シュアトの予感
みるみるうちに大きくなるキエティの村に王は驚愕し警戒もしたが、街から流れてくる魚介類や農作物で城下町も潤いだしていた。しかし、第一王女に返り咲いたシュアトは日に日に苛立っていった。
今夜も王の間から離れた大広間でメリクリス王とシュアトが夕食を取っていると、彼女が声を荒げ始めた。
「メリクリス王っ!!あの汚らしい村をどうするおつもりなのですかっ!!あんなにも大きくなってっ!国の脅威ではありませんかっ!」
また始まったかとメリクリスは思ったが相手にせざるを得なかった。
「またその話しか……。別に良いではないか。あの村も我が国だぞ。国が発展しているのだ」
「だけど、あの女は村に自分の名前など付けているのですよっ!あぁ汚らわしいっ!しかも、自分の石像まで建てさせてますっ!」
「うむ……」
記念式典にも呼ばれていた王だったが、シュアトに止められて参加はしなかった。石像についてはメリクリスも報告を受けていた。さすがに石像はやり過ぎであると思っていた。
「王を差し置いて、あの卑しい女が女神などと言われているのですっ!こんなこと許されるはずがありませんっ!!」
メリクリスは、毎日同じ事を言い続けるシュアトとの会話が面倒になり始めていた。
「うむ……。しかし、シュアトよ、お前が食べている料理はあの村から流れてきた魚だ。同国だから安く売ってくれているのだ」
「なんと甘いことをおっしゃるのかっ!!むしろ無償で提供すべきではありませんかっ!!」
「あぁ……っ、あの街も生計を立てているのだ」
「なんというっ!なんというっ!天下の戦闘王がなんと弱気なことを言うっ!あの女はいずれこの国を乗っ取るつもりですよっ!今のうちにあの村を王の配下にすべきですっ!!」
「もうすでに我が国の一部ではないかっ!!キエティはむしろこの国を潤している。お前はどうなのだ?」
ブーメランのように今度は自分が責められて、シュアトの怒りは頂点を迎えた。
「キ~~~ッ!!!何てことを言うのですかっ!わ、わわわ、私はあなたの息子達を教育してあなたの後継者を育てているのですっ!!!」
ああ言えばこう言う、何か言えば一方的にまくし立てるだけのシュアトにメリクリスは苛立ち始めた。
「もう、あなたときたらっ!!あの時、キエティを殺しておけば良かったのですっ!!」
「殺しておけば……だと……。余が判断を誤ったと言いたいのかっ!」
メリクリスの三ツ目がより深い青い色になった。シュアトはメリクリスからの殺意を感じて怯んだ。しかし、そこまで怒るのかと思った。
「そ、そこまでは……、と、とにかく、わ、私はどうなっても知りませんからっ!部屋に戻りますっ!」
この時のメリクリスは分かっていなかったが、シュアトの予感は当たっていた。キエティの憎しみは彼女が城を出たときから消えていなかった。その野望は副次効果として村を幸福にしたかもしれなかったが、彼女に取って全ては目的に向かって行く"過程"でしかなかった。
それを後々に思い知らされることになった。
シュアトの怒りを聞いていたメイドの一人は、彼女が去った後、大広間をそっと抜けると小さな棒を取り出し、それに向かって何かを小声で何かを話した。その姿は誰にも気づかれなかった。
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居間で小さな棒から聞こえる声を聞いていた女は、笑いを抑えきれなかったのか吹き出した。
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│そう……。また怒っていたのっ! │
│あははははっ!ヒヒヒッ!いい気味!! │
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│…… │
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│笑いすぎ?良いじゃないっ! │
│愉快すぎだものっ!! │
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│…… │
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│まぁ、良いわ。いつもありがとうね │
│お礼は……うんそう、いつものように │
│食材に入れて送るからね、みんなで食べて│
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│…… │
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│ううん、こっちこそ。助かってる │
│みんな元気? │
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│…… │
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│そう、それなら良かった │
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│…… │
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│また、報告をお願いね │
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