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赤髪の騎士

今回はカイル視点になります。

カイルは、ランダン王国で古い歴史を持つラスティーダ公爵家の嫡男として生まれた。両親は、典型的な貴族といったところだろう。愛はなく、義務としてカイルという後継を作り出したら、後は全て使用人に任せきりだった。物心ついて初めて両親の顔を見たのなんて、後継としての教育を始める六歳になった時ではないだろうか。


だが、そのお陰でカイルは生き残ったといえる。


今ほど異端の力が教会から危険視されていなかったとは言え、歴史ある公爵家から異端の力をもった子供が生まれたなどと知ったら、両親は躊躇いなくその事実を抹消しただろう。


使用人たちも、カイルの周りで起こる現象に恐怖はしても、当主に貴方の息子は異端の力を持っていますよ、などとは報告しなかった。したら最後、子供の抹消とともに自分も始末される事が分かっていたからだ。

そしてカイルは早熟な子供だった。三歳の頃には、自分の力が周りに恐れられている事、異端の力がバレてはいけないという事を感覚的に理解していた。力が暴走しようとする度に、それを無理矢理身の内に沈めたが、それは酷く体力を消耗させた。初めの頃は何度も熱を出し、一人ベットで蹲り耐えていた。


段々と制御に慣れ、後継としての教育も進んでいた十二歳の春、カイルは父によって王城に連れられ、王子であるオースティンに出会った。

所謂学友というものに選ばれた訳だが、カイルは今まで自分を恐れる使用人や家庭教師としか接してこなかったため、同年代の者とどう付き合えば良いのか非常に戸惑っていた。しかし、オースティンは初めての友達に浮かれカイルを様々な場所に連れ出し、寡黙なカイルに代わってたくさんの話を提供してくれた。初めて恐怖や無関心以外の感情を向けられ、カイルも心を開く様になるまで時間はかからなかった。


次期王として、オースティンは大きな責任を背負っていた。親友として、少しでも支えられればとカイルは剣の腕を磨き騎士団に入隊した。どんどんと階級を上げるカイルに親の七光りだと見下してくる者もいたが、実力で黙らせた。父である公爵も、与えられた仕事をこなしておけば文句は言わなかった。


いつの間にかカイルは王族を側近くで守る近衛騎士まで登り詰めていたが、その頃から周りがきな臭くなってきた。王弟にあたるラヴァル公爵が不穏な動きを始めたのだ。教会の権限強化を訴え出し、教会は『魔の者』打倒のため神兵という武力を持ち出した。

現王が元気なうちはまだ均衡を保てていたが、その王も病に倒れ政務が取れない状態となってしまう。ピリピリとした緊張感が王城を満たす中、ついにオースティンに暗殺者が放たれた。


それは王弟主催で開かれた王城でのガーデンパーティーの最中だった。突如複数の覆面の暗殺者が乱入し、その場は混乱の渦に突き落とされた。護衛としてついていたカイルは真っ先にオースティンを庇い暗殺者たちと剣を交わした。しかし相手も相当の実力があり、複数相手に手間取っている内に木の上からオースティンを狙う射手の存在に気がついた。このままでは間に合わないことが、直感で分かってしまった。

カイルはその時、初めて意図的に自身の異端の力を解き放ち、目前の敵を突風で吹き飛ばした。さらに振り返ると、飛んできた矢ごと木の上の敵を暴風で突き落とす。風が消え、暗殺者の呻き声だけが響く会場は台風が過ぎ去ったかの様な酷い有様だった。


「カイル、お前…」


オースティンが声をかけようとしたその時、先程までいなかった兵士たちを引き連れ、ラヴァル公爵が会場へ踏み込んできた。


「カイル・ラスティーダ!その方、魔の者である事を隠し王子に取り入り、国に争いを齎そうとしたな!その罪、万死に値する!」


ラヴァル公爵の言葉に、衛兵たちは恐怖の視線でカイルに剣を向けた。カイルは諦めた様に剣を鞘にしまうと、両手を上げる。


「さっさと捉えろ!」


公爵の掛け声に、ワッと複数の衛兵に地面に押し倒され拘束される。その場に待ったをかけたのは、無表情に佇むオースティンだった。


「待てっ!その者はこれより王都から追放とする。さっさと外に捨ててこい」

「オースティン、何を言っている?魔の者は処刑が当然。まさか庇っているのではあるまいな?」

「叔父上、王族の付近に魔の者がいたとなれば外聞が悪いゆえ、隠蔽するだけですよ。王城で処刑など行えば、下手に噂がたってしまう。それに、この事でラスティーダ公爵家にも恩を売れるでしょう」


オースティンの言葉に面白く無さそうに鼻を鳴らすと、ラヴァル公爵は忌々しそうにカイルを睨み、衛兵へ指示を出す。


王都を追放された後も、何度も刺客を放たれた。王位に執着をみせるラヴァル公爵にとって、その動きを悉く潰してきたカイルはこの機に抹殺しておきたい存在だったのだ。それらをかわしながら、カイルはただ生きるために放浪を続けた。

オースティンがカイルを庇う為に追放を命令した事は分かっていた。オースティンも現王であるラーファルトも、異端の力をもつ者の排斥には否定的だったから。それでも、時間が経つごとに本当は魔の者なんかとの繋がりを隠滅する為、言葉通りの意味だったのではないかと考えてしまう事がある。正直、目的もなく生きていくことに意味を見出せずにいた。



ーーー煌めく星の光を瞳にたたえた少女と出会ったのは、そんな時だった。



自分がずっと隠していた力を、誰もが拒絶し嫌悪する力を、キラキラとした瞳で人を助ける為の力なのだと言いきる少女。

汚れなき金髪が美しいとされている貴族社会で、野蛮な色だと嘲笑されてきた赤髪を、まるで宝石の様に、綺麗だと瞳を輝かせていた。

彼女の瞳の色について話した時、何故か本人は青色の瞳の中に瞬く金色の光を知らないようだったが。


五百年も先の未来からやって来たという、信じられないような話をするが、嘘は言っていないのだと分かった。泣き虫で、これだから女は面倒だとはじめは思ったが、今まで見てきた女性とは違い、ソフィアはグッと涙を拭うと前を向き、一人でもしっかりと立ち上がった。

それどころか、自分の事だけでも手一杯だろうに、人々を助ける為に自ら危険に飛び込んでいった。


正直、あまりにも馬鹿な行為だと思った。何故、知りもしない人の為に尽くそうとする?助けたその人々は、ソフィアに牙を向いて裏切ってくるかもしれないのに。今までカイルは飽きるほどそんな奴らを見てきた。

グズグズと思い悩む自分に苛立ち、カイルはソフィアと別れた後は次の町へと向かっていた。


たった数日、共にいただけ。次の町へ送ると言ったのだから、約束は果たしたはずだ。


だがーー


ソフィアはきっと、捕まった時の恐ろしさが分からない訳ではなかった。少し話していれば分かる程、彼女はとても頭が良く、洞察力があったから。それでも、人の命を救う事を止めようとはしなかった。

ーーあんなに、震えていたくせに。


「くそ、」


関わりなんて、本当に数日共にいただけなのに、このまま見捨てる事にどうしようも無い躊躇いが生まれていた。

きっとソフィアは精一杯人の為に治療をするのだろう。それでも、魔の者と見なされ傷つけられてしまうかもしれない。ソフィアは、それでも歯を食いしばって人の為に尽くすのだろう。

しかし、神兵に捕まろうものなら、きっと躊躇いなく殺されてしまうーーー


「ああ、クソッ!」


片手で頭をガシガシ掻きむしると、カイルはバッと後ろを振り返ってもときた道を駆け出した。


戻ってきた町で、神兵が廃村に向かったという話を聞いたカイルはフードが捲れるのも構わず廃村へと駆けた。

ソフィアが踏みつけられ、剣が振り下ろされようとする光景が目に入った途端、カイルは目の前が真っ赤に染まるような怒りを覚えて自身の剣に手をかけた。ソフィアに振り下ろされる剣をすんでのところで弾き飛ばすと、他の男たちの意識も刈り取った。


振り返った先でみたソフィアの腕は、痛々しく赤に染まっていて、もっと早く来ていればと後悔がよぎる。しかし涙を流しながらも花が綻ぶように笑ったソフィアの笑顔を見て、守れて良かったと、心から安堵したのだった。


光をたたえた美しい青色の瞳から流れる涙は、何故かとても綺麗だと思った。自分は傷つきながらも、病の人々を助けられて良かったと心から嬉しそうに浮かべたその笑顔は、夜の闇の中輝く星の光のようにカイルの心に光を灯した。

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