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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の二:嫌になったら生まれ変われば良いんじゃね?
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転生への道②

 その夜、松田浩一は母親に今夜は一人で寝ると宣言して、小さな部屋で寝ることにした。一人で寝ることは初めてだったので怖かったが、あの影の言うことを聞かないと、また開成に殴られると思った。あの影と開成がどうして関係しているのかなどの考えには至らなかった。ただ、言うことを聞かなければ殴られるということだけが最大の恐怖だった。


 しかし、今は暗い部屋に一人でいることが怖かった。


"う~、怖いよぅ……。ほ、ほんとうにくるのかな……"


 松田は、布団から半分顔を出して天井だけを見つめていた。

 天井の模様があの影のようにも見えるし、しかし、影だからこの暗闇に居たら分からないんじゃないかとも考えていた。だが、眠気には勝てずいつの間にか眠りに落ちていた。


----- * ----- * -----


 松田がふと目を開けると、自分が真っ暗な空間にいることが分かった。

 そこは、床も見えない空間だった。よく見ると遠くに小さな星々が輝いていて、しかしそれは時々ゆがんで見えていた。


「こ、ここどこだよぅ……。ど、どうして落ちないの……?」


 戸惑っていると突然、あの不気味な声が後ろから聞こえてきた。


「言うことを聞いたな、偉いじゃないか」


 その声は、今度はある程度、ハッキリと聞き取ることが出来た。大人の女性の声でもあったが、耳から聞こえているというより、感じているように思えた。


 恐る恐る松田が後ろを向くと、大きな女が自分を見下ろしているのが分かった。


「ひ、ひぃ、おおきいっ!あなたは、だれなの?」


 松田には、彼女の身体はよく見えなかった。それはあるようで無いようにも見えた。大きなマントのようにも見え、そのマントには周りと同じように星が輝いていて、一部は真っ黒で渦を巻いているようにも見えた。彼女の髪の毛に髪飾りも見えたが、その髪はマントと一体になって真っ黒に広がっていて、大きな宇宙の中に顔が浮かんでいるようにも見えた。


「私か?私のことはどうでも良いんだよ」


「こ、ここはどこ?」


「ここは宇宙さ」


「うちゅう!?うちゅうって、あのまっくろなうちゅう?」


「そうさ、お前たちの居る宇宙を裏側から見ているんだよ」


「うらがわ?わからないよ……」


「そんなことはどうでも良いのさ。お前はあいつをやっつけたいのだろう?」


「あいつ?か、ひでゆきのこと?」


「ふん、そんな名前なのか」


 女は開成の名前を知らないようだった。彼と仲が良いのだと思っていたので松田にとってそれは以外に思えた。


「そんなことより、どうだ?やっつけたいか聞いてるんだよ」


「やっつけたい……、なぐってやりたいっ!」


 松田は、やられっぱなしでは悔しかったので逆に殴り返したいと思っていた。しかし、言った後にしまったと思った。


「あ、でも、あ、あなたは、ひでゆきの友達……でしょ?」


「友達なんかじゃないよ。あんなやつはどうでも良いのさ」


「ち、ちがうの……?なら、どうして……?」


 いつも開成の後ろに居た彼女が味方ではないと言って、松田はどういう事かと思った。更に彼女は不思議な事を言った。


「私はね、お前の味方なのさ」


「味方……?」


 自分を殴るように後ろから開成を操っていた者が自分の味方だと言った。しかし、松田は疑問に思うよりも安心してしまっていた。


「そうさ……。だから、良いことを教えてやろう」


「良いこと……?」


「お前はあいつになることが出来るんだよ」


 だから、彼女のそんな言葉も素直に受け入れてしまった。


「ぼくが、ひでゆきになれるの?」


「そうさ、私が力を与えてやる」


「ちから?そ、それは……」


「相手に転生する力さ」


「て、てんせい?」


「そうさ、相手の身体を乗っ取ることの出来る能力だよ」


「の、乗っ取っちゃうの?」


 松田はそんなことをしても良いのかと思ったが、次の言葉でそんな疑問は吹き飛んでしまった。


「この能力でお前は最高に特別な人間になれるのさっ!」


「とくべつなにんげんにっ!すごいっ!」


 松田がそう言うと、女は大きく微笑んだ。その笑顔はしてやったと喜んだ顔だった事に彼は気づかなかった。


「そうさぁっ!良い子だ、お前は特別なんだよっ!さぁ、目を覚ませっ!私が力を授けてやるんだっ!」


 すると彼女の真っ黒な身体が大きく広がり、松田を覆った。


「め、目を覚ま……す……」


 松田は真っ黒なマントのような宇宙のようななんとも言えないベールに包まれて、自然と目が閉じられた。


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