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飛ばない僕と、空を行く君と  作者: つこさん。
第二章

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25羽 「どこからだよ」 「そりゃ、ぜんぶ」①

「どうしてこうなった」

「それは俺がおまえに聞きたい」


 所はテルク=ファル、要塞都市ファルガント。時は真夏。僕は心を無にしようとなぜか脳内でうろおぼえ枕草子を暗唱している。素直な感想が口から出たら、即座にタルクから鋭い声でチクリ。僕に聞かれても。どうしてこうなった。

 僕らが滞在している、でっかい宿泊施設。なんだか偉い人しか使えない場所らしい。日程調整とかあって、移動疲れをゆっくり癒やして、それから。ちょっと遅めの朝食を、よかったらお部屋ではなく休憩所でいかがですか、そちらでしか提供できない氷菓とかがありましてー、みたいな案内が施設従業員さんからあって。

 のこのこやって来た僕ら。タルクは食いしん坊だからなおのこと。そしたらね、なんかいい感じに席がセッティングされていて。


 キレイに着飾ったキラキラな若い女性が何人もいらっしゃいました。

 えっとお。僕ら、朝ごはん食べに来たんですけどお。

 平たく言えば、集団お見合いの場に放り込まれた、そういうことです。


 扉はしっかり外から閉められているようです。タルクがガチャガチャやっているときに、部屋の右奥から「やあ、おはようございます。エルシ公翼はおひさしぶりです。そして――初めまして」と男性の声。それを聞いて、タルクは目をつぶって深い息をついた。


「判定師ならぬ……鑑別師ヨータ殿。お名前はかねがね。どうぞ、お座りください、お二人とも。いっしょに朝食をいただこうではないですか」


 すたすたと僕たちのところへやって来たのは、年のころはたぶんキャラヤと同じくらいの、きちっとした服装の男性。ハチミツっぽい色の髪の毛に青い瞳で、苦労してそうなほうれい線がくっきり刻まれた顔。うん、たぶん偉い人。タルクが顎をしゃくって僕に座るように促してきたので、勧められた席に座った。タルクは僕の隣へ。


「――あらためまして。タルクム・ブラズヴェルと申します。テルク=ファルでは、趣味で国防をあずかっております。たまたまファルガントに立ち寄りまして。ヴェルク=シーヴィを代表するお二人とご一緒できて光栄ですよ」


 国防? 防衛庁長官てこと? 趣味でやれるの? ブラズヴェルさんが話しながら自分も席に着く間、給仕の人が僕やタルクに水を注いでくれて、前菜がすっと出てくる。あ、いちおう朝食は提供されるんだ。しかもコースみたいの。とりあえず僕は水を飲んだ。下手にあいづちとか打ったらまずそうだから、黙っておく。

 長いテーブルの向こう側には、キラキラ女性たちがたくさんで、僕が水を飲んだのを合図にしたみたいに、一斉に席へ着いた。なにそれこわい。もしかして毒とか心配した方がいいのかな、と思ったら、タルクが無言でガツガツ食べ始めたので、僕も二股フォークを手に取った。

 でもさあ……じっと観察されながら食べるって……ちょっと。グラより猛禽類っぽい目で見られてるんだもん……。


「たまたま今ファルガントで、音楽祭が催されておりまして。こちらのお嬢さんたちはそこで楽器の腕前を披露するためにテルク=ファル中から集まった、私の知己の娘さんたちですよ。いやあ、こうやってここで、公翼殿と鑑別師殿にお会いできるとは。なにか、運命的なものを感じるね?」


 そう言って、ブラズヴェルさんが一番自分の席に近い女性へ話を振った。その女性は「本当に」とほほ笑んで、僕と目が合うとちょっとだけ立ち上がって「イグネラでございます」と言ってもう一度座る。他の女性たちも同じような仕草で順番に名乗って座った。当然覚えられなかった。


 あんまり美味しい朝食には思えなかったかな。とにかく、ブロムのときみたいに下手な返事をして約束を取りつけられても困るので、僕はひたすら無言でやりすごした。タルクもそうしていたし。基本的にブラズヴェルさんが話を振って、女性たちがキラキラと答える。その繰り返し。

 休憩所でしか提供できない氷菓とやらが出てきたあたりで、僕はどのお嬢さんがどんな楽器を嗜むのかなんとなく把握した。なんか、もしかしたらそれを伝える目的の場なのかなって気もした。タルクがすごくおもしろくなさそうに氷菓をかきこむ。まって、なんでキーンってならないの。僕が食べ終わるのを待っているっぽかったから、僕もがんばって早食いしたけど。

 で、食べ終わったら目線で合図されて。僕は立ち上がった。すると、タルクに続いてブラズヴェルさんが、そして女性たちも立ち上がる。


「ご一緒できて幸いでございました。また佳き日に」


 僕らがその場を後にするとき、ブラズヴェルさんがそう言った。僕は学びを得ていたので、それにもなにも返さずに休憩所を出た。


「……まあ、なにもしゃべらなかったのは正解だ」

「そういうこと最初から言ってほしい」

「おまえがなにを知らないか知らないんだよ」

「それはそう」


 お互い前を向いて一心に部屋へ向かいながら、小声でそんな会話をした。僕の部屋に入って、念のために翼騎兵隊の人にドアの番人をしてもらってから、僕はタルクに言った。


「あのね、僕、この世の中で常識とされていることの、基礎から知らないから」

「基礎って、どこからだよ」

「そりゃ、ぜんぶ。あいさつのしかた、食事のしかた、そんなこともわかんないし、どこで話すべきかとか、そういうのも」

 

 タルクは、なんかわかんなそうな顔をした。こりゃダメだ。僕は自分から積極的に疑問を投げかけなきゃいけないな、と今さらながら思う。


「たとえば。さっきのことでわかんないことがあるから、教えて。あれは、お見合いだったの?」

「んー、そんなもん?」

「それにしては、集団すぎるっていうか」

「おまえが興味示した女を、今度個別にあてがうんだろ」


 あっけらかんと言われて、僕はちょっと大きい声で「まじかよ。示してないけど」と主張した。タルクは「だから、正解だって言っただろ」と言う。だからそういうのを事前にお願いしたいんだが? これ思ってもムダ?


次の更新は、16日(月)7:00~ です

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