予言少女
「いました!」
その掛け声と共に周りに群がる捜査員たちは一斉にその首を向け、人通りはほとんど見られず、一帯を濃緑に染められた植物たちがザザッと風を利用し、自らを奏で、その外縁部では重く低い男たちの声がわっさわっさと雑音を轟かせ、ある一定の場所に屯し始める。
「これは.....」
そこに顔は化粧を施したように白くなり、スーツ姿の状態で倒れ、捜査員の一人はその姿を見て、絶句し、また一人は生存の可能性も視野に早期の治療を行うことを矢継ぎ早に発言し、現場は喧喧囂囂の様を呈していた。
その遺体の状況は何か惨殺されているわけでも血まみれになっているわけでもないのに、なぜ多くの経験を積んできた彼らがここまで焦っているのかはある一人の少女の発言によって引き起こされているものであった.....
◆◇◆◇
時間は日曜の午前9時を差し、程よく人々の往来も進行し、肌を突くほどの寒さも穏やかさを備え、全身を流れる寒気もある程度は緩和されている。
「ねえ。いつ来るのあんたの妹」
「もう少し待て。そろそろ来る頃だろ」
当然、私の隣にはこいつこと庵がおり、私たちは今最後の兄妹である.....サラというらしい......の到着を待っている。
そして、まずその大前提としてなぜ彼女を待っているのかと言うと、私たちは今メディアにも取り上げられ、巷で話題になっている予言少女こと萩原紫音への訪問をすることになり、今に至っている。
彼女はある時期を境に予言を的中させると話題を呼び、その予言は1週間前の遺体発見の予言にまで飛び火し、さらにその話題性に火に油を注ぐ状態となっている。
ちなみに今回の件は誰かからの依頼ではなく、庵が自ら調査はことを思い立ち、庵が言うにはこの予言少女の蠱惑の裏にはバケモノが絡んでいるかもしれないと豪語してのことだった。
私は最初はその意見に懐疑的だったが、庵がそう言うなら一応調べてみようと賛意を示すことにした。
「兄様ー!ごめん!遅れて」
カツカツカツとコンクリートとヒールが共鳴し、甲高い音を作りながら、こちらに近づいてきたのは頭には大きな黒いハットと肩の周りにファーをつけ、膝下までかかる厚い黒コートを来て、その下にも足を覆い隠すほどの長いスカートと高いヒールを履き、そこから伺える顔からは若干の厚化粧にハイビスカスに似た濃い紅色の口紅をつけたいかにもセレブの貴婦人のような女性が現れる。
「ギリギリだな。まあ。許してやろう」
「ちょっと道迷っちゃって今度から気をつけるって.....後ろの方は?」
両手を合わせて、遅れたことを詫びるその女性は庵の後ろにいる私を見て、キョトンとした顔を見せ、誰なのかと言うことを尋ねてくる。
「ああ。新しく入った原田玲香だ。皆にももう紹介してある」
「ああ!新しい人来てたんだ。私はサラ。よろしくね!」
「どうも。原田玲香です。よろしくお願いします」
私が頭を下げようとするといいのいいの!と言うようにその明快さはドルジほどではないにしろ、貴婦人のような絶美による圧力を感じさせないほどのもので、私も緊張がほぐれる感覚となる。
「じゃあ、玲香ちゃんって呼ばせてもらうね!私のことは呼び捨てでいいからね!」
その人形のような白い肌から見せるニカっとした笑顔は同性の私でさえ少し身を焦がされるようであり、異性であれば確実に1コロで心を奪われてしまいそうなほどだ。
「じゃあ、揃ったし、そろそろ行くか」
サラとも合流し、私たちは早速、その予言少女の自宅へ向かうことになった。
◆◇◆◇
「ここ?兄様」
「ああ」
一軒家がずらりと並ぶ住宅街の中の一角にあるこの一戸建てに予言少女とその家族は住んでいるらしく、庵はその家のインターホンを押し、屋内からの反応を待つ。
「は〜い。どちら様ですか?」
「昨日、そちらに一報を入れた安倍庵と言う者です」
「ああ!庵さんですか。今玄関開けますので少々お待ちください」
インターホンの会話が切られると、数分経って、ガチャっとその焦茶色の扉から鼠色のセーターを着込んだ女性が出迎え、私たちをどうぞと家の中へと招き入れる。
どうやらその女性は萩原紫音の母親らしく、父親は今会社に出勤しているらしい。今日は日曜で高校も休みで、彼女も家におり、庵もそのタイミングを見計らって今日の訪問に至った。
「すいません。今娘は自室にいて、さっきも声をかけたんですけど、まだ出てこなくて......飲み物でも用意しますので、こちらで待っていてください」
彼女は今自室におり、私たちのいる1階には姿を現していない。彼女が来るまでの間、お母さんの誘導で庵は一人掛けソファーに、私とサラは二人掛けのソファーに腰をおろし、テーブルの前にはお茶と少量の羊羹が置かれた。
「どうぞ。羊羹もありますので遠慮なく食べてください」
私の隣に座るサラはその羊羹を一目見て、目の一線にはキラキラと星芒のような光が浮かび、いただきますと言い終わらないうちについた爪楊枝を取って、口の中に慌てて放り込り、頬張る顔には笑みが溢れ、ほんとに羊羹が好きなんだということがこの場面だけで感じ取れる。
「ママ〜」
私が目の前に置かれるお茶の入った茶碗に手をかけようとした時、階段をとことこと駆け降りる音が鳴り止むと、自らの母親の名前を呼ぶ女性がリビングを塞ぐ扉を開け、突っ立っていた。
黒髪のロングヘアーに少し気怠そうなジト目と壁に寄りかかるような態度を示す彼女こそ数々の予言を的中させ、世間の脚光を浴びた萩原紫音その人が現れていた。




