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飛ばない僕と、空を行く君と  作者: つこさん。
第一章

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22羽 「おまえのものか?」「まさかあ」②

 そして。僕、捕まった。理由は教えてもらえない。

 タルク本人が捕縛したのは、たぶん彼なりのやさしさみたいなもの。

 ヴェルクライナって平和なところだとおもっていたんだけれど、しっかり牢屋があるんだね。その中でも上等なところへ入れられたとは思う。鉄格子ではなくて、はめ殺しの窓があるちゃんとした部屋。外を見てもどこらへんなのかわかんないから、採光の意味合いしかない窓だけれど、ないよりマシ。べつに手足に枷があるわけでもない。でも、しっかり立場は囚人とか留置人の感じ。

 食事は毎日ちゃんと二食出る。ヴェルク=シーヴィの伝統的に普通は二食なんだ。それで足りなかったら別に食べる、みたいな。僕もこっちに来てからはだいたいそうしていた。飯塚の職場で早番をやっていたときの食事のペースに似ていたから、すぐに慣れたんだ。

 ベッドも、ちゃんと囲われたトイレもある。水場はないけど、ちゃんと毎食飲用の水は持ってきてくれる。布団なんか羽毛布団だし、いくらか本も置いてある。紙一枚がすごく高価なんだから、書籍なんかどんだけの値段かわかんないよ。まあいいやって思いながらごろごろして本を読んで時間を潰していた。すぐに飽きた。

 というか、もしかしたら政治犯とか、そんな感じの扱い? だよね、物盗りも傷害事件も起こしていないもんね。


 僕は、あきらめた。

 なんか、つかれた。


 2日くらいしてから。面会だって言われて、だるーんとしていた体を起こした。入ってきたのは、タルクではなくて。


「ブロム……」

「はい、あなたのブロムです。判定師ヨータくん。まあ、なんと捕まってしまうなんて! 計算外でしたよ!」


 オーバル型メガネをキラッとさせて、ちょっとたのしそうにブロムが言う。なんでたのしそうなの。そしてくんくんして辺りを見回す。すまんねえ、換気できないから臭うでしょうよー。

 そしたらはめ殺し窓までてくてく近づいて、ガコって上の方を開けた。えっ、開いたのそれ⁉ 教えてよ看守さん!


「さて。さきほど、エルシ公翼ともお話ししてきました」

「あー、ほんと。元気そうでした?」

「落ち込んでいましたねえ。あなた愛されていますねえ」

「それはどうも」


 愛してるならこれがどういう状況なのか教えてほしい。ブロムが籠に入れて持ってきてくれた酒瓶を受け取って、めちゃくちゃ昼間だけどコルク栓を開けてぐいーって飲んだ。ブロムもベッドの僕の隣に座って、同じように自分の瓶からぐいーって飲んだ。


「ところで、ヨータくん。出たくないですか?」

「そりゃ、もちろん」

「前に申し上げた、テルク=ファルへ国賓としてお招きしたいって件、受けてくれます?」

「それで出られるなら、はい」

「だそうですよ、エルシ公翼?」


 ブロムが、開いたままの入口へ向かって言った。居んのかよ。ちょっとの間があってから、なんか数日ごはん食べてなさそうな顔したタルクが入ってきた。そういや、この前買ったヤギ乳、ちゃんと飲んでくれたかな。

 

「……よう」

「おはよー。で、僕どうしてここに入れられたの。いいかげん教えて」

「おーっと、それも説明されていないんですか、公翼」


 タルクは、ブロムとは反対側の僕の隣に座った。そして僕の手から酒瓶を奪ってぐいーってする。とるなよ、せっかくの憩いを。なにも言わないで僕がじーっとタルクを見ていると、タルクは「おまえが、持っていたヤツ。あれが、問題だ」ってつぶやいた。


「なに? 僕が持ってたって? ムルナヴェンで買った鍋とか?」

「ちがう」

「じゃあ、なにさ。ずっと考えていたけど、僕のベッドの下からみつかった、あの銀色のヤツが関係あるんだろ? 掃除したら僕のベッドの下から出てきただけで、あれは僕の物じゃない。そもそも、僕が着の身着のままでヴェルク=シーヴィに来たこと、タルクは知ってるじゃないか」


 多少、語気が強くなってしまったのはしょうがない。それに、あんまり声を出していなかったから、かすれてもいる。僕の言葉を聞いてブロムが「着の身着のまま……そこらへんのこと後で詳しく……」とつぶやいていた。スルーした。

 タルクは、僕を見た。僕も見返す。ちょっとだけ開いた窓から新しい空気が入ってきて、頭がスッキリしてきた。タルクは口を開いて、閉じて、それから言った。


「……初めておまえに会ったとき、俺が、おまえに尋ねたこと、覚えているか」

「んー? なんか言ってたっけ? まって」


 思い出そうと首をひねる。えーっと、えーっと。今は灰翼判庁のハルシーピ舎だってわかっている、でっかい木造の家畜小屋に居て。尻もちから立ち上がって、そして。


「……間諜かって、聞いてた」

「そうだ。……もう一度、尋ねる。おまえは――ヴェルク=ライナの、間諜か?」

「ちがうよ」


 即答した。だって違うもん。僕はタルクから目を外さなかったし、タルクもそうだ。


 しばらくして、もう一回タルクが酒瓶をぐいーってして、空になったから床に転がした。僕の前を通ってもう一本ブロムから渡される。え、まだあったの。タルクは新しいのを開けて、またぐいーってした。で。


「……信じて、いいか」

「どうぞ。ちがうし」


 その後、専門の取調官さんみたいのに、聴取されて。

 解放された。

 元々ブロムが、キャラヤへ公式に僕を招聘したいって話をしている最中で、僕はヴェルク=シーヴィの人間としてテルク=ファルへ向かうことになった。

 前みたいに、タルクが僕の身元保証人みたいな感じになって。

 でも、その意味合いは、たぶん前とはちょっと違うんだと思う。


「ねえ、いいかげん教えて」


 なぜか、タルクの家には帰らなかった。あの家は引き払ったらしい。僕の私物なんて着替えと鍋と書き板くらいだったから、小さい箱にまとめてもらった。

 ヴェルクライナではない、べつの場所。そこからもすぐに移動するんだって。


「あれ、あの銀色のヤツ、なんだったの」


 タルクは、なんかそんな感じなんだろうなって僕が考えていたことを、そのまんま答えた。


「……ヴェルク=ライナの、認識票だった」

「ふえー。完全に僕、ヴェルク=ライナの人だと思われたんかー」


 だったら、わざわざタルクのベッドの上に置いたりしないと思うんですけど。だから解放されたんだけどね。


「――おまえじゃないなら、強盗に入ったヤツの物だろう」


あと2話で第一章終わりです!


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