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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の三:サダク編:それは誰のためか
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もう一つの商材

 ダビとキナーンによって作られた水道は、各家庭に引き込まれ、生活水準を大幅に向上させた。しかし、キエティは次の課題を二人に与えていた。それは、余り余った水を農業に転用することだった。彼女は魚だけでなく農業でもこの村を大きくするつもりだった。


 この世界では雨はほとんど降らなかったが、湿度が高く植物は自然に生えた。ただし、根を数メートルに伸ばして、実が育ちにくかった。また、カビや細菌の繁殖も酷く、植物を侵食することも多かった。


 かつて、キエティ達が、アンカのところで振る舞った穀物も野生に生えている穀物をかき集めたものだった。つまり、彼女は穀物をどうしても安定して育てたかった。


(あの方法を試したい……)


 彼女が城の書庫で調べていると水を張った土の上に稲を育てる方法の記載があった。所謂、水田だったがどうしてこのような農法が本として残っているのか不思議でならなかった。未だにその理由は分からなかった。


(海水を水に変える魔法と、この農法……。つまり、大昔は海水を水にして稲を育てていた?どうしてそんなこと思いついたのかしら……)


 しかし、自分の魔力では大して"水化"も出来ず、どうしたものかと思っていた。だが、キナーンの高い魔力によって実現の目処が立った。


(そんなことはどうでもいいわ……。私の夢がどんどん実現するっ!まるで神々が私を応援してくださっているようだわっ!)


 ダビは城を追い出されてこの地に来たばかりの憎しみに満ちた母親よりもニコニコと笑う母親の方が大好きだった。


「お母さん嬉しそうだねっ!」


「ん?そうだよ~」


 キエティは、ダビの頬を両手で包むように掴むの自分のおでこを息子のおでことくっつけた。


「あなたとキナーン、それに村のみんなが居てくれるんだものっ!」


「えへへっ!くすぐったいよぉ」


「あはっ!もっとやっちゃうわっ」


「あははははっ!」


「ふふふっ」


 こうして、農業としても発展したこの村はみすぼらしかった家もしっかりとした建物に変わっていった。また、城下町の人々が仕事を求めて移動してくることも多くなっていった。噂を聞きつけた他国の魔族、つまり、三ツ目族以外の魔族達も多くなっていった。

 もはや村とは呼べないぐらい大きくなっていった。


----- * ----- * -----


 農業も発展してきた頃、未亡人の一人、アスピディがキエティの元にやって来た。


「キエティ村長……その……」


「何よ、モジモジしちゃって」


「わ、私も結婚することになりました……です」


「まぁっ!アスピディ、あなたもなの?おめでとうっ!今日はお祝いしなくちゃね」


 スハイルはすでに城下町から移動してきた者と再婚しており、アスピディも同様に相手を見つけたようだった。


「言葉もうまく話せるようになりましたし、私の考えた料理も広まっています。キエティ村長には感謝しかありません……」


「良かったわねぇっ!」


 スハイルは感極まったのか涙が溢れていた。


「……うぅぅ……。あなたはこの村の神様です……」


「まぁ、お世辞まで言えるようになったのね」


「お世辞だなんてっ!村……いえ、ここは城下町よりも大きくなりました。私達には神様にしか見えませんっ!!」


「神……?やだ、神様だなんて」


「村のみんなもそう言ってます」


「そうなのっ!?大げさね」


 この時は仲間の大げさなお世辞にしか聞こえていなかった。


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