21羽 「えっ、あっ。はい!」①
今日からまた7:00のみの1話更新に戻ります
間に合わなくてすみません……
夏の日差しが湾曲して射し込んでいる――そんな風に感じるキラキラと輝く温室はキレイで、過ごしやすかった。
それでも、やっぱり普通の家にいるよりは暑い。九州の生まれ育ちの僕にとってはこっちの方が適温だけど、タルクはちょっとだけうんざりした表情だった。じゃあ、いただいたアイスティー飲めばいいのにねえ?
僕は遠慮せずにさっきから飲み食いしている。霜翼卿はめちゃくちゃやさしい、いい人。すっごくキレイな人だから、男性だってわかっていても緊張したけれど。あらためて僕がどこから来たのかだとか、今後どう振る舞うべきかだとか、そういうのを話し合う場として、招いてくださったんだ。
「お茶、おかわりは?」
「あ、いただきます!」
キャラヤみたいに偉い人ムーブもないし、尋問するようなこともない。僕が話したいように話させてくれるし、詰まったら質問をして切り口を変えてくださる。いい人。タルクがどうしてこんなに苦手意識を持っているのかよくわかんないよ。
「ヨータ。――『ニホン』へ、帰りたい?」
だから、しばらく話してそう問われたとき、僕はなにも隠さずに「はい」って答えられた。
タルクが、僕をじっと見る視線を感じた。
「――タルク。おつかいを頼まれてほしいのだけれど」
思い出したように唐突な感じで、霜翼卿が言った。タルクが姿勢を正して「はい、承知しました」と言う。
「内容を聞いてから承知しなさい。そうだな。ヴェルンシーヴァの表18番通りに最近できた菓子店へ行ってきて。一番人気の甘栗の菓子を買ってきてほしい。3人分でいいよ」
「は……?」
「5差を使っていい。いってらっしゃい」
霜翼卿さんがにっこりと、有無を言わせぬ笑顔で言った。タルクはなにか言おうとしたけど、なにも言わずに立って、右手を胸に当てて去っていった。
タルクが扉を閉めた音が聞こえた後、霜翼卿さんが僕を真っ直ぐに見てほほ笑む。めっちゃドキッとする。
「じゃあ、ふたりで内緒話、しよっか?」
「えっ、あっ。はい!」
さすがに緊張する。超絶美形偉い人。固まった僕を見てちょっと苦笑して、霜翼卿は首を傾げた。
「君の能力は、学んで身に着けたものだと言ったね?」
「はい。専門の学校で一年間、修練しました」
「私は、君がここに呼ばれた理由が、そこにあると思っているよ」
言われたことの意味がちょっとわからなくて、反応が遅れた。そして理解してから、おっきな声で「えーっ⁉」って言ってしまった。
「もしかして、霜翼卿さんは、僕がここに来た理由、ご存じなんですか⁉」
「当たりはついていた。ただ、どうして君だったのかの、決め手に欠けていたんだ」
右手を頬に当てて、悩ましげな表情で霜翼卿はその言葉を続ける。僕はもう、前のめりだ。
「これは内緒にしていてほしいんだけれど。私、ハルシーピの言葉がわかるんだ」
「えっ」
「内緒だよ。タルクも知らない。知っているのは君と……あともうひとりくらい」
「えーっ⁉」
どうしよう。なんか、とんでもない秘密を暴露されてしまった。そっかー、やっぱとんでもない美人って、とんでもないスキルを持っているんだなあ。僕はそんななんかよくわからない納得をした。
悩ましげなその姿のままで、霜翼卿は言う。
「タルクのイクナ・グラシュテルのことだけれど」
「グラってそんなかっこいい本名なんですね」
「そう。タルクもなかなか洒落た感性を持っているだろう? ……あの子がね、ずっと悩んでいたんだ。タルクのことで」
「えーっ!」
グラもタルクも悩みと無縁の存在だと思っていた! なんとなく! 失礼なこと考えててごめん! 僕は、ちょっと居住まいを正して傾聴した。
「タルクはね、グラシュテルの他に、クルを二匹育てたんだ」
それを聞いて、はっとする。……それは、翼騎兵隊になるとき、与えられるハルシーピの雛のことだろう。
最初の二匹――グラに出会うまでのクルは、メスだったんだ。
それ以上は、聞かなくてもわかった。
「彼が思い悩んでも、しかたがないことなんだけれどね。私が判定をできればいいのだけれど、私はクルのときの言葉を聞き取れないんだ。中雛に差し掛かるころ、ようやっと会話ができる。でも、君に判定されて来た子たちはちょっと様子が違った。自分はオスだと認識していて、それを私に伝えて来たんだ。かわいかったよ」
「……鑑別しただけですけど」
「今度、メスをわざとオスとカンベツしてみてくれない? それでどう違いが出るか、見てみよう」
「はい、それが役に立つなら。なんかちょっと嫌な感じですが」
「そうだね……次の繁殖期まで、君がここに居たら、の話だけれど」
霜翼卿は、すっと姿勢を正して僕を見た。
僕も、霜翼卿を見た。
「……グラシュテルはね、タルクが、ハルシーピを死なせてしまったこと、これからも死んでいく子がいることを悲しんでいると……常々私に言っていた」
なんとなく察していたから、僕はうなずいた。きっとそうなんだと思う。僕の技術を、存在を、一番望んでいたのは……きっとタルクだ。
霜翼卿は優雅にマグカップに入ったアイスティーを口に運んで、ちょっと遠くを見ながら「あの子は、とりわけ気持ちのやさしい、繊細な子なんだ」と言った。え、それだれのこと。タルクじゃないよね? でも話の流れ的にタルクっぽいな。うっそお。






