15羽 「実感を得たんだが」 「今さら⁉」②
ハルシーピは賢いから、一度走ったことのある道は覚えていて、場所の名前を言ったらそこまで走ってくれるんだって。なにそれ自動運転車じゃん。グラの乗ったハルシーピ地車が先に走って、僕たちの乗ったハルシーピ車が後に続く。普通逆じゃないのって思ったけれど、そもそもハルシーピって『神鳥』って呼ばれている存在だから、人間が使役している現状でも、形だけでも先に立てなきゃいけないんだってさ。文化的に。それに、グラを乗せている方が急には止まれないからって。それはそう。重いもんね。
グラは、首だけこっちに向けている。愛されてるなって思う。でもさー、ヤーヴァちゃんとは違うじゃん……。そもそもなんで僕に求愛したんだよ。
夕方には、国境沿いの東ハルナシーヴという村に着いた。東っていうことは北とか西とか南もあるの、と聞いたら、あるみたい。国境を監視する施設を設置してできた村をハルナシーヴって言うらしい。へー。
タルクのしている革の肩当てとおそろいの左の肩当てをした人たちが、ハルナシーヴにたくさん居た。右は空を護る者で、左は地を護る者っていう意味なんだって。なにそれかっこいい。
陸用ハルシーピくんたちは、ここから借りたみたい。僕たち一行を見たらすぐに開門してくれて、中へ招じ入れてくれた。
「お疲れ様です、エルシ公翼! 準備滞りなく行い、問題ありません!」
「わかった。ここで一泊するがいいか?」
「もちろんです! ――あの、そちらが、例の」
「詮索はいい。下がれ」
「失礼しました!」
タルクが偉そうだった。たぶん偉いんだと思う。そういうのよくわかんないな。僕がなんかの大臣に会うようなものだろうか。しらんけど。
通されたのは、いかにも無骨な飾り気のない建物。でも簡素でちゃんと必要なものはそろっていて、いい感じ。ヴェルミトゥラにあるタルクの家の部屋をふた回り小さくしたような、ベッドが両壁際にふたつと、ランプを置くための台があるだけの部屋に通された。窓も、細いのがひとつだけ。通気口くらいの意味だな、これ。まあ、一晩泊まるには十分。
で、僕はさっき気になったことを聞いてみた。
「で、公翼ってなに?」
「……よく聞いてたな」
「なんか偉そうな肩書だなって思って」
ベッドにぐでーと横になりながら僕がそう言うと、ランプへオイルマッチで火を入れたタルクは、ふいっとそっぽを向いて「べつに」と言った。
「なにそれ。なにその、思春期みたいな反応」
「は? おまえ煽るの上手いな? 俺はちゃんと年相応に見える24だが?」
「でもときどきガキっぽいんだよなー。なんか背伸びしてる感――うっわなにすんだよ!」
「はあ? 背伸びしなくても俺はおまえより背は高いし」
「ふざけんな、それは禁句だろ!」
全力枕投げになった。手加減無用でやった。高校の修学旅行以来だった。筋肉痛になるかもしれない。
「で、公翼ってなにさ」
お互い飽きたところでベッドに転がって、あらためて聞いた。さっきまで投げていた枕に顔を埋めて壁側を見て、タルクは「言わない」ってつぶやいた。
「んー。察するに近衛兵? 翼公の人たちにだけ仕える翼、みたいな?」
「……知ってんじゃないかよ」
「当てずっぽう。へー、ほー。すごいじゃんタルク。めっちゃ精鋭じゃん」
僕が感心しながら言ったら、枕に顔を埋めたままこっちを向いて、じっと僕を見てからタルクが言う。
「……なんとも思わないのかよ」
「なにを?」
「……べつに」
またそっぽ向いた。やっぱ思春期じゃないかタルクは。
次の日、国境警備隊の人たちに見守られて、ハルシーピ車で国境をまたいだ。なんか「ご武運を」とか言われそうな空気感だったけどかろうじて言われなかった。ちょっと残念。
そんな懸念もありつつ隣国の領地へ渡ったわけだけど、身構えるほどのことはなにもなかった。
「なんかさ」
「なんだ」
「もっと、こう、ハードボイルドな展開になるかと思ってた」
空をハルシーピではない普通の鳥が飛んで、ピチチチ鳴いている。石畳で舗装された道路脇には野生のうさぎっぽい動物が立っていて、けっこうな速度で移動する僕らを見送ってくれる。
「なんだ、ハードボイルドて」
「矢が飛んで来たり、行く手を阻む曲者が出たり」
「おまえ勉強のしすぎで想像力をつけすぎたのか?」
「そんな真顔で聞かれても」
国境から一番近い大きな町へは、午後の早い段階で着いた。途中で小さい村を通過したら、子どもたちが手を振ってくれた。かわいい。陸用ハルシーピくんたちを適宜休ませるためにも、一日の移動は半日だけって決めている。なので、今日はここまで。
僕たちが通過することは知らされていたみたいで、すでにお役人みたいな人が町の入口で待ちかまえていた。
「お待ちしておりました、ようこそ」
「出迎え感謝する。ここでは一泊する」
「はい、承知しております。ハルシーピの世話も、おまかせください」
「頼んだ」
タルクが偉そうだった。もう偉そうが板についている。さすが公翼。先導されて町の中へ入って行くと、なんか『ようこそ! 公翼御一行様』っていう横断幕みたいのを掲げている人たちがいて、あからさまにタルクが舌打ちした。そして「下げさせてくれ」とお役人さんへ言ったので、僕はあわててそれを止めた。
「いいじゃない、歓迎してくれているんだから。邪険にする必要ないよ」
「おおげさだ。ただ通るだけだ」
「それにしたって、来てくれてうれしいって思ってくれてるんだろ。ここは笑顔でお礼を言っておくのが大人だよ」
タルクはちょっと文句を言いたそうにしたけど、ちょっとすねて「わかったよ」と言った。






