表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の四:サダク編:夜の闇に溶ける
156/183

軟弱部隊長②

 結局、アルバリは不安は現実のものとなってしまった。

 キナーンが部屋に籠もってからすでに五日が経過していた。食事も取らずこれだけの期間を過ごせるとも思えず、アルバリはこのまま放ってもおけず、意を決して扉をノックした。


「た、隊長……?そろそろお食事を取らないといけませんし……隊長?」


 だが、いつも通り何も返事はなかった。

 その無音が彼女の不安をさせ、もしも何かあったらと思うといても立ってもいられじ、扉に手をかけた。

 すると意外にも鍵はかかっていなかった。


「あれ?開いてる……。し、失礼しますっ!」


 中に入ってアルバリはすぐに彼の寝室の扉を開けた。


「隊長っ!!ご無事ですかっ?」


 部屋は荒れ果てており、キナーンが長い間手入れをしていないことが一目で分かった。空気は重く、湿気がこもっているせいで隅には小さなキノコまで生えている。かつて部隊員たちと食事を囲んだ時は、きちんと片付けられていたことを思い出し、アルバリは胸が痛んだ。几帳面だった彼が、こんな状態で過ごしていたとは信じがたい。


「……い、いらっしゃらない?」


 寝室にも姿はなく、部屋中を探してもキナーンの気配はどこにも見当たらなかった。


「どうされたんだろう……」


 食事も取らず、キナーンは忽然と姿を消してしまった。その事実はアルバリの不安をさらに募らせた。


「隊長……お食事も取らずに……。どこに行かれたの……何かあったのかしら……あぁ、隊長……」


 心配で胸が締め付けられるアルバリ。部屋の中を見回しても、キナーンの気配はどこにも感じられない。何度も名前を呼んでも返事はなく、ただ静寂だけが広がっていた。


 その時、不意に背後から声が響いた。


「おいっ!」


「きゃぁっ!」


 驚いたアルバリは思わず転びそうになり、慌てて振り返ると、そこにはタスキと他の隊員たちが立っていた。


「なんだ……タスキかぁ……。驚かさないでよ……」


「なんだはないだろ?隊長は居ないのか?」


「うん……」


「出かけてるなら探してみるか。なんも食べてないからヤバいよな」


「そうなの……うぅぅ」


 アルバリは今にも泣き出しそうになっていた。それを察したのかタスキは仲間たちに命令下した。


「みんなで隊長を探しに行こう」


 隊員たちはうんと頷くとそれぞれが散っていった。


「アルバリ、お前はここで隊長を待っていてくれ」


「うん……ありがとう……グスッ」


「んじゃな」


 アルバリは幼馴染みの気遣いに感謝し、涙をそっと拭った。しかし、胸の不安は消えず、じっと待つこともできなかった。彼女は窓を開けて新鮮な空気を入れると、気を紛らわせるために部屋の掃除を始めた。掃除に集中するうち、少しずつ気持ちが落ち着いていくのを感じた。


----- * ----- * -----


 掃除し終わったアルバリは、キッチンの椅子に静かに腰掛けた。手にはキナーンの魔法部隊の制服が握られていた。


「ふぅ……お掃除は終わったけど、隊長はまだ戻らない……」


 隊員たちも戻らず、どうしていいのか分からないまま、アルバリはキッチンを見渡した。そこには、かつて隊員たちが集まって食事をした賑やかな光景が思い浮かぶ。


「またみんなで一緒にご飯を食べたいです、隊長……」


 涙がこみ上げ、キナーンの服をぎゅっと抱きしめた。


「隊長の匂い……早く戻ってきて……あなたがいないと……」


 服の温もりに包まれ、少しずつ心が落ち着いていく。


「……戻られたら……"お帰りなさい"って言えばいいのかしら……」


 安心感と疲れに身を委ね、アルバリはそのまま静かに眠りに落ちていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ