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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の三:サダク編:それは誰のためか
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成長を願う

 それから更に、我々の時間で言うところの十年程度が経った。

 この世界の時間経過は、ほぼ我々と同等と考えて良い。つまり、魔族達も赤ん坊として生まれ成人し、老化とともに寿命を終えた。我々と異なるのは姿形だけだった。


 幼かったダビも成人年齢となって三ツ目も既に開眼していた。その念力は王にも迫る勢いだった。また、彼はリーダーとしても街の商業を管理するまでに成長していた。


 ある日、荷物をまとめて着替えている息子の筋肉を眺めてキエティは彼の成長に親としての喜びを噛みしめた。


「ダビも大きくなったわね……」


「んだよ、母さん。急にどうしたんだよ、気持ち悪いなぁ。老けたみたいぜ?」


「バカ言わないで、まだまだよ。あなたを王にするまでは死ねないわ」


「まだ言ってるのか?この街も相当でかくなったけど、城はまだまだ頑強だし、メリクリス王も健在だぜ?この前の闘技大会でも念力が全く衰えて無いってところを見せつけてたしな。俺もサダクビアもコテンパンにやられたぜ……イテテ……」


 彼の背中にはその時のアザがまだ残っていた。


「何度も言ってるでしょっ!そんな弱腰じゃ駄目よっ!少なくてもサダクには勝ちなさいっ!」


「分かったって……。それよりも城に行ったプリマがまた男を作ったってキナーンが騒いでたぜ?」


「私に似て自由な子ね」


「自由ねぇ……。ったく、キナーンじゃ相手にされないわけだ。あいつさ、まだプリマのことを好きなんだぜ?一回、付き合っただけだってのにさ。遊ばれているのに気づかないんだ」


「キナーンも災難なことっ」


「他人事だなぁ……。自分の娘だろ?」


「あなたの妹でもあるのよ?」


 キエティにはダビの妹にあたる女の子、プリマが生まれていた。

 父親は誰ということも無い流浪の三ツ目族だったが、彼女の容姿は母親に似て美しく、三ツ目も既に開眼していてその目を見ると誰でも好きになってしまうため、愛の女神と呼ばれていた。しかし、男癖も悪く、次々と男を狂わせていった。キナーンもその一人だった。彼女があまりにも自由奔放だったため、キエティはおしとやかにさせるため、王に懇願して城に住まわせてもらっていた。


「あんな色気だけの妹なんて知らねぇよ。ったくさ。言ったとおりだろ?あいつは何処に行っても落ち着くわけないんだ」


「まぁ、それでも良いのよ」


「はぁ?良いのかよ、んならどうして城になんか行かせたんだよ」


「あなたのためでもあるのよ」


「俺の?んで、そうなるんだよ……。意味の分からないこと言うなぁ」


「ともかく、あなたはもうすぐ王になるんだから、プライドを持って暮らしなさい。ともかく、サダクには……」


「はいはい、分かったよ」


 耳にたこができるぐらい同じ事を言う母親にダビは呆れ果てた。


「んじゃ、アンカおばさんのところに行ってくるよ」


「はいはい、荷物の護衛ね」


 ダビは、ウルサリオン族の街に出荷する荷物の護衛のために準備をしていたのだった。このところ、ノラ魔族による荷物の襲撃が増えており、剣技と念力の強さも人一倍だったため、護衛も務めることにしたのだった。


「まぁ、頑張ってね」


 道中はノラ魔族が出て危険だと分かっているはずなのに母親は素っ気なかった。その言動にダビは大事にされているのかそうじゃないのか分からなくなった。


「んだよ、少しは心配しろよなぁ。俺は次の王なんだろ?」


「あなたなら大丈夫でしょ?」


「そうかよ」


 今度はダビが素っ気なく返すと、家の扉を叩く音が聞こえた。


「あっ、来たか」


 扉が開くとローブと杖をまとってすっかり魔法使いのようになったキナーンが現れた。三ツ目は魔力が強いためか三ツ目族では珍しく赤い色をしていた。


「来たかじゃないよ、準備が遅いんだから……。早く行こうよ」


「あぁ、分かったよ」


「あ、村長、おはようございます」


 キナーンは、キエティに気づくと一礼して合掌した。彼女はその仕草を否定するように手を振った。


「やだっ!キナーン、あなたはそんなの止めてよ」


「えぇ、しかし、みんなそうしてますし……」


「子どもの頃のように自然にして頂戴っ」


「はい、分かりました……。お、おはようございます」


 キナーンがただの一礼に変更すると、キエティはうんうんと頷いた。わざわざやり直すところは彼らしかった。


「おはよう~。うんうん、それで良いのよ」


「ははは……。ダビッ!それじゃあ、行こうよ」


「了解。それじゃぁな、母さん。明後日には帰ってくる」


「はいはい」


 きびすを返して出口に向かう息子の背中をキエティは見つめ、小声でつぶやいた。


「(あなたがこの程度で死ぬなら、それだけの男ということ……)」


「何か言ったか?」


「ううん、別に。さ、早く行きなさい」


 それに気づいたダビだったが、キエティはさっさと行けと手を振った。


「ちっ!んじゃな」

「行ってきます。村長」


 二人は歩きながら雑談を始めた。


「ダビ、何か僕の噂してた?プリマの話もしてただろ?」

「してねぇよ」


「えぇ、ほんと?プリマは元気かなぁ……」

「はぁ~……、あんな女はほっといて別の女を見つけろって」


「えぇ、どうしてさ……彼女はさぁ……」

「お前なぁ……」


 キエティは、扉が閉まるまで二人の声を聞いていたが、やがてその声は聞こえなくなり、部屋が静まり返った。

 彼女はそこにいない息子に自分の願いを伝えた。


「王になりなさい、ダビ……。準備は進んでいるんだから……」


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