親友①
翌朝、キナーンとアルバリが忽然と姿を消したことが知れ渡ると、スナーコ・リプキャの街は騒然となった。
無論、キナーンの魔法によって街が大きくなったことも周知の事実だった。さらに、その優しい性格から普段から街の人々の悩みを聞いては何かと助けていた。彼は主に町医者としての役割もあり、エンチャントされた道具の不具合を直す道具屋としても活躍していた。また、悩みを聞いて解決するカウンセラーとしても信頼されていた。
また、キナーンはその甘いマスクから女性にもモテていた。プリマと色々と噂が絶えなかったため近寄れない女性が多かったが、彼が通るだけで街中の女性の騒ぎとなった。
その上に彼は魔法部隊を率いているため、多忙を極めていたのだが、その彼が忽然と居なくなった。いくら大きくなったとはいえ、その噂はあっという間に広がり、街は不安を訴える人々で溢れかえった。
「キナーン様が居なくなっただ?」
「何があっただ?この前、おらの娘の病気を治してもらっただよ……」
「はぁ、エンチャントロープが弱ってしまったってのに」
「この頃、研究に没頭しているという噂だったが……」
「キナーン様にどうされたんだべぇ~、うぅぅ、グスッ……、グスッ……」
「小舟が一つ消えたって噂だべ……」
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武装部隊の寄宿舎で寝ていたダビは呑気に昼過ぎまで寝ていたが、部下の激しいノック音で起こされた。
「あぁん……、なんだよ?昨日は遅くまで飲んでたってのに……。ちっ、頭が痛いぜ……。……はぁっ!?キナーンが消えたっ!?」
ダビは、また引きこもっただけだと思ったが、部下たちの青ざめた顔や騒ぎ、神殿から肩を落として自宅に戻る姿を思い出して、眠気が一瞬で消えた。
「分かった……。クソッ!あいつっ!!!」
すぐに身支度をすますとキナーンの住む魔法部隊の宿舎に向かった。
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ダビが魔法部隊の宿舎に到着すると隊長と副隊長を失い混乱状態だった。部隊員は誰もが不安になって右往左往しているだけだった。
「お前らっ!キナーンが居なくなったと聞いたぞ。どうなったっ!!」
ダビの大声で部隊員は一瞬で引き締まり、静まった。慌ててタスキが彼に駆け寄った。
「ダ、ダビ様……」
「タスキ、状況を教えろ。本当なのか?キナーンとアルバリが居なくなったというのは」
「は、はい……。朝の練習に二人とも現れず、心配して二人の部屋を確認に行ったところ、アルバリの部屋にこれが置いてありました……」
ダビが手にしたのはアルバリの書いた手紙だった。
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│部隊のみんなへ │
│隊長は今晩、恐らく死を選択しようと │
│しています。 │
│私は隊長を止める資格はないけど、後を │
│追ってみます。 │
│もしかしたら戻らないかもしれない。 │
│私達がいなくてもしっかりと街を守って │
│ください。 │
│みんなお元気で │
└───────────────────┘
その手紙を読んでダビは不安が確信に変わった。目を瞑り、歯を食いしばったが、自分の立場を考え、冷静に動くしか無かった。目を開けるとキナーンは静かにタスキに確認した。
「……あいつ(キナーン)の部屋からは?」
「今のところ何も……」
「そうか……。お前たちは今まで通り行動しろ。街中にこの騒ぎが広がっている。これ以上噂を流すな」
「は、はい」
そこまで指示をするとダビは何処かに向かって歩き始めた。
「ダビ様はどちらに?」
「あいつの部屋に行く」
ダビは静かに動き出すとキナーンの部屋を目指して歩き始めた。その顔は怒りとも苦しみとも取れる顔をしていたため、タスキはそれ以上何も言えず、部隊員を集めてダビの指示を伝えた。




