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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の四:サダク編:夜の闇に溶ける
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魔法部隊

 キエティの組織した魔法部隊の副隊長、アルバリは、隊長キナーンが今日も部屋に籠もったままでいることに胸を痛めていた。


(隊長は今日も……)


 その理由は、誰よりも近くで彼を見てきた自分だからこそ分かっていた。


(城の襲撃で心を痛めて……。でも、キエティ様に逆らう訳にもいかない……。キナーン隊長……自分には隊長なんて向いてないなんて言ってたけどそんなことありません。あなたがいたから、この部隊は強く成長できたのです……)


 アルバリは、魔法部隊が編成されたときのことを思い出していた。


----- * ----- * -----


 キエティは、街が発展し始めた初期の頃、自分たちの安全を守るために民兵団を組織した。これは、メリクリス王から見れば勝手に軍隊を作ったようにも映ったが、表向きは外敵や盗賊から街を守る自警団として設立されたものであった。

 王がキエティの街を特別に守る理由はなく、住民たちの自衛のための組織だと誰もが認識していた。それは王自身も同様だった。


 民兵団は大きく二つの部門に分かれていた。一つはダビが率いる武装部隊、もう一つがキナーンが率いる魔法部隊である。


 だが、魔法部隊長を任命されたキナーンは、当初自分がリーダーになることなど想像もしていなかった。そのため、キエティから話を持ちかけられても、すぐには返事をすることができなかった。


「キエティ様、しばらく考えさせてください……」


「あら、そう?良い返事を待ってるわ」


「は、はい……」


 キエティの部屋を出たキナーンの後を、ダビが足早に追いかけてきた。


「おい、ちょっと待てよ」


「ダビ……」


 ダビは、旧友が浮かない顔をしているのを見て、気になって声をかけた。


「なあ、キナーン。そんなに悩むことか?」


「君は悩まなさすぎなんだよ……。民兵団って、結局は軍隊だろ?僕は戦うのは得意じゃないし、好きでもない」


「でもさ、自分たちの身を守るためだって、母さんも言ってたじゃないか」


「それは分かってるけど……」


「まったく、ウジウジしやがって。お前らしいけどな」


「はぁ……とりあえず学校に行くよ」


「おう、早く決めてくれよ?」


「うーん……」


----- * ----- * -----


 キナーンが向かった「学校」は、いわゆる私塾のような小さな魔法学校だった。


 スナーコ・リプキャの街が発展するにつれ、魔法を使える人材の必要性が高まっていた。この街に集まった多くの人々は、仕事を求めて城下町から移住してきた三ツ目族であり、その中で魔法を学びたい者たちのためにキナーンが学校を開き、魔法を教えていた。しかし、三ツ目族は武闘派が多く、魔法を使える者は少なかったため、当初三十名ほどいた生徒も最終的には十名ほどに減ってしまった。


 その魔法学校は、キナーンの家を改築して広くしただけの簡素な建物だったが、椅子が並べられ、生徒たちが座っていた。生徒といってもキナーンと年齢が近い者や、年上の者も混じっていた。


 キナーンが教壇に立つと、生徒たちは静かになった。彼は教室を見渡し、ため息をついた。その様子を見て、最前列に座る魔力の高い生徒アルバリが心配そうに声をかけた。


「先生、どうされたのですか?」


 更にどんなことを教えてくれるのかと待っていた生徒たちからも総ツッコミを受けた。


「いきなりかよ」

「先生どうした」

「悪いことでもあった?」

「こっちは先生の魔法を教えてもらいに来たんだぜ?」


「あ~、ごめんよ。実はさ……」


 普段はあまり弱音を吐かないキナーンだったが、この日は魔法部隊の話と部隊長に任命されたことについて、率直な気持ちを語った。「自分には向いていない」「戦うのは得意じゃない」と、戸惑いや不安を素直に打ち明けた。

 しかし、その言葉に生徒たちは一瞬驚いたものの、すぐに温かい声や励ましの言葉が教室に広がった。


「魔法部隊っ!?」

「おぉっ!すごいじゃないかよっ」

「俺達が所属することになるんだろ?」

「だよなっ!魔法部隊、格好いいっ!!」


「いやでも戦争に出るかもしれないよ?僕は部隊長なんてやりたくないしね……」


 そんな弱気なことを言うキナーンを一番初めに励ましたのは、またアルバリだった。


「そんなことありませんっ!みんな、先生についていきますよっ!ね?」


 アルバリがそう言うと他の生徒たちも彼をさらに勇気づけた。


「てか、先生しか無理でしょ?」

「だよね、俺達じゃ出来ない」

「先生が部隊長をやってくださいよ」

「そうだよ、やってくれれば俺達だって、な?」

「やるやるっ!俺も入りたい」

「そうよねっ!私もやってみたいっ!!」


 完全に逃げ腰だったキナーンだったが、彼らから背中を押されて戸惑った。


「えぇっ!みんなはそう言ってくれるけど……」


「自信を持って下さいっ!先生ならやれますっ!!私たちは先生について行きますっ!」


 アルバリの声に追従するようにみなも歓喜の声を上げていた。


「アルバリ、みんな……ありがとう。みんなとならやれるかな」


 結局、キナーンは生徒たちの励ましに背中を押され、部隊長を引き受ける決意を固めた。彼に魔法を学んでいた生徒たちも、自然な流れでそのまま部隊員となった。そして、部隊を支える役割として、魔力が高く面倒見の良いアルバリが副隊長に任命された。


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