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飛ばない僕と、空を行く君と  作者: つこさん。
第二章

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24羽 「今日一日このままな!」 「で、なにこれ?」②

 テルク=ファルは、東西にめっちゃ長い国土らしい。ヴェルク=シーヴィとはその西端の国境で隣合っているとのこと。

 この世界線では、地図がざっくりとしか存在しない。測量技術の問題というよりも、それぞれの国が国防のために秘匿している、というのが実情みたいだ。なので僕も、タルクから黒板へだいたいの位置関係を描いてもらって把握しただけ。タルクもそう詳しく知っているようでもなかったしね。それぞれの国の主要都市だけ知ってる感じ。紙の地図は国ごとに厳重に管理されていて、所有は登録制だって。

 と、聞いて。あれ、前にタルクからヴェルク=シーヴィのざくっとした地図見せてもらったよな。もしかしなくても、めっちゃ高価で機密情報なやつじゃん。なんでそんなものサクッと見せてくるんだよ……。


 お腹がすいたあたりで、目当ての街の手前まで来た。手前っていうのは、城壁都市だから。お城ではないけどね。まずは、通常なら国境のときよりは軽めの検閲が入るんだろうけど、当然のように僕ら一行は免除された。僕らが外交官扱いだっていうよりは、ヴェルク=シーヴィの国を挙げて送り出してくれた要人二人を怪しんでいる素振りとか、今後のおつきあいを考えたらぜったいダメだろうしね。

 あと、翼騎兵隊。なんかテルク=ファルでわりと評価が高いみたい。タルクの公翼という立場はもちろんのこと、僕ら全体を丁重に扱ってくれている。それに気づいたのは、開門されて通るとき、両サイドにテルク=ファルの兵隊さんたちがズラッと並んで、休めの姿勢で右手を左胸に当ててくれたから。なんかすごい。壮観だった。

 以前、ムルナヴェンから引き揚げるときに通過した町みたいに、市民が待ちかまえてお祝い、という手作り感あふれる出迎えではなかった。

 統率のとれたセレモニーって感じかな。街道沿いに市民はたくさん居たけれど、兵隊とかおまわりさんがめちゃくちゃ規制してくれている。おかげさまで花輪とか花冠とか身に着けて軟禁されることもなく逗留先の施設に到着できた。それなりに移動疲れはあるし、ありがたいね。


「では、本日はこちらで失礼いたします」


 僕に宛てがわれた部屋へタルクが来てソファに伸びていたときに、それがわかっていたみたいにブロムがあいさつに来た。すんごいにっこにこ。未だかつてないレベル。タルクは起き上がることもなく「さっさと、行け」と言った。ブロムは「ええ、もちろん!」と即答。


「愛する我が妻の元に! 身だしなみを整えてから! 参ります!」

「おまえいっつもヨータ並みに小綺麗にしてるだろうが……もういい、暑苦しく語られたらかなわん、家帰れ!」


 あっ、ブロムのお家、ファルガントにあるんだ? 妻帯者? まあ意外ではないんだけども。僕が「お疲れさまでした、ゆっくり休んでください。奥様によろしく」と言ったら、タルクが顔だけあげて「あっ、バカ!」と僕へ言った。


「もちろんです鑑別師ヨータくんから我が妻へよろしくとの言伝たしかに承りましたいやー妻を慮ってくださるとはなんて御心のやさしい方なんだまさしく我が妻ドランタのように美しい気品を備えていらっしゃるそうですね妻ですか我が妻はその心根の清らかさだけではなく見た目も愛らしく――」


 立て板に水のようにのろけが始まった。僕はあっけにとられてあいづちも打てない。タルクが眉根を寄せて天井を見上げて、盛大にため息をついた。……なるほど、ごめん。


 結局ブロムは小一時間話していたんだけど、タルクが「その愛妻が待ってるんじゃないか」と言ったら我に返って「待っていてね、ドランタ!」と嵐のように去って行った。けど、会話とは言えないブロムの一方的なおしゃべりの間に、僕はいくつかの約束をさせられてしまった……気がする。


「……ねえ。僕、もしかして、なんか厄介な約束しちゃったかなあ?」

「自覚はあったのか。……俺は知らんぞ」


 具体的に言うと、帰れる我が家があって、そこに愛すべき存在があるという尊さを説かれた。そしてその話の流れで、僕がそんな幸福を味わうにはやはり身を固めて一国一城の主になるべきだという、古き良き言説を唱えられて。

 で。


「……もしかして、これ、キャラヤに、怒られる……?」

「知らん。自分でどうにかしろよ」


 ソファの上で丸くなったタルクを問い詰めたら、じつは以前タルクも同じことをされたらしい。


「あいつは、そういうヤツなんだよ」


 ブロムを鬱陶しがっていた理由って、それなのか。僕は心底感心したような、どこまでが本当でどこからが計算なのかわからないブロムの言動に空恐ろしさを感じるような、そんな気分。


 いやいやいやいや。どうしろと。

 テルク=ファルの高官のお嬢さんたちと、お見合いの約束をさせられて、しまいました。僕。

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