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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の三:サダク編:それは誰のためか
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鳶が鷹を生む③

 キナーンが魔法が使えるとか、分厚い魔法書を読破したとか、キエティは何処まで本当なのか分からなくなっていた。子どもが言うことだから大げさなのだろうと思ったので、本当かどうか、その日にキナーンの父親、フナボシを呼んで確認することにした。


「うちの息子が迷惑かけてぇ……すまんだ。こいつっ!」


 キナーンの父親、フナボシは息子の頭をゴツンと殴った。子どもは耐えられず泣いてしまった。


「うぅぅ、うわぁぁぁぁん……ごめんなさ~~いぃぃ」


「まったくバカ息子がぁっ!」


 簡単に殴ったフナボシを見て、キエティはキナーンが萎縮しているのはこれだなと思った。


「フナボシ、本当のことなの?水になる範囲が広がったって」


「少し広いだけだぁっ、全くっ!いたずらばっかりやりおってぇっ!申し訳ねぇっ!」


 殴りそうになったフナボシをキエティは止めた。


「止めてっ。そんなに叩かないでっ!」


「はぁ……」


「それよりも少し広い?そうなのね」


 さすがにダビが言うほど大きくはないと聞いてキエティは少し安心してしまった。魔法書の理解と長い詠唱だけでも凄いのに自分よりも大きな魔力を見せたと聞いてプライドが傷つけられてしまったからだった。しかし、エンチャントさせたことは本当のようだったので実際にそのロープを見せてもらうことにした。


「彼の作ったエンチャントロープを見せて頂戴、フナボシ」


「あぁ、分かっただぁ」


 キエティ達は波止場まで移動すると、フナボシはキナーンがエンチャントとしたというロープを準備した。


「こ、これっ!?……ほ、本当に?」


 エンチャントロープを見てキエティは我が目を疑った。そのロープから溢れる魔力が自分の寄りも遙かに大きいことが伺えたからだった。


「どうしただ、村長?」


「な、何でもないわ……。いいから、投げてみせて」


「分かっただぁ。そらっ」


 フナボシがキナーンのエンチャントロープを海に投げると輪っかとなったロープの周りが水に変わった。


「えっ!えぇっ!!な、何よこれっ!」


 しかし、その水になる範囲が大きく広がり始めた。その大きさはキエティが作ったものよりも数倍は大きく広がっていった。つまり、大きな魔力がロープにかけられている証拠だった。

 キエティはもはや認めざるを得なかった。


「ま、まさかと思ったけど……これほどとは……」


「村長、少しは役に立ったかもしれんがぁ。駄目な息子でして……小せぇ頃から仕事せんで勉強ばかりしておって魚捕ることは全く出来ねぇんですよ」


 駄目だしばかりするフナボシだったが、キエティはこんな何も無い場所でどうやって勉強していたのだろうかと思った。


「べ、勉強?何も無いのに?どうやって?」


「いんやぁ。あの倉庫にあるんべさ」


「なにがよ?」


「本だべ、本」


「本?」


 そう言って、フナボシが指差した先には板状のキノコで出来た倉庫が見えた。そこに本があると聞いてどういう事かとキエティは思った。


「えぇっ?あの倉庫って穀物倉庫じゃないの?……本って言ったわよね?本ってまさか……」


「大昔、賢者様が色々と魔法書を置いてったって聞いただぁ」


「はぁっ?ま、魔法書っ!?」


 驚いたキエティは、フナボシに倉庫を開けさせた。

 その中を見てキエティは驚きの声を上げた。


「な、何よこれっ!」


 倉庫の中は見たことも無い魔法書だらけだった。むしろ城にあった魔法書よりも多くあった。何でこんな辺鄙な場所に大量の魔法書があるのか全く理解出来なかった。


「こんなところに魔法書だなんて……。キナーン、あなたは子どもの頃からこれを読んでいたのね……」


「う、うん……。さ、魚捕るよりも面白くて……」


「こらっ!魚を捕らねぇだとかっ!バカ息子じゃぁっ!」


 またフナボシはキナーンをゴツンとした。


「イタッ!だ、だってぇ……」


「言葉遣いも都会に染まりおって……魚も採れんおまえはどうするつもりだぁっ!」


「うぅぅぅ……」


「村長、駄目息子が調子に乗って申し訳なかっただぁ」


 フナボシは、キナーンの頭を押さえて一緒にキエティに頭を下げたが、キエティは別のことを考えていた。


 キナーンは文字をとっくに覚えていてこの魔法書を独学で学んだと言うことが分かった。親は漁民で知性のかけらもなかったが、キナーンは知性と才能に溢れた子どもだった。


「あ、呆れたわ……良い意味で呆れたわ……。私よりも勉強していたなんて……。フナボシ、良い息子じゃないっ!」


「は、はぁ……。そ、そうだべか?」


「そうよっ!あんなに凄いエンチャントロープを作るんだものっ!」


 それを聞いてキナーンはあくまで村長を立てようとした。


「い、いえ、そんなっ!村長様には敵いませんです……あっ」


 しかし、キナーンの頭をキエティは撫でてニコリとした。


「謙遜しすぎよ、キナーン」


「で、でも、お父さんに怒られてばっかりだし、みんなからも駄目な子だって言われてるし……そ、その……」


「そんなことないっ!もう少し自信を持ちなさいっ!私よりも魔力が高いなんてすごいんだからっ!」


「そ、そうでしょうか……」


「そうよっ!あなたの才能が開花する時よっ!!しばらく、私の家に通いなさいっ!」


「へっ?」


「良いわね、フナボシ」


「は、はぁ……。べ、別に問題ねぇだが……」


 キエティは、何も無い辺鄙な場所で大きな宝石を見つけたような気がした。彼女はこの宝石をどうやって使おうかと心が踊った。


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