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風の使徒シス

俯瞰して写されているその世界はかつての白黒テレビを思わせるほどに色彩を失い、ぽつりぽつりとある孤独な街頭が僅かにその情景を照らし、その漏れる光によって辛うじて元々の色が朧げながら視認できる。


「ねえ。ほんとに現れんのかな」


「お前は黙って見てろ」


「はいはい」


恒例となっているこの諍いに多少は耐性がつき、適当に受け流す術を身につけ、私も進歩したなと自らを自画自賛する。


「ん?....あれは?」


すると、私たち二人の肩の間から亀のようにひょこっと顔を出しているシスが何かに気づいたように発声する。


「お前ら、音立てるなよ」


あんたもな。というツッコミは置いておき、確かに奥の方で逃げ水を見ているようなモヤモヤとした黒い物体が視覚に投影される。


身の丈は見た感じでは庵とさほど変わらず、形はゆらゆらと不安定であり、スライムのようにぐにゃぐにゃとなっている。顔なども全く把握できず、本当に異生命という呼び名が合致している。


「あのゴミ袋に近づいてますね」


忍び声でシスは敵の行動内容を伝え、実際目の前には

千鳥足で例の事件があった現場へと鈍足に向かう。

徐々にその姿形は鮮明となり、よく見るとスライムのように軟性な体はチリチリと黒色の体全体が波打つように

揺蕩った様子を見せ、それはすぐに黒炎を纏っているのだという予測が記憶との連結から導き出される。



「兄上、私が参ります故このまま隠れていてください」


そう言うとシスは天高く宙を舞い、黒炎のバケモノの背中を取るいちに着地する。黒炎も軟性な体を歪め、互いに相対した。


「........」


その黒炎の体から放射されるガスのような気体は鎧のようにバケモノを覆い、その言葉なく隠れている私たちに向けられている小さな背中からは怨嗟や寂寞とした感情を抱え

それに囚われているような印象を与える。


ザザザと風に共鳴する羽団扇を左手1本高く掲げ、まるで軍勢を指揮する前線の将軍を思わせる仕草である。


「!!」


その時、突如、温厚さを保っていた風速は凶暴さが増したように激しく、吹き荒れ始め、私たちはすぐに倉庫の裏に完全に身を潜め、籠城のような形になり、強風の音律と

それに打たれる倉庫の悲鳴のような音でどれほどのものかを伝えている。


「.......」


多少体を傾ければ、戦況はなんとか観察できる。

私は中腰になり、庵の頭越しにその様子を見分する。


流石の黒炎のバケモノもその烈風にはたじろぎ、台風の前夜のように体の炎の波調は荒れ狂っている。


一方のシスの方はそれが追い風のように滔々と吹き、その風自体を自らの武器あるいは軍勢のように扱っている。


「久々にこの風を浴びたが、やはり尋常ではないな」


庵も顔を覗かせ、悠長に風についての記憶を語る。


「.......」


するとその黒炎は瞬時にパラパラ漫画を捲るが如くに体が散開し、火の玉のようになり、それを跋扈させシスを四面楚歌の状態に陥らせる。


「ほお。中々厄介な相手ではないですか」


不敵に譏笑を露わにし、自らがどのような状況に置かれているのかまるで客観視できていないような相好だ。


「いくら、虚勢を張って威圧しようとしたところで貴様の

体は一つであることは変わらん。その証拠を今から貴様の体自身に味合わせてやろう」


黒炎に包囲され、その圧力の結界を虚勢を斬り捨てる

その泰然とした姿に包囲の輪が少し緩み、シスの叫声が

迎撃となって黒炎の玉の後退を引き寄せている。


すると、先程まで吹き荒れていた強風は渦潮のように黒炎の玉を二重包囲する形でシスを中心に集結し、それに飲み込まれる形で黒炎の玉はそのミキサーの中に閉じ込められてしまっている。


「これでは身動きもまともに取れまい」


渦潮の風の中から微かに見えるシスの形影からはその風の支柱となり、狂瀾怒濤の竜巻はそれを元に形成されている


「すご.....」


私も思わず見入ってしまうが、絵の具を混ぜるように竜巻の色は黒く濃さを増す。


「そろそろ頃合いか」


その言葉と共にシスの左手は再び高く上がり、混ぜ込まれた竜巻はクレーンで釣り上げられるように空中へと引き上げられていく。


「流石のバケモノもあれだけの攻撃喰らっちゃひとたまりもないでしょ」


突風は収まり、平穏が辺りを支配した時に私たちは倉庫の裏からようやく顔を出し、私の心に愁眉が開かれる。


「そろそろ仕上げか」


庵も同時にそれを確信し、目線の先はあれほど巨大だった竜巻はひどく縮小し、その中も狭隘となっていく。


「そろそろ終わらせましょうか」


竜巻は極端な捻れを引き起こし、雑巾のような形状となると、次は上下から圧迫が加えられ、線状のものから段々と

球体となっていき、最後にはその球体は微かな爆発音を伴って、残響が鼓膜に語りかける余韻が残るのみだった


「流石だな。シスは」


戦いが終わり、労いの言葉をかけに向かってきた庵に

照れくさそうにしながら、頭を掻くシスの姿にはレギオや

勘十郎と同じ、弟であることを改めて認識させる。


「意外とあっさりだったね」


「そうだな。だが、まだ根源を断ち切ったわけではないはずだ」


そうだ。言われてみればここがあの黒炎のバケモノに関する根源に直接関係ある場所ではなく、単なる最初の事件現場というだけだ。それを探すのが今日の目的であった中で

たまたまこの現場で戦闘へと発展した


「今回は当たりだったが、次はどこから復活するとも限らんしな。いずれにせよしばらくはバケモノも活動はできんだろう」


倉庫裏に隠れ、あまり動かなかった影響から庵は目一杯腕を高く伸ばし、凝り固まった体をほぐした。


「今日のところは一旦引き上げるか」


そして、元来た道に沿って帰ろうとしたその時、背後から

身の毛もよだつような邪悪な視線が突き刺さり、それは他二人の感じ取ったのか、その方向へと顔を向ける。


「もう復活したのか」


庵がそう言い終わった瞬間、私たちの上空には黒玉の塊が

浮かび、ゆっくりとその形を人型に変え、体に纏った黒炎は先程とは比べ物にならないほどの豪炎を見せ、瞬足のスピードで空を飛行し、どこかへ逃走を図る。


「兄上、私が後を追いかけます」


「わかった。私たちも遅れるかもしれんがすぐ追いつく」


では。とシスは羽団扇を瞬時に振り上げると体は小振りな

竜巻に覆われ、それに乗る形で黒炎のバケモノの後を追う


「遅れないように走るぞ。お前も全力で走れよ」


「わ、わかってるって」


こうして、日をおかずに黒炎のバケモノとの戦いは延長を迎えることになった。








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