レイラの憂鬱
新章の始まりです。
さて、ここは何処なんでしょう?
レイラは、魔導学校の教室で魔法について学んでいながら、なんでこんなところに居るのだろうかと考えていた。
(ここは恋愛ゲームの中よね……。リアルすぎて嫌になっちゃう……)
階段状の教室、その後ろの席に自分と友達が集まって座っていた。
右の席には二本の角の生えた筋肉隆々の男子生徒が授業など気にしないかのように眠っていた。寝ている彼の額にはまだ開いていない第三の目が髪の毛の隙間から見え隠れしていた。
左の席には、大人しい男子生徒が何かに怯えるように座って授業を聞いていた。
後ろの席には長身で耳の長いエルフのような男子生徒が真面目に授業を聞いていた。
(た・し・か・にっ!!この三人はゲームに居たわよ?攻略対象だもん……。だけど、可笑しいのはこいつっ!)
レイラが見つめた前の席には一本だけ角の生えた男性生徒が鱗まみれの尻尾を邪魔そうに横に向けて座っていた。制服はボロボロだったが、顔はニコニコしながら授業を聞いていた。
(こいつは誰なのっ!?こんなキャラ居なかったわよっ!しかも、右後ろのあの子も誰なのっ!?あんな友達キャラは居なかったわよっ!)
レイラがチラリと右後ろを見ると、足が八本あるアラクネ族の女生徒が彼女に手を振った。彼女は椅子に座ることが出来ず、足を丁寧に折りたたんで自分の足を使った特別な机の上で授業のノートを取っていた。
(もうわけ分かんないっ!)
教室の先頭の席では、羽族の女生徒が何名かの部下を引き連れて座っていた。彼女はキラキラと光っているようにも見えた。
(ライバルキャラのポリマも居るし、あのゲームと同じだと思うんだけどなぁ……。はぁ~……)
訳が分からなくなった彼女はため息をもらし、ふと教壇に目を向けると火の魔術を教える黒装束を着たメリュジーヌ族の教師がこちらを凝視しているのが分かった。
彼女の目線は明らかに右で寝ている男子生徒に向けたものだったので冷や汗が出て、ヤバいと思って右肘でつついて起こそうとした。
「(サダクッ!起きなさいよっ!)」
しかし、全く目を覚まさないため、教師の我慢は限界に達した。
「サダク君は私の授業に興味がないようですね……ブチブチ……」
怒りで教師の回りに火花が散り始め、右の人差し指を上に上げて何かつぶやいた。
「あちちちっ!」
すると突然、サダクがお尻を押さえて飛び上がった。彼の制服のズボンは黒焦げていて、よく見ると彼の座った椅子も黒ずんでいた。教師の熱波魔法だった。
「うぉ~、何が起こったぁぁぁっ!ケツが熱いっ!」
サダクが慌てて尻を見ようと腰を曲げたが見切れず、変な体制となったため、段々となった教室の階段で転び、教室の下まで転がっていった。
「い、痛ぇ……」
そのおかしな姿にレイラは吹き出してしまった。
「ぷっ!あははっ!」
アラクネ族の女生徒も馬鹿笑いをしていた。
「ぷぷぷっ!笑えるんですけどっ!ひぇひぇひぇ……、授業中に寝ているからじゃまいかっ!」
「ギエナッ!笑うんじゃねぇっ!レ、レイラも笑うなっ!」
サダクは、ギエナを睨んだが彼女の笑いは止まらないようだった。他の生徒達も笑いを堪えきれず、教室が笑いに包まれた。
「く、くそっ!」
彼が恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にしていると、丁度チャイムが鳴って授業の終わりを告げた。教師は怒りも収まってあきれ顔になった。
「はぁ~、やれやれ授業が終わってしまった……。皆さん、明後日は実習だから演習場までお越し下さいね。サダク君もっ!」
「は、はい……」
サダクが頭を掻きながら返事をするのを聞くと、教師は教室から出て行った。
「あ~あ、先生を怒らせちゃった……。知らないわよ、サ・ダ・ク・く・んっ!」
レイラはそう言ってサダクを咎めた。
「ちっ!魔術の授業なんてつまらないんだよっ!俺はこれだって」
サダクはそう言うと剣を振る仕草をして剣技を学びに来たんだと言いたげだった。そう言うと、後ろの席に居た男子生徒はあきれ顔になった。
「魔導学校で魔法を学ばなくてどうするんだ。早く自国に帰ることだな、サダク」
「ああん?シェラ、てめぇっ!喧嘩売ってるんのかっ!」
「だから、三ツ目族は嫌なんだ。いや、まだ二つ目族か?」
サダクは言われたくないことを指摘されてぶち切れてしまった。
「うっせぇなっ!」
そして、自分のおでこで眠ったままの三ツ目を指差した。
「これから開くんだよっ!見てろよ、これが開いたらお前なんて吹っ飛ばしてやるからなっ!」
レイラはまたかと嫌気がした。
「もう、止めなってぇ……」
左の席に居た男子生徒も呆れていた。
「そ、そうだよぉ……。≪ 喧嘩は止めなよ ≫」
彼がそう言うと、二人は何かの魔術にかかったかのように大人しくなった。
「そうだな……、フムアル」
「フムアルの言う通りだ……」
フムアルは慌てて大声を上げた。
「あぁ、ごめんっ!!魅了がかかってしまったよぉ……」
彼が両手をパチンと叩くとサダクとシェラは我に返った。
「ちっ、興ざめだぜ……」
「また、君の種族の魅了能力か……。まぁ、喧嘩は良くないか」
二人が冷静になったところで、前の席に座っている男子生徒が立ち上がった。
「さぁ、授業も終わったし、寮に戻ろうよ」
「イェッドの言う通りだよ、帰ろうよ。あ、魅了は使っていないからね」
フムアルがそう言うとサダクとシェラも帰り支度をした。
「だな、帰ろうぜ」
「ふむ、復習をしたいから私は図書館に行くよ」
男子生徒、四人が立ち上がって教室を後にすると、レイラはボ~ッとなって愚痴がこぼれた。
「う~ん、な~んで私がここに居るかなぁ……」
彼女のつぶやきにギエナが文句を言った。
「人間なんだから良いじゃまいかっ!私なんて蜘蛛なんだからっ!」
「アラクネ族だから蜘蛛よね……」
レイラはギエナの話した内容の意味が分からなかった。
「……ふんがぁ~、何でもないっ!お腹も空いたし、私達も寮に帰ろうよぉっ!」
「そだね」
レイラが帰り支度をして席を立ったとき、不気味な声が彼女の心に響いた。
≪ 苦しい……、もう一人は嫌だ……、誰か来てくれ…… ≫
その低い嘆き悲しむ声は、何故か自分だけにしか聞こえていなかった。
(また、この声……。これもゲームに無かった設定なんだよなぁ……。何なのよ、もうっ!)
突然、静止したレイラをギエナが心配した。
「どしたの?」
「ううん、何でもない。お腹空いたねっ!行こっ!」
「今日のご飯は虫団子っ!」
「うげぇ……」
「えぇ~、慣れると美味しいよぉ~」
「私は普通のが良いっ!」
二人はたわいのない話をしながら教室を後にした。




