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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の三:サダク編:それは誰のためか
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審判の魔女①

 普段ならば城下町の防衛兵を恐れて近づくことのないノラ魔族たちだったが、今や、彼らの目から理性の光は完全に消えていた。本能をむき出しにする煙に支配され、喉を震わせ、牙をむき出しにしながら、狂乱のごとく城下町へと雪崩れ込んでいった。


 ウルサリオンたちの策略によって、普段は閉ざされた城門はすでに解放されていた。そのため、ブラッドウッド・ウォーデンの他にも小柄なゴブリン、歩く樹木のようなトレント、そしてそれを指揮するアルラウネまでもが、煙の匂いに誘われるように次々と街へと消えていった。

 三ツ目族の住民たちは次々と殺され、ある者はその場で絶命し、ある者は生きたまま捕らえられ、餌として運ばれていった。


----- * ----- * -----


 そして、ついに城の内部にもノラ魔族が侵入し始めた。宴に酔いしれていた貴族、大臣、料理人、給仕のメイドたちは次々と惨殺され、混乱の中で逃げ惑う者もいたが、兵士たちは碌な装備すら調えられず、迎え撃つこともできずに次々と屠られていった。


 王は突然立ち上がり、座っている玉座の腕を掴んだ。宴のはずのこの場は、すでに血と断末魔で満ちていた。


「こ、これはどういうことだっ!こ、近衛兵はどうしたっ!」


 混乱の中、血を浴びた近衛隊長とその部下数名が剣を振るいながら王へと駆け寄った。彼らの装備は不完全で、武器も貧弱だったが、それでも必死に魔族を押しのけて王と王女に近づいた。


「お、王よ、城にお入りくださいっ!王女も早くっ!」


「わ、分かった……」

「え、えぇ……」


 王と王女は、広間の叫び声とノラ魔族のうなり声の入り交じった地獄絵図から逃げるように、奥の城へと駆け込んでいった。


----- * ----- * -----


 城の中にはまだノラ魔族の数も少なく、王と王女は近衛兵たちに守られながら、城の上部に位置する王の間まで何とか逃げ延びた。


「ど、どういうことだ……。なにが起こっているのだ……」


 メリクリス王は玉座に崩れ落ち、乱れた髪の間から滴る汗を拭おうともせず、警戒を続ける近衛兵にどうにもならない怒りをぶつけた。


「近衛兵長っ!どういうことかと聞いているっ!」


「も、申し訳ございません……」


 突然の襲撃に近衛兵長も動揺を隠せなかった。王の叱責に何も答えられないまま、沈黙が広がるだけだった。

 その時――不意に、王の間に響くはずのない声が響き渡った。


「ふふふっ、それには私が答えましょう」


「……キ、キエティッ!?お、お前がどうしてっ!?」


 王の間に響いた声は、あのキエティだった。誰もが知る彼女は、遠く離れた海の街にいるはずだった。しかし、王の間へ続く階段からゆっくりと現れる彼女の姿に、一同は驚愕した。


 喧噪の中、彼女の物腰は静かだった。かつての王女の衣装をそのまま身にまとっていた彼女の姿は、不気味なほど異様に映った。しかも、周囲にはウルサリオンたちが彼女を守るように囲っていた。


「ウ、ウルサリオンだと……!?な、なぜ一緒にいるのだ……」


 メリクリスの問いには答えず、キエティは丁寧にスカートを掴み、優雅な礼をしながら顔を上げた。その三ツ目には勝ち誇った光が宿っていた。


「メリクリス王よ、ご機嫌いかがでしょうか。王女もお元気そうでなにより……ふふふっ」


「そうか……。キエティ、お前なのか、これを計画したのは……」

「や、やっぱりっ!!!だから言ったのですっ!やっぱりあいつは魔女だったのですっ!!」


 王と王女はついにこの襲撃の黒幕を悟った。


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