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捉える像

未だ黄昏の夕暮れ時の今日この頃、私たちは事件のあった時刻まで時間を潰すため、近くのデパートなどでぶらぶらと本屋やら服屋などを徘徊し、私とドルジは完全に意気投合した格好で、一番年少であるはずの庵がそれを一歩引いたところから眺め、時たま庵にも話しかけるドルジは兄と妹という構図がよく似合い、はしゃぐ妹を庵がやれやれといった表情を浮かべながら、それを微笑ましく見つめている様子だ。


「ねえねえ!玲香!これどう?可愛くない?」


すでに玲香呼びに変わり、私に持ってきた冬物の黒の上着を見せ、私も可愛いじゃん!と言いながら、買ってあげようか?という衝動に突き動かされるほどにこの子の明るい魅力の色に染まりきっていた。


「え?いいの?それなりに値段するけど」


「いいよ!いいよ!せっかく来たんだし、それに私たち二人の出会った記念みたいな感じでさ!庵もさ。いいでしょ?」


庵も軽いため息をつきながら、今回だけだぞと言い、庵も庵なりで彼女に甘い部分を露呈しながら、承諾し、親交記念としてその黒いダッフルコートのようなものを買い上げ、わーい!とぴょんぴょん喜ぶその姿に私にも幸せの波及効果が押し寄せる。


「そろそろ出るぞ。もう夜だしな」


ふと腕につけるデジタル時計に表示される時間を見て、外に出ることを促し、私たちもそれに従い、暗影が空一帯を独占しながらも、地上においては都会特有の光の占有が嫌というほど行き届いてしまっている。


「ドルジ、今の所どうだ?」


「うん。まだ()()起こってないみたい」


確かに周りでは何も起こっていない。だけど、二人の会話の文脈からはまるでドルジがその発生する事柄を察知できるような風に解釈できる節を私は感じ取る。


「何も起こってないって、ドルジわかるの?そんなすぐに」


「わかるよ!実は私、一定の範囲ならバケモノの発する生命反応的なものをちょっとだけど感知できるの!」


凄いでしょ!と私に称賛の言葉を求め、私もその求めに能動的に応じる。ほんとにこの子は純粋無垢な今時の若者と同じなんだなということが改めて感じられる。


「ここでボッーとしててもしょうがないしな。少し周辺でも歩くか」


庵は進みだし、私たちも行こっか。と庵の後をついて行こうとする。


「.......待って」


ドルジはその場に立ち止まり、紫陽花よりも澄み切った青色の前髪が顔を覆い、俯き加減で影が彼女をブラインドしてしまう。


「どうしたの?ドルジ?」


私は突然俯いたことでどこか体調でも悪くなったかと気掛かりになったが、それは杞憂であることが彼女に近づいたことで明かされる。


ドルジの目はキッと先程とは打って変わって、狂犬的となり、獲物を視界に入れた狩猟豹のような眼光の鋭さを披露し、眉もそれを合わせるようにキュッと引き締まり、辺りを見渡す。


「兄者、玲香、おそらくどこかのビルに敵がいる」


この高層ビル群のどこかに敵が潜伏している。そう主張するドルジはごめん。先に行くと言って、持っていた自らの服が入れられている袋を私に預け、二人ともすぐに戻ってくると言い残し、彼方へ走り去っていった。


「ドルジ、一人で大丈夫かな」


「心配すんな。あいつはお前が思ってる以上に強さを持ってるやつだぞ」


生まれたての赤ちゃんに育んでいるように私は一人で向かっていくドルジに一種の母性のような過度な心配や気にかけを寄せ、庵はその過度に注がれている私の感情に戒めを与え、彼女を信じるように諭す。


「うん。そうだよね」


私も彼女を信じ、帰りをただひたすら待ち望むことを選んでいた。







◆◇◆◇


ドルジは自らが感じた本能の赴くままに敵をただひたすら追い続けていた。これ以上犠牲者を増やさせないとか私が皆んなを守るというようなこの10代の年頃なりの綺麗事とも取れる清純な正義感が彼女を突き動かしていた。


狭い隙間を駿馬を思わせる駿足でかけ、敵を追い続けた。

周りはすっかり暗く塗りつぶされた空により普通の人間であれば、バケモノの存在を感知することなど不可能に近い。


まだ、遠い.....早く見つけないと。


彼女は徐々に焦燥感に見舞われる。自分の遅れが大勢の中の人の誰かの命を奪うかもしれない。自分の失態でそんなことになるのだけは絶対に避けたい。


彼女の心臓はひた走り、体も熱を浴び始めているのがわかる。1分いや1秒ですら無駄にしたらそれでバケモノの動きを取り逃してしまう。


どこにいるの......と彼女の心は叫ぶ。まだ捉えきれないバケモノの存在に早く近くに来てくれと願う矛盾した心境に覆われる。


そうして、また小さな1歩を踏み出そうとした時、彼女の脳内に何か黒い布を被り、1本の棒のようなものを持つ影がフィルムを投影するように映し出される。


荒波をゆらゆら立てるようにその像はもやもやしているが、確かにこの近くにいる何かを捉えている。

その像はゆっくりではあるが、全体像がパズルを紐解くように様々なパーツが繋がりを見せる。


ドルジは瞬時に自らの後方にあるビル群の一角に視線を放つ。そこには黒い布で全身を隠し、手には1丁のスナイパーを持つ人型のバケモノの反応を探知する。


その勝負はまさに今一瞬のうちに始まろうとしていた。







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