16羽 「しかたない。そういうもんだ」②
僕はどうやらタルクとグラの専属調理人という設定らしい。なんだそれ。まあいいけど。判定師だってバレたら、なんかたいへんそうな予感もあるし。
で、宿に待機していた町長さん部下のご用聞きみたいな人に案内されて、グラたちが待機している場所へ。その道すがらも多くの人に見守られ、歓声をあげられた。
なんかね、タルクから小声で「灰翼判庁から、通過のための謝礼金が出ている」ってひと言説明されたことから想像したんだけれど。
この、大歓待は、もらっちゃった大金に地方町がどうしていいかわからなくて、はっちゃけた結果ではなかろうか。たぶん。
たとえば、僕の実家の飯塚市に米国大統領が来ちゃった感じ? 案内するとこなくね? ピクニカ共和国行く? ちょっと待って? ……そりゃあ、こうなるよなあ。
で、グラたちのところへ。なんか大勢が『公翼様専属調理人のハルシーピへの給餌』を見学しようと詰めかけたんだけれども、もちろん規制してもらった。ハルシーピ舎の中には僕たちとエサの管理者しか入れないようにして。
グラは、僕たちを見たらクェーーー! て声をあげて羽をバタバタした。元気じゃん。タルクはいつにない神経質さでエサ係さんから裸鶏を受け取って、一匹ずつ確認してから僕へ手渡した。
「……まずは、陸用ハルシーピたちから給餌してくれ」
「わかった」
なんか目的があるんだろうから、僕はその通りに陸用の三頭へ給餌した。グラがなにか言いたそうに小さな低い声でぐぇぇぇぇぇと言った。僕もタルクもスルーしたけれども。
で、グラにも。両羽をバッタバタとして、僕が口元まで運んで来るのを待って、味わいもせずにパクっと丸呑み。せめて一回くらい噛んでよ。もう一匹。やっぱ丸呑み。
四匹を口に運んだところで、タルクが「そこで」とストップをかけた。グラがすごく「え、まじで?」みたいな顔をしていた。
「――さて。グラたちの居場所もわかった」
「そうだね」
「じゃ、これからだな」
「なにが?」
タルクは僕の質問へは答えずに「とりあえず、なんか、いい感じの料理を多めに作ってくれ」とか言った。なんかよくわからないままに、僕は宿に戻ってから厨房へ。夕飯を作るのに。
本職の調理人じゃないんだけれども……。めちゃくちゃ宿の調理人さんたちに観察された。公翼がなに食べるのか気になるんだろう。食材やらなんやらはぜんぶそこにあるものを使っていいとのことなので、遠慮なく。他に宿泊客もいるだろうし、さっさと作ってしまおう。
なんかいい感じってどんなのだ。よくわからん。ラィードのパンは焼いてあるやつをどうぞって言ってもらえたからそれで。他には適当に。野菜炒め。それに唐揚げたくさん。他人様のキッチン借りて、こった料理なんかできないよ。十分だろ。
とりあえずでっかいトレイを借りてぜんぶ載せて、運ぶ。厨房の人たちが「えっ、それでいいの?」って顔してた。いいんです。突然僕に作れとか言い出したタルクが悪いんで。
「はい」
「おう。なんだ、美味そうな匂いする」
そっこー唐揚げに行こうとしたから野菜炒めを先に押しつけた。好き嫌いせずに食え。
ここはテルク=ファルって国らしいけれど、ヴェルク=シーヴィと食文化はそれほど変わらないっぽいと、食材から見て取れた。まあそうだよね、まして国境近くにある町だし。
「……パンもおまえが焼いたの?」
「ん? それは厨房の人が昼に焼いたんだって」
「じゃあ、食うな。念の為」
「おーん?」
なんか、毒を盛られているとか、なんかそんなこと考えているんだろうか。って聞く前にタルク自身が「ここは、他国だ」と言った。
「とりあえず、用心してダメってことはない」
「そりゃ、ダメではないけれど。あんだけタルクが来たことよろこんでくれている人たちが、そんなことしないと思うけどなあ。それに、外交問題になるでしょ」
「だからだよ」
タルクは野菜炒めを即平らげて、二股フォークに唐揚げを二個ぶっ刺した。けっこうでかいのに一個を一口で行く。食べ終わってからその言葉の続きを口にした。
「用意された宿に泊まったら、夜の接待もされてたぞ。おまえ、そっちのがよかったか?」
「おっとお。……たいへんっすねえ、偉い人は」
「……公翼は、しかたない。そういうもんだ」
僕がただ「ふーん」と流したのを、タルクはなにか言いたそうに眺めて、でも唐揚げで口をふさいだ。
で、その直後。
コンコンコンッていう、高いノックの音。もぐもぐしていた僕は、もぐもぐしながら立ってドアを開けに行こうとしたけれど、タルクが止めて「だれだ」と誰何した。
「――おくつろぎのところ失礼いたします。おひさしぶりです、エルシ公翼? テルク=ファルのブロム・ルクヴォテルでございます」
たぶんタルクはだれが来たのかわかっていたっぽい。思いっきり舌打ちをして、言った。
で、僕はそれを聞いてしっかり唐揚げを飲み込んで、ちょっと背を正した。
「お偉い外務卿殿がわざわざこんな国境くんだりまで飛んで来んなよ。帰れ」






