につき、中にはバケモノの関連を疑われながらも相談者の思い込みや杞憂に終わったものなども大半だったが、私はそれでもこの仕事に一定のやりがいを感じていた。初めはすぐに給料だけふんだくり、次の仕事までの踏み台にまでしてやろうと生意気な庵を見た当初は思っていたが、案外このガキにも可愛らしいところや頼り甲斐のあるところがあり、もはや居心地の良い空間になっていた。
そして、ここからさらに私たちを取り巻く環境は少しずつ、また着実に変化していくことにまだ気づくことはできていなかった......。
◆◇◆◇
「いきなり、駅に来いって.....あいつ無茶いいがって」
冬空特有の未だ地平線に赤い光は十分に灯っておらず、周辺も寝静まっているように暗く、静かである。
「タクシー!!」
私は必死に手を振り、あわや道路にこけて飛び出してしまいそうになるが、私の合図でタクシーは止まり、私は運転手に行き先を伝える。
「すいません。浦高駅までお願いします」
「浦高駅ですね」
真っ直ぐに庵から突然指定された駅に向かい、後で臨時の交通費をぶん取らないといきり立つが、タクシーは平然と浦高駅に車輪の回転を進め、車体を揺らす。
「着きましたよ。お客さん」
「ありがとうございます!」
清算した金額が表示され、その額を急いで支払うと私は駅の中へと入り、エスカレーターを登って、広場の方へと駆け足で向かう。
「遅いぞ」
「ごめん.....て、なんで私が謝らなきゃなんないのよ。急にあんたから連絡でこの駅に迎えっていうから急いで来たのに。後でタクシー代出してよね」
「強欲なやつだな.....まあ、いい。それにしても残りのあいつら遅いな」
いつものように掛け合いを重ねた後、庵は私の他にも集合していない人たちがいることを示唆し、私はさらにそもそもなぜ突然この駅に来るように指示したのかを聞き出す。
「ねえ。そういえば、なんでいきなりこの駅に集まるように言ってきたわけ?」
「言い出したのは私じゃないぞ。私は知り合いだ。お前はまだ会ったことがない人だがな」
「会ったこともない人?どんな人なの?」
「一応雑誌の記者だ。名前は奥澤輝人。かなり自由な人でな。時折自分が気になった取材先に私も誘ってくることがあるが、今回もその一貫だろう」
庵の6人の弟や妹、そして古賀さんらの警察関係者以外に新たな知り合いがいたことに瞠目するが、その発起人であるはずの奥澤輝人という人物は未だに姿すら見せていない。
「おそらく、その取材先を調べるために諸々準備してる途中なんだろうな。まあ、もう少しここで待ってろ」
冷たい石の椅子に座り込み、私もその隣に座り、奥に見える風景は家を出た時とは打って変わり、燦々と日が飛び出していることがわかり、楚々な光の道が駅内のエリアを照らし続けている。
「わぁ!」
「何!?」
その光景に酔いしれていると背中から私たちを脅かすような声をかける人物がおり、その溌剌とした少年のような声に私の耳は記憶しており、耳から伝わる情報でその記憶の倉庫の中から後ろを振り向くまでにその声の主の情報を取り出す。
「レギオじゃん!それにシスも!」
久方ぶりに二人と再会し、レギオはすぐにここでは仮の名で呼んでください姉さん!と諫言され、シスの能力での仮の姿......レギオは大浦律、シスは本庄周と名乗っている......の名前で呼ぶように訂正する。
「よし。二人が揃ったんなら、後は奥澤さんだけだな」
「先生ー!遅れてしまって申し訳ないです!」
噂をすれば影というようにおそらくその当人であろう奥澤輝人さんは庵を先生と呼び、こちらに近寄ってくる。
その風貌は茶色のコートに中には黒のセーター、灰色の少しブカブカとするズボンに黒縁のメガネをかけ、顎鬚には白髪が混じり、年の瀬を感じられ、年齢は40代後半と見られる。
「まさか、この方が新しいアシスタントの方ですか?先生」
「ええ。原田玲香と言いましてね。奥澤さんにはまだ紹介してませんでしたね」
「案外早く決まりましたね。原田さん。私奥澤輝人と申します。何卒よろしくお願いします」
「こちらこそ!よろしくお願いします」
その丁寧な口振りに私も挨拶を返し、せっかくなのでと奥澤さんの名刺も頂く。雑誌編集部ということもあり、私の前職のことも相まって妙な親近感が湧いてくる。
「では、皆さんそろそろいきましょうか」
こうして、奥澤輝人さんという新たな人物との出会いを果たし、私たちはまた新たな事件の高波へと航海に出航することになった......




