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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の二:嫌になったら生まれ変われば良いんじゃね?
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ウチュウ愛

 その夜、津名は自宅でボ~ッとしていた。


「……お腹空いた」


 極限貧乏生活者の彼の家にはろくに食べるものが無かった。

 日高は、冷蔵庫に頭を突っ込んで空っぽなのを確認した。


"冷蔵庫には何もないねぇ……。おじいちゃん、おばあちゃんに甘えては?"


「おじいちゃん達も年金生活だしさ……」


"そっか~……。う~ん、こればかりは助けられぬ、どうする麻帆ちゃん……"


 津名と日高がそんなことを話していると、彼の家の扉があり得ない勢いで突然開いた。


バコンッ!!


"ぎょっ?!わ、わんた?"

「だ、大寬さん?」


 そこには仁王立ちした大寬がスーパーに袋を握りしめていた。


「入るわよ」


「は、入る?てか、鍵かかっていた……はず……。あぁっ!扉を壊したなっ!」


 この時代では珍しい取っ手のついた扉は、彼女の後ろで風でゆらゆらとしていた。彼女の足下には見事に破壊された取っ手が落ちていた。


「あぁ、扉がぁ……なんということを……、酷いっ!」


 津名は大寬の後ろの扉に向かった。すれ違いざまの彼女は顔を赤らめて下を向いていた。


「ふ、ふんっ!」


 大寬は部屋に入ると、スーパーの袋から食材を取り出し、電気コンロに火を入れると料理を始めた。


「電気は通っているのよね、良かったわ」


 津名は扉を何とか閉めると大寬に向かった。


「この時代ってガスコンロって無いんだね、って、違うっ!りょ、料理、してくれるの?どうしたのさ」


 大寬は津名を指差して睨め付けた。


「あ~んたがご飯も食べずにいるからでしょっ!」


「は、はぁ……。なんで分かった……?」


「昨日もお昼を食べていないから分かるわよっ!いいから机とか、お皿でも出して座ってなさいっ!」


「は、はい……。し、しかし、大寬さん……お皿が……えぇ~っと……」


「はぁっ?!無いのっ?!ちょっと、炊飯器も無いじゃないっ!あり得ないんですけどっ!」


「そうかも……、あはは……」


「もうっ!!私の家から持ってきてっ!」


 津名は頭を掻いて苦笑いをしたが、大寬は呆れていた。


「え、えぇっ?!」


「開いてるから、すぐに取ってきてっ!」


「わ、分かりました……、し、しかし、少し不用心では?」


「は・や・く・し・てっ!」


「は、はいぃぃ……」


 津名は急いで大寬の部屋に移動して皿と茶碗と炊飯器を持って戻って来た。


「け、結構高そうな炊飯器ですねぇ」


 炊飯器を電気プラグを差して津名は驚きの声を上げた。炊飯器はこの時代の最新機だった。


「えぇ~、何これ、うわっ!空中ディスプレイ、すげぇ~っ!ふぇ~……、これが時代の流れか」


「そんなことより、ご米を炊きなさいっ!」


「は、はいっ!」


 すでに津名は従順な奴隷と化していた。


「あれ、これ無洗米って書いてある……。ま、まさか洗わなくて良いのっ?!まさかねぇ……」


 無洗米と書いてある米袋を見つめて驚いている津名にさすがの日高も呆れていた。


"君は相変わらず古い人じゃなぁ……。大丈夫なやつじゃぞ"


「えぇ、ほんとっ?すごいっ!楽ちんだね」


"あっ、炊き方はこうでこうだぞ"


「ありがとうっ!!」


 日高は、料理をしている大寬と炊飯器のスイッチを入れた津名を見て何かを悟った。


"う~、私はお空が見たくなってきたぞや。そんじゃあねぇ~"


「う、うん?日高さんっ?」


 日高は天井を突き抜けて何処かに行ってしまった。


 津名は取りあえず、テーブルを出してぼ~っと大寬がご飯を作っているのを待った。


"……あれ、これって何か良いなぁ……Zzz"


 しかし、しばらくするとウトウトとし始めて寝てしまった。


「起きなさい、イフレ」


 しばらくして、ご飯と食事の匂いで津名は目を覚ました。目の前では大寬がご飯をよそっていた。


「う、うん……」


「起きた?出来たわよ」


「おぉっ!!」


 目の前には食事が揃っていてその匂いで腹が自然と鳴った。そして、津名は目に涙を貯えた。


「う、うぅぅぅ……」


「何で泣くのよっ!」


「だって、美味しそうだよぉ~。食べて良いの?」


「良いに決まってるでしょ」


「何このご飯っ!ふわっとしていて色艶もすごいっ!う、うまぁぁっ!うぅぅぅ……」


「泣きながら食べるとか、バカねっ!」


 食事を食べ終えると、津名は洗い物を台所に置いて、また大寬に礼を言った。


「ありがとうっ!うぅぅぅ……こ、こんなに美味しいとは……」


「また、泣くっ!良いから、ここに座りなさい」


「えっ?どうしたの?グスッ」


 津名は大寬の指差したとおり、彼女の右に座った。するとおもむろに彼女は津名の左手を掴んで揉み始めた。


「こうして刺激をすれば早く動くようになるでしょ」


「あ、ありがとう……」


「もう、なんて冷たい手なのっ!」


 彼女は津名の左腕を揉んだり、動かしたりとリハビリをしてあげた。


----- * ----- * -----


 その空では日高がふわふわと浮かびながらあくびをしていた。


"ふぁ~……、何だらかんだら言ってても~……。うん、これはウチュウ愛じゃいなっ!"


 誰も居ないのに決めポーズをした。


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