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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の四:サダク編:夜の闇に溶ける
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軟弱部隊長①

 魔法部隊が編成されると、彼らには宿舎として使える建物が与えられた。

 元生徒たちを含め、キナーンやアルバリたちはその宿舎で共同生活を送りながら、日々訓練に励んでいた。


 食事はみんなで協力して作り、広めのキナーンの部屋や中庭で一緒に食べることが多かった。もともと同じ村の出身者が多かったこともあり、部隊員同士は家族のような絆で結ばれていった。


 ダビの率いる武装部隊と、キナーンの魔法部隊は街の防衛だけでなく、商隊の護衛やノラ魔族・盗賊からの防衛、さらにはエンチャントロープなどの魔法道具の製作も担っていた。


 その日も、魔法部隊の面々は寄宿舎の中庭で魔法の訓練に励んでいた。


「お~い、副隊長」


 部隊編成の初期から居るタスキに声をかけられてアルバリは、少しうんざりした顔をして振り向いた。


「もう副隊長って呼ばないでって言ってるのにっ!」


「いや~、幼馴染みだからってそんな訳にいかないだろ?そんなことより、隊長は大丈夫かなぁ……みんな心配しているんだぜ?」


「そうね……」


 タスキをはじめ、訓練中の魔法部隊員たちも心配そうにアルバリを見つめていた。しかし、アルバリ自身も答えを持っていなかった。彼女は副隊長として皆を支えなければならない立場でありながら、誰よりもキナーンのことを案じていた。


(隊長はあの日以来、姿を見せていない……。どうしてしまわれたの……。)


 胸の奥に重くのしかかる不安と痛み。それでもアルバリは副隊長として気丈に振る舞おうと努めていた。


「分かったわ。私が隊長の様子を見てくるから、みんなのことお願いできる?」


「おう、任せとけよ、副隊長さんっ!」


「だから、その呼び方やめてってばっ!」


 アルバリは訓練の指揮をタスキに任せ、キナーンの部屋へと向かった。

 扉の前に立ち、何度もノックしてきた手が、今日もまたためらいがちに止まる。返事のない静寂が、彼女の不安をさらに募らせた。


(キナーン隊長……)


----- * ----- * -----


 あの城への強襲以来、キナーンの様子は明らかに変わってしまった。

 強襲の後、祝賀会が開かれた日には、しばらく魔法部隊の仲間たちと食事を共にしていたものの、しばらくして突然姿を消してしまった。

 心配になったアルバリは、彼の行方を探して街中を歩き回り、ふと思い立ってキナーンの部屋を訪れた。


「隊長?いらっしゃいますか?」


「あぁ、アルバリ……」


「良かった……。お帰りになっていたのですね」


「うん……まあね」


 キナーンの声は聞こえるものの、彼は部屋から出てこようとしなかった。その声もどこか沈んでいて、普段の明るさは感じられなかった。


(やっぱり、あの襲撃で心を痛めていらっしゃる……)


 城下町に入っていくノラ魔族たちを、悲しげな横顔で見つめていた彼の姿が、アルバリの脳裏に浮かんだ。


「あ、あの……体調が悪いのですか?」


「……大丈夫だよ。心配しないで」


「祝賀会であまり食べていらっしゃらないようでしたので少しでもお食事を……」


「今は食欲がなくて……ごめん」


「わ、分かりました。後でお部屋の前に置いておきますので、良かったら召し上がってください」


「うん……」


 アルバリは一度その場を離れると宴会場から食事を用意してキナーンの部屋の前にそっと置いた。


「隊長、お食事を置いておきますね……」


 しかし、返事はなかった。翌朝、食事を確認すると、手つかずのまま残されていた。


----- * ----- * -----


 アルバリは不安になって戦闘部隊の宿舎にいるダビに相談することにした。


「あん?またかよ……」


 だが、ダビはただ呆れた顔をするだけだった。


「あ、あの……どうにかなりませんでしょうか……部隊の者も不安になってます」


「ちっ、部下を不安にさせやがって、しょうがねぇなぁ……。あいつ何かあるとすぐに引きこもっちまうんだぜっ?プリマにフラれたときは三日だったかなぁ」


「えぇっ!!そんなっ!!!」


 アルバリの声があまりに大きくて周りの戦闘部隊員も振り向くぐらいだった。


「な、なんだ?驚きすぎだろっ!」


「えっ!あっ、ごめんなさい……」


 アルバリの驚きは別のところにあった。


(プリマさんにフ、フラれたぁぁぁっ!?お付き合いしていたのかぁ……)


 彼女の気持ちを知らないダビは話を続けた。


「ゲッソリした顔で出て来やがってさ。"み、水ぅぅぅ……"だって言うから笑っちまったぜ」


 キナーンのものまねをするダビを見て似てるなと思ったが、それはそれとして、彼を助けてほしい気持ちが勝った。


「今回はあの襲撃がショックだったらしくて……。同胞が殺されてしまったことを後悔されているのでは無いかと……」


「戦争を仕掛けたんだぜ?何を言ってるんだよ。あ、お前じゃないか」


「で、ですから、隊長を助けて頂けませんか?」


「甘っちょろいんだよな、あいつはっ」


「し、しかし……」


「平気、平気、そのうち出てくるよ」


「そうですか……」


 ダビは、キナーンの引き籠もりは良くあることだとあまり気にしていないらしく、アルバリは引き下がざるを得なかった。


(隊長、大丈夫かなぁ……)


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