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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の二:嫌になったら生まれ変われば良いんじゃね?
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観察する者③

 津名ほずみはフットサル部のエースとしてチームを引っ張り、全国大会にも出たことのあるぐらいのスポーツマンだった。ルックスも良かったため、廊下を通ると女性達の視線は彼に集中した。とにかく一挙手一投足が格好良く決まっていて、男も惚れるような人間だった。


 しかし、津名は交通事故に遭ってしまい、もはや学校への登校は不可能だという情報がクラスのSNSグループに流れた。


┌───────────────────┐

│津名君、交通事故だって        │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│え~、マジで?            │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│学校に来られる状態じゃないって    │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│格好いいと思ってたのに!       │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│惚れてた?              │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│みんな惚れる             │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│はぁ~、大丈夫かなぁ         │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│心配だね……             │

└───────────────────┘


 この情報を見た時、螢田はすでに彼の変わり果てた姿を事故現場で見ていたので何とも思わなかった。


 しかし、その津名がある日、何も無かったように学校に登校してきた。教師は驚きの声を上げ、生徒達は声を失った。


「お、お前……身体は……平気なのか……、ほ、報告だとお、お前は……」


「先生、やだなぁ、僕は見ての通りピンピンしていますよっ!」


「だ、だけど、お前の祖母の話だと……。い、いや、今は止めよう……」


 このやり取りを螢田は家から見て驚き、そして学校に登校することにした。


 しばらくして、螢田は津名が久しぶりに部活に出ると聞いたので自分もフェンス越しに練習試合を見ることにした。横には女生徒達が黄色い声援を津名に送っていたので彼は嫉妬して腹を立てた。


(相変わらずモテやがってムカつくぜ……。いや、それが良いのか)


 しかし、津名は試合で活躍するどころがチームの足を引っ張り、やがてコートで倒れてしまう始末だった。螢田はフェンス越しにそれを見て絶望した。


「ちっ!んだよあれっ!貧弱過ぎっ!あれだと使えねぇ……」


 螢田は、津名を抱えて何処かに向かった大寬を遠目で見ると、木陰に移動して誰とも分からない者に話しかけた。


「おいどうするんだよ、あれじゃあ使えないぜ」


(……)


「別の奴?」


(……)


「あぁ、蓮沼か。あいつでも良いかもしれねぇな。だけど、頭悪いだろ」


(……)


「贅沢言うなってか?ちっ……、邦幸よりましか」


 螢田はそう言うと帰宅した。


----- * ----- * -----


 ともかく、津名はすぐに泣くようになったり、運動が出来なくなっていたり、生徒会に楯突くようになったり、何度も職員室に呼ばれるようになったりと、螢谷も他の生徒からもろくでもない生徒にしか見えなくなっていた。かつてはヒーローだった彼が落ちぶれていく姿を見て螢田は心がスカッとした。そして、"こいつにしなくて"良かったなと思った。


 文化祭準備が始まると、委員会の津名達はクラスの出し物を決めた。それは自分が生まれる遙か前に発売されたファミコンソフトをネタにしたものだった。螢田はバカにしてやってられるかよと思った。


(くっだらねぇ、バカじゃねぇの?)


 螢田はクラスのSNSグループに罵詈雑言を投げ始めた。


    ┌───────────────────┐

    │くっだらねぇよな           │

    │あんな出しもんやるかよ        │

    └───────────────────┘

┌───────────────────┐

│そうだよな              │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│言えてる~              │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│うけるよね              │

└───────────────────┘

    ┌───────────────────┐

    │参加する奴はぜって~、あほっ!    │

    └───────────────────┘

┌───────────────────┐

│だね~                │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│やらんやらん             │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│そっこー帰るわ            │

└───────────────────┘


 この時は同意する者が多く満足していた。津名が壇上に立って演説した時も螢田は悪口を投稿した。


    ┌───────────────────┐

    │何あれ!笑えるわ!          │

    │いつの時代の青春劇だよ!       │

    └───────────────────┘


 この時は誰も返事をしなくて、変だとは思ったが特に気にしていなかった。


 しかし、それは風向きが大きく変わった事を示していた。翌日からは、クラス総出で出し物を作り始め、帰宅するものは螢田だけになった。


    ┌───────────────────┐

    │おい、なんでみんなして手伝ってる?  │

    └───────────────────┘


 すでに螢田の発言には誰も応答しなくなっていた。


    ┌───────────────────┐

    │なんだよ、誰か返事しろよ       │

    └───────────────────┘


 SNSには彼のコメントだけが残るようになり、やがて既読もつかなくなった。


    ┌───────────────────┐

    │みんなクソだな!!!クソクラス!!  │

    └───────────────────┘


----- * ----- * -----


 螢田は帰宅するなり鞄を投げ捨てて叫んだ。


「あぁっ!っざけんなっ!どいつもこいつもクソばかりだっ!!」


 夕食に支度をしていた母親はその手を止めたが、恐ろしくて息子には近づけなかった。


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