19羽 「おめでとう」 「なに?」①
命ってなんだろうなって、ときどき考える。僕は、親父が母をナンパして、デキ婚して生まれた。
妹は、母の計画に従ってできたそうだ。世の中には子どもができなくて困っている人たちがたくさんいることを思うと、すごいことだ。
小学校へ入学して一カ月くらいのある日、集団下校で6年生のお兄さんと手をつないで帰宅していたら、家の前の通りでうろうろしている親父がいた。
僕が「パパ!」って声をかけると、走って僕を抱き上げに来て、さっとチャイルドシートに押し込み、車を発進させた。あのとき僕が「パパ」って言わなかったら、誘拐だって通報されていただろうな。
家から一番近い産婦人科。今はなんか、改装してウイメンズなんとかっていうかっこいい名前になっている個人医院。登下校の帽子をかぶったままで中に連れられて入って、親父に「もうすぐ、お兄ちゃんになるぞ、陽太」って言われた。
親父は落ち着きなく歩き回っていて、僕は「パパ、すわってて!」って言ったもんだ。受付の人がそれを聞いて笑っていたのを覚えている。
安産だったって聞いた。それにしても、僕が登校した直後に兆しがあって、それから下校時間後までかかったんだから、すごく長いと思う。
僕が命を意識したのは、そのときだった。生まれたばっかりの妹はしわしわで、ちっちゃいゴリラみたいだと思って、いっしゅん愛せるか不安になったけれど。
動いていた。おもちゃみたいに小さい指を動かしていた。僕の指を握ったし、親父の指も握った。足なんか僕が使っていたコクヨの消しゴムより小さかった。……かわいかった。
それまで僕は、生きているってことの意味がわかっていなかったと思う。小学生になったばかりならそんなもんなんだろう。ただ、その数年前に初めてピクニカ共和国へ行って、手に乗せてもらったひよこと、生まれたばかりの妹が……同じように『生』を持っていること。それをそのとき、強烈に意識したんだ。
物心つくころから、やって来ると信じて疑っていなかった恐怖の大王との訣別は、それなりに僕にとってツラい決定だった。ぜったいにひよこで説得できると思っていたけれど、妹を見たら考えが変わった。僕は妹をだれかにあげたりできないし、僕が恐怖の大王の手に乗せてあげようとするひよこは、きっと他のひよこの弟妹だ。僕でさえ連れて帰って家で飼うってダダをこねたんだから、大王だってひよこを連れて帰ろうとする。それか妹を連れて行ってしまう。きっとそうだ。僕は自由帳に大王への手紙を書いた。親父に見せたら、必ず大王に伝えると約束してくれた。
親父は、きっと大王に伝えてくれたと思う。僕は、そう思いながら、日々ひよこの命と向き合う仕事に就いた。毎日、必ず死んでしまった雛に出会う。
死んでいい命なんて、ないと思うけれど。もし死んでしまうなら、見届けたいと思った。
親父の死に目、会えなかったからさ。
それが、心残りで。
たぶん、僕の贖罪。
ぐいーって、マグカップのお茶を飲み干したら、すかざず気配のない男の人がカップを変えて違うお茶を出してくれた。こっちもお高そうな香りがする。タルクも飲み干して「俺もくれ」って言ってた。
で、次はお皿がたくさん出てきて、お菓子じゃなくて軽食っぽい感じのいろんな食べ物。ケルハ・ヴェイクさんにもタルクにもフォークが渡されて。
……ん? あれ。なんでさっき、僕だけカップケーキ来たんだ?
「――さて、こちらが聞きたいことは、あらかた聞けた」
ケルハ・ヴェイクさんは前傾姿勢だった上体を起こしてそう言った。僕からの質問は聞いてくれないんですかって言えない。
「ブロムくんも来ているんだろう。入ってもらおうか。軽いものだが、昼食にしようじゃないか」
「あいつはいいでしょう」
「そう毛嫌いするな、タルク。ああ見えて、あれは気のいいヤツだよ」
「どこがですか……」
タルクとブロム外務卿さん、なんかあったんだろうか。触れないでおこう。上機嫌のブロム外務卿さんが入室してきて、右手を左胸に当ててから僕の隣に座った。
「ひさしぶりだね、ブロムくん。こんな時季外れにどうした?」
「ヴェイク総長のご尊顔を拝むのに、季節は関係ありますか?」
「そういうのはいいよ。目当てはヨータか?」
「はい、そうです」
笑顔の即答を聞いて僕はタルク側に詰めようとしたけど、ブロム外務卿さんにがしっと腕を取られて動けなかった。なにこの人、見た目より力強い。
食事の間中、ブロム外務卿さんが三人でなにを話したのか知りたがったけど、タルクもケルハ・ヴェイクさんも知らんぷりしていたから、僕もそうした。ピーマンの肉炒めが美味しかったけれど、なんの肉なのかわからなかった。
ちなみにケルハ・ヴェイクさんをそのままフルネームでお呼びしたら、苦笑いされて「キャラヤと呼びなさい。それは私のことだ」とおっしゃった。一番偉い人っていう意味なんだろう、きっと。
その日は、キャラヤが居た建物に泊まった。キャラヤはわざわざお忍びでこの町まで来たらしい。それも、僕に会うため。ここは国境に近いハルヴェイクという町で、普段キャラヤが居るのは首都であるヴェルンシーヴァらしい。ヴがふたつもあって首都っぽい名前だよね。
さすがにそろそろしっかりとした説明がほしくて、夜に僕はタルクの部屋を尋ねた。ノックしたら即ドアが開いてびびった。






