軟弱部隊長②
結局、アルバリは不安は現実のものとなってしまった。
キナーンが部屋に籠もってからすでに五日が経過していた。食事も取らずこれだけの期間を過ごせるとも思えず、アルバリはこのまま放ってもおけず、意を決して扉をノックした。
「た、隊長……?そろそろお食事を取らないといけませんし……隊長?」
だが、いつも通り何も返事はなかった。
その無音が彼女の不安をさせ、もしも何かあったらと思うといても立ってもいられじ、扉に手をかけた。
すると意外にも鍵はかかっていなかった。
「あれ?開いてる……。し、失礼しますっ!」
中に入ってアルバリはすぐに彼の寝室の扉を開けた。
「隊長っ!!ご無事ですかっ?」
部屋は荒れ果てており、キナーンが長い間手入れをしていないことが一目で分かった。空気は重く、湿気がこもっているせいで隅には小さなキノコまで生えている。かつて部隊員たちと食事を囲んだ時は、きちんと片付けられていたことを思い出し、アルバリは胸が痛んだ。几帳面だった彼が、こんな状態で過ごしていたとは信じがたい。
「……い、いらっしゃらない?」
寝室にも姿はなく、部屋中を探してもキナーンの気配はどこにも見当たらなかった。
「どうされたんだろう……」
食事も取らず、キナーンは忽然と姿を消してしまった。その事実はアルバリの不安をさらに募らせた。
「隊長……お食事も取らずに……。どこに行かれたの……何かあったのかしら……あぁ、隊長……」
心配で胸が締め付けられるアルバリ。部屋の中を見回しても、キナーンの気配はどこにも感じられない。何度も名前を呼んでも返事はなく、ただ静寂だけが広がっていた。
その時、不意に背後から声が響いた。
「おいっ!」
「きゃぁっ!」
驚いたアルバリは思わず転びそうになり、慌てて振り返ると、そこにはタスキと他の隊員たちが立っていた。
「なんだ……タスキかぁ……。驚かさないでよ……」
「なんだはないだろ?隊長は居ないのか?」
「うん……」
「出かけてるなら探してみるか。なんも食べてないからヤバいよな」
「そうなの……うぅぅ」
アルバリは今にも泣き出しそうになっていた。それを察したのかタスキは仲間たちに命令下した。
「みんなで隊長を探しに行こう」
隊員たちはうんと頷くとそれぞれが散っていった。
「アルバリ、お前はここで隊長を待っていてくれ」
「うん……ありがとう……グスッ」
「んじゃな」
アルバリは幼馴染みの気遣いに感謝し、涙をそっと拭った。しかし、胸の不安は消えず、じっと待つこともできなかった。彼女は窓を開けて新鮮な空気を入れると、気を紛らわせるために部屋の掃除を始めた。掃除に集中するうち、少しずつ気持ちが落ち着いていくのを感じた。
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掃除し終わったアルバリは、キッチンの椅子に静かに腰掛けた。手にはキナーンの魔法部隊の制服が握られていた。
「ふぅ……お掃除は終わったけど、隊長はまだ戻らない……」
隊員たちも戻らず、どうしていいのか分からないまま、アルバリはキッチンを見渡した。そこには、かつて隊員たちが集まって食事をした賑やかな光景が思い浮かぶ。
「またみんなで一緒にご飯を食べたいです、隊長……」
涙がこみ上げ、キナーンの服をぎゅっと抱きしめた。
「隊長の匂い……早く戻ってきて……あなたがいないと……」
服の温もりに包まれ、少しずつ心が落ち着いていく。
「……戻られたら……"お帰りなさい"って言えばいいのかしら……」
安心感と疲れに身を委ね、アルバリはそのまま静かに眠りに落ちていった。




