現実的な侵入方法
レイラ、サダク、イェッド、ポリマ、ギエナの五人はスナーコ・リプキャの街中で戸惑っていた。レイラは混乱したかのように唐突に大通りの真ん中に立ち、声を張り上げた。
「誰もいないぞ~~っ!」
その声が響いても街は静まり返ったままだった。サダクも目を見開き、辺りを見回す。
「レイラ、どういうことだ? 千人は住んでそうな街で、誰もいないなんてあり得ないだろ」
「私にもわからない……。うぉぉぉ~っ!」
サダクは少し前に上空から見た街並みを思い返し、何が起きたのかを必死で考えを巡らせた。
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少し前、レイラたちは街を取り囲む巨大な壁に行く手を阻まれていた。サダクは壁に手を触れ、突破口が見つからないことに苛立ちを滲ませている。
「レイラ、お前なら先のことを知ってるんだろ?予言者だろ?」
「ちがうよ、予言者なんかじゃないって(ゲームのシナリオを知っているだけ……)。確かここは――」
壁ははるか上空までそびえ、街をまるで要塞のように包んでいた。ただし海岸線だけは例外で、壁が作られておらず開けている。ゲーム上ではその海岸側から船で乗り入れるイベントになっているため、要は船を手に入れる必要があった。
「船?そいつは何処にあるんだよ」
「あっち……」
「はぁ?城下町にあったのか?」
「違う、も~っと向こうの街……」
その船は城と城下町を越えた東側に住んでいる魚民から入手する必要があった。
「多分、実際に歩くとなると十日ぐらいは掛かる(ゲームだとすぐだけどなぁ……)」
「はぁっ!?んなにかかるのかっ!それなら最初からそっちに行けば良かったじゃねぇかっ!」
怒鳴るサダクを、イェッドが静かに制した。
「サダク、怒りを抑えて。忘れたのか?君が先に城下町に入ったんだ」
「くっ!」
注意を受け、サダクは自分の暴走が原因だと責められているようで苛立ちを覚えた。しかし、これ以上感情に流されたらどうなるか分からない。必死に怒りを抑えようとする。
「だが、悠長に構えている暇はない!スウドがどうなっているか分からないんだ!」
サダクの言葉は尤もだった。手紙を受け取ってから数日が過ぎ、城の陥落がいつ起きたのかも分からない。既にスウドが命を落としているかもしれない——その不安がサダクを焦らせていた。
「で、でもね、ゲームと違うのはイェッドやポリマがいること。二人の力を使えば良いのよっ!」
「そうかっ!羽で飛べば良いのかっ!」
「んがっ!レイラ~ッ、あたしだって蜘蛛糸で何とかあるんだぞっ」
「ギエナなら出来るよねっ!」
確かにギエナの蜘蛛の糸があればゲームでも登れたんじゃないかとレイラは思った。
「だけど、俺とレイラはどうすれば良いのだ……」
「風魔法があるから大丈夫っ!……そうなんだよね、使えちゃうんだよね」
それに風魔法で空から入ることも出来た。
「んだよっ!船なんていらねぇじゃねぇかっ!すごいぜ、レイラッ!」
「そうだね、船は要らないね……。何だか複雑な気分……」
サダクはその展開に大声で喜んだが、レイラは壁の上空を見上げ、どこか複雑な気持ちでいた。
ゲームの演出なのか、船を手に入れるイベントの名残なのか判然としない。制限されたゲームとは違い、現実では何だってできる――そう思いながらも、ゲームのことをあれこれ悩んでも仕方がないとも感じていた。
「これが現実だよ、レイラちゃんっ!」
ギエナがからかうように言うと、レイラは思わず苦笑した。
「ぷっ、あははっ。そうだね」
結局、ゲームの筋書きはひとまず脇に置き、五人はそれぞれ空へと飛び立った。
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「それじゃぁ、僕とポリマは先に行こうか」
「イェッド、そうね。ギエナはどうするの?私に"くっついて"いく?」
「また、たんこぶ出来るからいやじゃ~っ!」
ギエナは頭を押さえながら本気で嫌そうな顔をした。彼女は、ウルサリオン族の街でポリマの下に蜘蛛糸でぶら下がった時のことを思い出した。あの時は一気に眠気が覚めるような痛い思いをしたのだった。
「あっそ、勝手にしなさい」
ポリマは、肩をすくめると羽根を広げて飛び立った。イェッドがそれに続いていった。
「レイラ~、あたしも先にいくぞぉ~」
「うん、私達もすぐに行くよ~」
ギエナはレイラに一言残すと蜘蛛の糸を壁に貼り付けながら登っていった。
「あれ?たんこぶって……?」
レイラは、ギエナのたんこぶが自分の作った巣から落ちたときのものだと言っていたのを思い出し、ポリマとギエナの関係がどうなっているのか首を傾げた。
「まぁ、良いかぁ。サダク、私達も行こうか」
「おうっ!」
「キャッ!」
その瞬間、サダクは素早く回り込み、ためらうことなくレイラをお姫様抱きにした。驚きで抵抗する間もなく、彼女はあっさりとその腕の中に収まってしまった。
「な、なにするのっ!」
「一緒に飛ぶんだろ?この方が良くないか?」
「……そ、そう?し、仕方が無いなぁ……(近い近い近いっ!……で、でも、えへへ……)」
最初は恥ずかしかったが、実はサダクのすぐそばにいられることが何より嬉しかった。安心感に包まれて、そのまま身を委ねて眠ってしまいたいとさえ思い、目を閉じた。
「お、おい、行かないのか?」
「そ、そうでしたぁ~……」
――がそうもいかず、レイラは抱っこされた状態で少し唱えづらかったが風魔法を唱え始めた。
「ゴ、ゴホン……」
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二人は風に乗って上昇していった。だが、壁に張り付いていたギエナがニヤけながらこちらを見ていた。視線がぶつかると、レイラは恥ずかしさで顔を赤らめ、思わず舌を出して杖で顔を隠した。




