23羽 「鑑別です」①
「だろうねえ……グラの羽根も持って行っちゃったの、未だに謎だけど」
「それは、当て推量はできる。おそらく、おまえの呪いに使われていると思われたんだ」
「あー」
呪いじゃないって、知ってるのタルクとハッラさんとライラちゃんぐらいだしね? ハッラさんはまだ、鑑別技術を呪いっぽいと思っている節はあるけど。ライラちゃんは、だれかに説明できるほど理論的に理解しているわけでもない。それに今は弟のヨルタくんにぞっこんで、カンベツはしていないっぽいし。今後もしない方向に誘導で、っていうのは、酒の席でハッラさんとこそこそ話した。もうこりた、って言ってた。それはそう。
で、タルクが家を引き払ったのは、いろんな理由があるみたいで。なににつけても言葉足らずなタルクだけれど、状況説明みたいなのが不得意らしい。公翼ってそれで務まるんだろうか。
とりあえず聞き出したことによると、ヴェルク=ライナの人間が入ったとわかっている場所に、留まるわけにはいかないんだとか。
「そも、俺を含めてあの集落は、どこにだれが住んでいるかを公表していない」
「あー、そうなんだ? たしかに表札とかはなかったかも?」
警備上、それが必要なんだろう。重役っぽいタルクも住んでいた場所だしね。言われてみればお隣さんの名前すらわからずじまいだったな。もしかしたら総入れ替えするかもって。そっかー、それで引っ越しみたいに引き揚げたのか。
で、僕は。一度ヴェルク=シーヴィの首都であるヴェルンシーヴァへ行く。そこで、なんかキャラヤに会ってなんかしなきゃいけないらしい。そのなんかってなんだ。タルクの説明不得意も度を越していると思う。
グラはヴェルクライナに残って、引き続き療養。次に会えるのは……僕がテルク=ファルから戻って来たときだろう。
僕に着いてくる予定らしいタルクは「……こんなに長いこと、会わないなんて、初めてだな」ってつぶやいていた。なんとなく、その肩が寂しそうだった。……そうだよね。タルクにとって、グラは家族だろうから。
そして、ヴェルンシーヴァへ着いたら、初めてキャラヤに会ったときみたいに全身磨かれて、着せ替えされて……慣れないもんだなあ。こういうの。
「お似合いです!」
「……ありがとうございます」
今回は、真っ赤な布に金色の縫い取りがある、めっちゃ派手なヤツ。ベルトもキンキラキン。着られている感しかないんだけど。そのくせ、タルクは前とおんなじ感じでおとなしい色合いだった。まって、僕もそっちがいい。なんで僕だけ悪目立ちさせるの。なに、もしかして、供物かなにかなの、僕?
連れて行かれたのは、華美な造りではないけれど、あきらかに重要な施設だってわかるような、堅牢で警備のしっかりとした建物で。タルクにどこか聞いたら、なんだか難しい名前を言われたけれど、要するにキャラヤたちの職場らしかった。中央府ってことだと思う。たぶん。
正面から入ったらめちゃくちゃ中の廊下が広くて、壁側にはたくさんの出入り口があって人々が行き交っていた。
奥の奥、そして上の上、って感じのところまで連れて行かれる。でっかくて装飾過多な両開き扉があった。でもそこじゃなくて控室に通された。まって。なにそれまって。そのムーブなんかめっちゃ式典的なものに参加傾向じゃない? しかも服装的にモブじゃないね、僕? え、まって聞いてない。
そして、質問させてくれる間もなく放り込まれたわけです。たくさん人が集まっているでっかいホールみたいなのの、ど真ん中へ。
「ヨータ・コガ。こちらへ」
めっちゃかっこよく装ったキャラヤがいて、来いって言われたからそっちまで歩いて行った。いちおう立ち止まってから右手を胸に当ててみる。
「貴君による年若いころからの長年の功労と、それによるクル判定の正確さを讃え褒賞する」
「ありがとうございます?」
「こちらを」
お盆を持った人がすっとやって来て、キャラヤがそこからなにかを手に取る。そしてさっと僕に近づいて、それを首にかけた。……形は違うけど、僕が収監されるきっかけになった認識札そっくりなやつ。うわあ、なんかやだなあ……。
「これに加え、知行を与える。これからも励めよ」
「ありがとうございます……?」
なにそれ……? これ後でだれか説明してくれるよね……? とりあえず僕の鑑別技術が表彰されたってことで、いいんだよね。たぶん。
「他になにか必要なものがあれば授けよう。望みはあるか?」
ちょっと周囲がざわっとした。あ、予定外の言葉なのかな。ほしいものって、いやふつーに実家に帰らせていただきたいんですけれど。僕はちょっと考えてから、言ってみた。
「あの……僕のことは、判定師ではなくて、初生雛鑑別師と呼んでほしいです」
「ん? どういうことだ?」
キャラヤは理解し損ねた感じで尋ねてきた。まあそうか。そもそも鑑別って概念がないもんな。雛に対して。
「判定は、基準に照らし合わせて評価を決定することです。鑑別は、しっかりと見分け、区別し、特定すること。僕の技術は、不確かな判定ではありません。鑑別です」
「――おもしろい!」
キャラヤのキリッとした眉がもっと上がって、満面の笑顔になった。そして僕の肩をガッとつかんで引き寄せて、周囲の人へ言った。
「皆、聞いただろうか。円環守総長として、私はこの者に称号を授ける。判定師ではない。――鑑別師・ヨータだ!」
どよっ、と周囲の音が動いた。びっくりして見回すと、みんな僕を見たり顔を見合わせたり。
入口近くにタルクがいた。目が合ったら、ニヤッとされた。






