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飛ばない僕と、空を行く君と  作者: つこさん。
第一章

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17羽 「なにが目的だよ」②

 で、次の日の早朝。

 すんごい機嫌の悪いタルクに叩き起こされて、昨日ちょっとだけ残してあった唐揚げのひとつを口に突っ込まれて「行くぞ」と言われた。


 もぐもぐしながら上着を着込んでいると、なんとタルクが窓から出ようとしていた。飲み下してから「なにしてんの」って聞く。


「どーぜ正面から行ったら、なんか見張りとかいるだろ。撒いて、さっさとずらかる」

「意味ないと思うけどなあ」


 いちおう、1泊分に手間賃を加えたお金はテーブルに置いて。僕も促されるままに窓枠をまたいで。

 たしかに見張りっていうか、警備とかを気遣ってだと思うけれど、宿の入口におまわりさんっぽい人がふたり立っていた。まだ人通りが少ない町並みを、木立ちとかを利用しながら隠れて移動する。

 で、グラたちを預けているハルシーピ舎に来たわけだけれど。


「おはようございます! さわやかな朝ですね!」


 ブロム外務卿さんが晴れやかな笑顔でいらした。

 タルクがげんなりしていた。


 もちろん、本気で撒けるとかは考えていなかったっぽいけど。少なくとも、町民がまだ寝静まっている時間帯ならば、引き留められずに済みそうなところはいいかもね。ちょっとびっくり気味のハルシーピ舎の作業員さんたちに謝礼を渡して、グラたちを引き取る。

 陸用ハルシーピが三頭に、ぷくぷく太ってさらに大きくなったグラ。そしてそれを運ぶ地車(じぐるま)にハルシーピ車だから、そりゃわりと大移動。なので、町が起き始めるころには出発準備が整っていたけれど、まあまあ見物人とか「えっ、出発するの⁉」みたいな声がある。

 ブロム外務卿さんは飄々と僕たちと同じハルシーピ車へ乗り込んだ。タルクはもう、言ってもムダだと思ったようなあきらめモードでムシしてた。


 町の入口まで蛇行運転で移動して。さて、出発しましょうかねーっていうタイミングで、焦った町長さんが身だしなみを整えられなかった風に走って来た。


「こっ、公翼様! もう発たれるのですか⁉」

「予定通りだ。世話になった。宿の店主に礼を言っておいてくれ」


 そう言ってタルクが口笛を吹いた。グラの乗った地車のハルシーピ二頭が、それを合図に走り始める。


「ありがとうございましたー!」


 僕たち三人が乗ったハルシーピ車もそれに続いて、僕は町長さんと他の町民さんたちへ手を振った。ただの観光だったらなー、もうちょっと滞在して見て回りたかったかな。

 朝早かったってこともあって、最初のうちは特に会話とかなかったんだけれど、ブロム外務卿さんが「朝食いかがですか?」ってけっこうボリュームのあるバーガーみたいなのを提供してくれた。荷物少ないのにどこから出したの。タルクが無言で手を伸ばしたから、なんだかんだ言ってブロム外務卿さんが毒を盛ったりしないっていう信頼はあるんだろう。僕もいただいた。めっちゃ美味しかった。なにこれ、なに肉?


「で、ヨータくん。あなたはどこのお生まれなんですか?」

「言わなくていい」


 ブロムさんが軽い炭酸の瓶を配ってくれて、それぞれで飲んで寛いだあたりで、質問してきた。即座にタルクが制したので、僕は口を開いたまま固まる。


「……それくらい、いいじゃないですかあ。本当になにも情報がないんですよ、ヨータくんに関して」

「なくて当然だ。出してないからな」

「灰巣に出仕している判定師で? それなのに身元不明? おかしすぎません?」


 ハイソウってなんだろう、って思ったけど、ちょっと考えて僕が砦って呼んでいる、ハルシーピの育雛場のことだと当たりがついた。たぶん略称。正式名称はなんかめっちゃ長かったから。

 タルクが鋭い目つきで、ブロム外務卿さんを見た。


「――テルク=ファルはもしかしてヴェルク=シーヴィに敵国認定されたいのか?」

「まさか。これくらいのことはヴェルミトゥラの町民に聞き込めばすぐ手に入る情報ですよ。逆に言うと、それしか手に入らなかったってことですけれど」

「気色悪いくらいにべらべら話すな。なにが目的だよ」


 ブロム外務卿さんは、手を洗うような、拭うような動作をした。そして、右手を左胸に当てて言う。


「我が国のハルシーピに誓って、あなた方を害する気持ちはありません」

「おまえの気持ちなんて聞いてねえよ。テルク=ファルの目的だ」

「それはもう。ヴェルク=シーヴィとテルク=ファル、両国間の末永い、そしてこれまで以上の友好関係です」


 ブロム外務卿さんは、右手をそのまま動かさなかった。それは、誠意を表しているってことなんだろうし、ほほ笑みを湛えた表情ながら、その薄い水色の瞳は真剣な光を持っていたように思う。

 タルクはじっとブロム外務卿さんを観察していた。そして、その上であまり唇を動かさずに問う。


「で。要求は」

「話が早くて助かります。――ヨータくんを国賓として我が国にお招きしたいのですが」

「断る」

「そこは早くなくていいです」


 なに。なんなの。僕のことがふたりの間だけで話されているんだけど。僕が国賓? なにそれ、やっぱ判定師としてってこと?

 そりゃあ、ライラちゃんが正確にひよこ鑑別したことを、ぜんぶ僕がやったってことにしているからね。そもそも僕が持っていた鑑別技術だしね。……そっかー、国賓かー。


 なんかふたりがやり合っているのを、上の空で見ていた。で、なんかいいやって思ってその場へ横になろうとしたら「いやおまえのことだろう」「あなたのことを話しているんですよ、ヨータくん」とふたり同時につっこんできた。やっぱ仲良しなのかな。


「ぜひ、我が国であなたをおもてなししたいのですよ、ヨータくん」

「なんかめんどい匂いがするんだよなあ……」

「行く必要ない。そも、ヴェルク=シーヴィの高官どもだってまだこいつと会っていないのに」


 どっちの高官も嫌だが? えっ、もしかしてヴェルク=シーヴィのお偉いさんたちに会うの既定路線? 嫌なんだけど。

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