プリマの役割①
少し前、キエティはプリマを城に住まわせようと策略を練った。そのために王と交渉せざるを得ず、しかし、さすがに城に戻るわけにも行かなかった。そのため、手紙を通した。
その手紙には、娘のプリマは街の生活でだらしなく育っており、城でメイドとして働かせることでしっかりとした女に育てたいと、したためた。
キエティはこの手紙を送りつつも、その内容から断られると思っていた。
(流刑にされた者の娘など雇うはずが無い……)
だが、王からプリマを城でメイドとして働かせても良いという返事があったため、キエティはどういった風の吹き回しだろうかと訝った。
(ダメ元の作戦だったが、どうして王は許したんだ……?まぁ、良い……。明日、プリマには城に向かわせよう。王は何か考えがあるのかもしれないが、しばらくは様子を見るか……。メイド長にも連絡しておいて王の様子をうかがわせよう)
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翌日、朝から準備を整えたプリマが城に到着したのは夕方のことだった。城の裏門にたどり着くと、彼女は静かに裏戸を叩いた。ほどなくして扉が開き、少し年老いた女性が姿を現した。
「は、はじめまして。プリマと申します」
「はじめましてプリマさん。私はマルケブと言います」
「まぁっ!マルケブ様っ!実際にお会いになれるなんて嬉しいですっ!」
マルケブと聞いてプリマは大声を出した。キエティからはメイド長にはよく世話になったと聞いていたからだった。
「あら、そう言ってもらえて私も嬉しいわ。お母さんに似て綺麗ね」
「あ、ありがとうございます。これからどうぞよろしくお願いします」
マルケブは、キエティが何かを企んで娘のプリマを城に入れ込んだのだと思った。しかし、通信杖を使った会話ではそれらしい話はせず、ただ娘をよろしくと念を押されただけだった。
しかも、目の前にいるプリマは、丁寧に挨拶をしただけであり、その仕草は普通の何処にでもいるような可愛らしい女性でしかなく、その笑顔からは悪意を感じなかった。
(考えすぎかしら……。それにしてもあの子そっくり……いえ、それ以上に魅力を感じる不思議な子……)
マルケブが自分をじっと見つめるだけだったので、プリマはその意図を測りかねて首をかしげた。
「えっと、どうすればよろしいでしょうか?」
「あぁ、そうね。お部屋に案内するわね」
「はい、ありがとうございますっ」
マルケブは外に出ると、プリマをメイド達が暮らす離れの建物に案内した。プリマは三階建ての建物をじっと観察し、内部に中に入ると再び周囲を見回しながら何かを探るような素振りを見せた
城で夜食の準備をしているためかメイド達の姿はなく、建物内は静寂に包まれていた。
マルケブは一階の一室へプリマを導き、扉を静かに開けた。その扉には鍵は付いていないようだった。
「まぁ、素敵なお部屋っ!」
「こんな汚い部屋でごめんなさい。あなたのお家と比べたら全然違うでしょ?」
「母の時は共同部屋だったと聞いていました。一室を頂けるなんて嬉しくてっ!」
「そうね。あの頃より生活は良くなったわ」
「そうでしたか。母への土産話が早速出来ました」
「ふふふっ。だけど、明日から色々と働いてもらうから大変かもしれないわ」
「これも修行と思って精進します。遠慮無く何でも言って下さい」
「偉いわね。何か嫌なことがあったら教えてね」
「ありがとうございます。マルケブ様はお噂通りお優しい方ですね」
「そうかしら。キエティがそう言ったの?」
「はいっ!あっ、そうだ。母からマルケブ様にこれを渡せと言われています」
「えっ!?」
プリマはそう言うと小さな小包をマルケブ渡した。中身は金貨であり、どっしりとした重みが彼女の腕を伝った。
「分かってるわよね?余計なことは散策しないように。だけど、仕事は差別無く他の人と同じように与えなさい」
「!!!」
その声がキエティそっくりだったのでマルケブは背筋が凍り、手足が震えた。そして、この子がここに来た理由が分かったような気がした。
「それが母からの伝言です」
マルケブは恐る恐るプリマを見つめたが、彼女はニコニコとしていて、ただ立っているだけだった。しかし、マルケブは、得体の知れない恐怖に襲われ、声が震えだした。
「え、えぇ……、そ、そうね、そうするわ……」
「はい、メイド長っ」
「す、少しここで荷物の整理をしておいて……ください。……あ、あとで他のメイド達に紹介……します」
「は~い、メイド長っ!」
マルケブは、プリマを部屋に置いてそっと扉を閉めた。しかし、彼女の震えは止まらなかった。これから何か恐ろしいことが迫っているのではないかと、彼女の胸に不吉な予感がよぎった。
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プリマが城で従事してしばらくした頃、王女のシュアトは大声でメリクリス王を探して城の中を歩き回っていた。
「あなたっ!あなたっ!あなたっ!!!メリクリス王っ!!!どこですかっ!」
「……あぁ、なんだ」
執務室から声が聞こえため、シュアトはその扉を開いた。大臣達と話していた王は何事かと思った。
「あれは何なのですかっ!!」
「あれとは何の事だ」
「あの女の……、あぁ、名前すら口にしたくないっ!」
メリクリスはシュアトの意図をすぐに察し、厄介な事態になりそうだと直感した。
「キエティですよっ!キエティの娘を城に置くなんて信じられませんっ!!一体何をお考えになっているのですかっ!今すぐ出て行かせてくださいっ!」
「別に良いではないか……。メイドをやらせているだけだ」
「ふ、ふざけないでくださいっ!流刑にした女の罪を許すというのですかっ!」
「何年前のことを言ってるのだ……。しかも母親とは関係の無い娘だぞ」
「娘だろうと何だろうと罪人の関係者に城の敷居を践ませるわけにはいきませんっ!」
「どうでも良いことだ。仕事の邪魔だ。出て行け」
「ど、どうでも良いこと?どうでも良いことですってっ!?し、信じられないっ!!どうしてあなたはあの女に甘いのですかっ!あの女は、あなたの首を狙っている魔女ですよっ!!魔女が街を作って、自分の石像を造って自分を信奉させて、この城を奪おうというのですっ!どうして分からないのですかっ!」
メリクリスが一言言えば、十は返ってくる。その執拗さにうんざりし、遂に彼は怒りが爆発した。
「シュアトッ!くどいぞっ!下がれと言っているっ!!」
「キィィィ~~~~ッ!もうどうなっても知りませんからっ!」
シュアトも顔を真っ赤にして怒りをあらわにしたが、王の激怒には抗えず、しぶしぶ身を引かざるを得なかった。彼女は勢いよく扉を叩きつけるように閉め、その音は城中に響き渡った。
王と大臣は一緒に頭を抱えた。
05/09 全面改定:いやなんで?……ごめんなさい




