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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の一:最大魔力999の私は魔物に囲まれてもイケメンモテモテスローライフを送りたかっただけなんですけど?
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選択は無限

 レイラの前に現れた中年の男性は、魔導学校の校長だった。彼は攻略対象では無かったが、人気の高いキャラクターだった。彼も背が高く、ロングコートから見える足は長く、革靴も大きく見えた。シルクハットを脱ぐと折れた二本の角が見えた。それを隠すために伸ばした赤い髪は背中の中程まで伸びていて毛先はちりぢりになっていた。丸眼鏡の奥に見える目は何もかもを見通すように透き通っていた。


「え、こいつが校長?魔導学校の?なんでお前が知ってんだよっ!」


 サダクは何でレイラが会ったことのない校長の名前を知っているのだろうかと思った。彼女は魔導学校に通うつもりも無かったはずだった。


「な、なんでだろうなぁ……えへへぇ~」


 案の定、レイラは頭を掻いて苦笑いしていた。


「で、出た……不思議発言……」


 結局、サダクはまたレイラの先を知っているような発言に呆れた。


「私を魔導学校の校長と知っているとはさすがではないか、禍族の少女よ」


 校長は腰を曲げてレイラを見つめた。その目が自分の何もかもを見透かしているように思えて彼女は怯えるしかなかった。


「え、え~っと……」(せ、背が高いなぁ……。上から見下ろされててて、リアルだと怖えぇ……)


「君は面白いな……。しかし、力が足りないようだ……」


「そ、それって……」


「まぁ、ここでは落ち着かぬ」


「へっ?」


 レイラが戸惑っていると、彼はロングコートでで彼女を覆い、そのまま消えてしまった。

 サダク達は突然のことであっけにとられてしまった。


「あっ!?」

「き、消えてしまった……」

「どういうことなのだ……、彼女は校長だとか言っていたが」


 レイラは消える瞬間、イェッドがこちら見て何かを言っているのが分かった。しかし、その声は聞こえず、口の動きから何となく言っている事が分かったような気がした。


≪ せ・ん・た・く・は・む・げ・ん……≫


 その意味を理解出来ぬまま、彼女はその場から消えた。


----- * ----- * -----


 瞬間移動は魔力の高い実力者だけが使える魔法だった。

 その魔法で移動させられたレイラは、ゲームの経験でここが魔導学校の講堂だと分かった。縦長の部屋には講壇の後ろに椅子が多数並んでいた。天井が高く魔力でシャンデリアが浮かんでいた。明かりがステンドグラスを通して講堂を照らしていたが、少し暗く不気味だった。


「君の名前は……」


 ここには誰もいないためか、魔導学校の校長、コカブの低い声は講堂によく響いた。レイラは、リアルで聞くその声に圧倒された。


「レ、レイラと言います」(なんという心まで響くような声……、迫力ありすぎ……。ゲームは文字だけだったし……)


「そんなに警戒しないで良いのだよ。君はどこから来たんだ?」


「母星と呼ばれる星からです……あっ……」


「母星……。そ、それをどうして知ってる……」


「あ、え、え~っと……」(しまった……、これはもっと後に分かる設定だった……。またやっちゃった……)


 突然のストーリー分岐で戸惑っていたレイラはまたも知っている事を口走ってしまった。急いで口を押さえたがもはや遅かった。コカブはすさまじい眼でレイラを睨んだ


「どうして知ってるのだ!魔族達は誰もその事を知らない!」


「母星ではこの地のことを知ってるからです」(嘘ついちゃった、やっば、ストーリーが変わっちゃうんじゃ……)


「なんだと!母星ではそこまで分かっていたのか……、フレイヤはそこまで話していなかった」


 校長は理解出来ないのか、唸って考え込んでしまった。しかし、結論が出ないと分かると次に質問に移った。


「それにしても、君は私達を全く怖がっておらぬ。禍族は、見つけられ次第殺されてしまうのだぞ」


「えぇ、殺されちゃう?」(そこまで嫌われていたっけ?)


「いずれにしても君は母星には帰れない。母星から禍族がこちらに来ることはあっても戻ったという記憶も無い……。その前に殺されてしまうということもあるが」


「さっきから怖いこと言ってるのですが……」


「しかし、その魔力器……、とてつもない……。フレイヤ以上では……」


「魔力器……」(ここでは魔力器って言うんだっけ……。そう私は最大魔力が999もあるんだけど、肝心の魔力が貯まらない体質なんだよなぁ……。だけど、フレイヤ……?誰の事?また知らないキャラなんだけど……)


「その魔力器……。使えるかも知れぬ……。しかし、肝心の魔力が無い……、どういうことなのだ……」


 レイラは、ゲームでは見たことの無いイベントだったが、この後の展開が読めた。


「ふはははっ!育て甲斐があるというものだなっ!街中に戻すわけにも行かし、君はこの学校に通うがよい!寮にも入りたまえっ!」


「えぇ~っ!」(わざとらしい……。やっぱりそういう流れかぁ~……)


 レイラが適当な応答をすると、不思議な声が聞こえてきた。


《 寂しい……、一人でいつまでこうしていなければならないのだ……。誰か……、誰か……、私を助けてくれ…… 》


「えっ!?だ、だれっ!?」


「どうしたのだ?」


「い、いえ、なんでも……」(私にしか聞こえていない?)


 レイラは自分だけしか聞こえないのだと悟ると、これ以上のストーリー分岐は不味いと思って押し黙ってしまった。


「まぁ、良いだろう。この学校の寮に案内しよう」


「は、はい……」(あの声、ゲームでは無かったイベントだ……。もう分岐は嫌だぁ~~っ!あたま混乱しちゃうぅ……)


 ともかく、こうしてレイラは魔導学校に通うことになった。


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