21羽 「えっ、あっ。はい!」②
僕が本気にしなかったのがわかったみたいで、霜翼卿は喉をくつくつと鳴らして笑う。そんな表情にもドキドキしてしまう。ほんと、人生でこんな人に会うこと他ではないってくらい美人だからさあ……。
「私はね、君を呼んだのはグラシュテルだと思っているんだ」
「えーっ! グラ⁉」
なんてことでしょう。犯人ならぬ犯鳥がこんなに身近に。魔法とかはない世界だけど、どうにか不思議な力で僕がここに来たことには変わりがないし、それにはきっと原因がある。グラだって言われたらそんな気がする。ちょっと後で詰めよう。そうしよう。
「ハルシーピは、神鳥と呼ばれているのは……知っているね?」
「はい」
「今でこそこうして、私たちの生活に密着した存在となったけれど、太古の昔には、その呼称通り神と人間の間を行き来し言葉を伝える鳥だった」
「はー、そうなんだあ……」
ギリシャ神話とか、そんなのにありそう。しらんけど。メガテン未履修だからわかんないや。そんなすごい鳥を使役しちゃってバチあたらないのかな。なんて、とっ散らかった僕の思考を読んだみたいに、霜翼卿は話をまとめてくれた。
「――ときに、ハルシーピは天から使者を乗せて現れることもあったんだよ。私は、グラシュテルが君を乗せて、この地に連れてきたのだと思うんだ」
「うっは」
草、って言いそうになった。というか、ぜったい声に草生えた。なにそれ、それじゃあまるっきり僕、天の使者じゃん。天使。笑う。そもそも天に住んでないし。福岡県飯塚市だし。羽根とかないうえ高所恐怖だし。いろんな意味でウケてたら、霜翼卿もにっこりした。まってください心臓に悪い。
「君が、そんな風に裏がない気持ちの明るい人間だから、タルクも気を許しているのだろうね」
「えーっ、そうですか? 雑に扱われてますけど」
「それだけ、気負わずにいられるということだよ。あの子の友人になってくれて、ありがとう」
僕はなんでお礼を言われるのかわからないながらも「どういたしまして」と言った。タルク、友だち少ないのかな。少なそうだな。
そして霜翼卿は「……少しだけ、あの子のことを話しておくとすれば」と前置きして、ちょっと考えるような間を置いてから、続けた。
「あの子の父親は、他国に居る」
「あ、そうなんだ」
「なにか、聞いているかい?」
問われて考えたけれど、とくに思い当たることがなかった。あ、来たばっかりのときに、他の街に居るって言っていたような……それ、外国ってことで言ったのかな?
「なんか、ここじゃないとこに居るみたいなことはちらっと。でも、それだけです」
「そう。じゃあ、私から聞いたことは内緒にしてね?」
「はい」
「あの子は、ヴェルク=ライナにゆかりのある子なんだ。私が、ヴェルク=シーヴィでの後見人となり、公翼としてとりあげた。この意味がわかる?」
「いえ、ぜんぜん」
にこにこしながら「そういう、君の率直なところ、私も好ましく思うよ」と言われた。まってください心臓に悪い。
「ヴェルク=シーヴィとヴェルク=ライナは、長く冷戦状態にある。今の円環守総長になってから、上手く舵取りをしていてね」
「キャラヤって、すごい人なんですね」
「そうだね。本来ならば任期は三年なんだけれど、もうそろそろ四期目が終わるところ」
「長期政権!」
「ははは、そうだね。厳密には違うのだけれど、そう思ってもらってかまわない」
ちょっと口を閉じて、言葉を選ぶみたいにゆっくりと、霜翼卿は言った。
「ヨータ。君は、この国のしがらみに囚われずタルクと接することができる、貴重な存在なんだ。私があの子を公翼にしたのはね、もちろんそれに見合う能力を持っていたからだけれども、それと同時に身の安全のためだった」
「んー? 命を狙われているとかですか?」
「そう」
「まじかー!」
ノリで言ったことをあっさり肯定しないでほしい。まじか。なんで。イケメンか。イケメン罪か。たしかにそれは罪深いな。
「公翼の身分であれば、おいそれとは傷つけられない。なぜならヴェルク=シーヴィを公に攻撃したも同然だからね。公翼は、この国の顔なんだ」
「イケメンですね」
「ふっ、本当に君はおもしろいね。……私たち翼公は、表へ出ない。その代わりに翼たる公翼たちが空を渡る。そういう関係」
「なんとなくわかりました」
所変わればいろんな制度があるね。ちなみに翼公ってなんだろう。キャラヤと同じ立場ではないんだよね? てことは、政治家とかではなく? 僕は思ったまま、その疑問を口にした。
「あのー、なんとなくヴェルク=シーヴィのことはわかったつもりなんですけど。霜翼卿さんたち翼公のみなさんって、どういう立場の方たちなんですか?」
そもそも、他の翼公さんに会ったことがないけれど。霜翼卿はちょっと目を見張って、それから花のように笑顔をほころばせて言った。
「うふふ。それはね、ひみつ。――ちょっと不思議な人たち、ってことで、どう?」
どう? って聞かれても。まってください心臓に悪い。
そのちょっと後に、タルクが帰って来た。なぜかでっかい花束を持ったキャラヤといっしょで、げんなりしてた。
「私の露雫、会いたかった」
「ケルハ、来てはいけないと言ったでしょう?」
「私に死ねとおっしゃる。あなたなしには呼吸もできない」
「うそをおっしゃい。さあ、おかえりはあちらから」
霜翼卿さんは困ったように眉尻を下げて、キャラヤからわさっとした花束を押しつけられている。どゆこと。僕がタルクに説明を求めて視線を送ると、すごい勢いでそっぽを向かれた。なにそれ。






