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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の五:サダク編:全てが消える
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三ツ目族の秘密

 キナーンの映像を見終えたダビは、胸の奥の何かが切れたかのように宿舎を飛び出した。怒りと悲しみを力に変え、足を震わせながら王宮へ戻ると、母の居室の扉を乱暴に叩き開け、躊躇もなくキエティに詰め寄った。


「母さんっ!!」


「ダビ、どうしたの、大きな声で」


「キナーンが死んだ……」


 涙すら枯れ果てたような沈黙の中、ダビは胸の奥に燻る憎悪を必死に押し殺していた。キエティがキナーンを死に追いやったとしか思えず、その不条理さがどうしても受け入れられない。拳を固く握りしめ、指先に白い力が宿るのを感じながらも、母に感情をぶつけることができずに苛立ちだけが増していった。


「あら、そう」


 その軽やかで他人事のような一言が放たれた瞬間、ダビの中で抑えていた何かが堰を切った。冷たい言葉と母への裏切りへの怒りが一気に噴き出し、彼の声は震え、身体に異様な熱が走り始めた。


「そ、それだけ?たったそれだけかっ?あ、あれだけ……、あれだけ可愛がっていたじゃないかっ!」


「少し反抗期だったし、丁度良かったわ」


「ちょ、丁度良かっただってっ?!あいつは死んだんだぞっ!!」


「裏で色々と反抗していたのよ?これから王になるあなたを支えなければならない立場なのに。プリマにも何とかさせようとしたけど無理だったみたいね」


「ふ、ふざけるなっ!!もう一人の息子みたいだって言ってたじゃないかっ!!あいつは俺なんかよりもよっぽど未来を考えていた。これを見ろっ!」


 映像の最後に浮かんだのは、キナーンが描いた街の未来図――、詳細なロードマップだった。城や城下町、ウルサリオン族の集落を含めた三者同盟による国家構想が緻密に示され、条約案や実施計画に至るまで図表や注釈とともに記されていた。


「あ、あいつは、キナーンは全員が生き残る道を考えていたんだよっ!!」


「……そんなもの知らないわ」


「嘘をつけっ!これを見せたことがあったはずだっ!あいつは何度も来ていただろうっ!城を攻撃する前にも来ていたっ!」


「ウルサリオン族とも契約した後にそんな提案聞けるわけないでしょ?」


「母さんがあいつの言葉を全く聞かないから死んでしまったんだっ!どうして分かってやれなかったんだよっ!!」


「それよりも落ち着きなさい、ダビ、あなたが次の王になるのよ。もっと自覚を持たないといけないわ」


「あぁぁぁっ!!王、王、王ってっ、ふ、ふざけやがってぇぇぇっ!!王がなんだってんだっ!!!王なんてどうでも良いんだよっ!どうしてこのままじゃだめなんだっ!街が大きくなってそれだけじゃダメなのかよっ!王族までいたぶる必要があったのかよっ!!」


「ダ、ダビ、どうしたのよ……」


「キナーンを……、キナーンを返せぇぇぇっ!!返せぇぇぇっ!!あぁぁぁっ!!」


 ダビの怒りの感情は頂点を迎え、身体は燃え上がるような真っ赤な色に染まり始め、光り輝き始めた。それに伴って彼の周りの空気が静かに動き出し始めた。


「あなた……身体が真っ赤に……?な、なにこの風……?ダビッ?ダビッ?どうしてしまったの……?」


 戸惑い焦るキエティの後ろから、突然、不気味な笑い声が聞こえる。


「ふはははっ!キエティの息子が先に魔力暴走になるとはね。まぁ、さすが君の息子だ」


「……あ、あなたは誰?」


 その気味の悪い男は頭を下げて丁寧に挨拶をした。


「あぁ、申し遅れた、キエティ殿。今回はお初にお目にかかる。私はコカブと申す。魔導学校の校長を務めている」


「コカブ?中央の魔導学校の校長が何だって言うの?」


「三ツ目族は実に面白い。魔力が多き者は暴走を起こすのだからな。君たち三ツ目族が少ない理由が分かったよ。君たちの祖先がこの地を作ったようだ」


「この地を作った?」


「そうだよ、遙か昔のことだから知る由もあるまい。

ここは小さな空間だったはずだが、君たちの祖先……、その時は理性もあったかどうか分からないが。その頃の君たちは怒りに暴走すると大きくなって爆発する。その爆発でこの空間が出来たと言うことだ。いやはや何人が暴走すればここまで大きく広がるのやら」


「何を言っているの……」


「君やら一部の三ツ目族が何故魔法を使えると思うのだね?」


「し、知るわけないでしょっ!……だから、あなたは何なんなのっ!?」


「本来なら魔力が大きい魔族のはずだが、武力を推し進めることでその事を忘れるようにしてきたのだろう。時たま君のように自分の魔力に気づく者が現れてしまうようだがね。君たちの王は冷静でいるのは自分が暴走するのを恐れているからみたいだな。……ふむ、伝承を聞いているのか?」


 コカブは自分が研究した三ツ目族について話し続けたが、キエティにとってそれはどうでも良いことだった。今はダビを助けなければならなかった。


「ふざけたやつっ……。そ、それどころではないわっ!あ、あぁ……、ダビッ?ダビッ?……だ、だめだ眩しくて近づけない……」


 ダビは魔力暴走のため身体は赤く光り輝き、彼の周りは暴風領域になっていて、キエティはその眩しさと風の強さのために近づくことが出来なかった。


「ダメよ、ダメよ、ダビィ、ダビィィィッ!!!あぁ、あぁっ!私の王……、はぁぁぁっ!!!」


 コカブは、泣き叫ぶキエティを見てほくそ笑んだ。


「キエティよ、お前に魔力を与えよう」


「はぁっ?だから、何なのだっ!!消えろと言っているっ!」


 キエティの言葉を無視してコカブは詠唱を始めた。


<< ワ・アイ・ヱヤ・ア・メ・ソ! >>


「そ、その魔法はなに……?聞いたこともない詠唱……」


 コカブが最後まで詠唱し終わると、キエティは自分に起こり始めた異常に驚愕した。


「あぁ、なんだこれはぁぁぁ……、自分が……、自分が大きくなっていくぅぅぅ……。な、なにをしたぁぁぁっ!!何をしたぁぁぁっ!」


 自分もダビと同じようになってしまったことをキエティ自覚したが、もはや自力ではどうにも出来なくなっていく。


「あぁぁぁっ!!熱い……、熱いぃぃぃ……。ダビィィィ……、ダビィィィ……、ひ、広がる……、自分が広がるぅぅぅ……」


 二つの魂は膨れ上がり、互いが重なり合っていったが、質量を持たない魂は目に見えず、傍目には巨大な二つの太陽があるようにしか見えなかった。その太陽は強大な風を這わせ、神殿は次第に破壊し始めていく。


 魔法でバリアを張っていたコカブはこの光景を見て高笑いを続けた。


「そうそう、これだよっ!!キエティの方が魔力が数倍大きいっ!あははははっ!君を次の魔王にするんだっ!もっともっと暴走してくれっ!!ふははははっ!ヒヒヒッ!サダクビアは、レイラに押さえられてしまったし、キナーンとやらでは大人しすぎてね、やはり、君のように強大な魔力を持っていないとっ!ほらほらほら、もっともっと暴走してくれたまえぇぇぇっ!!ふはははっ!」


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