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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の三:サダク編:それは誰のためか
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鳶が鷹を生む②

 翌日の朝、キナーンに話を聞くため、キエティは彼を家に呼び寄せた。居間で立って怯えている子どもを見てこの子が本当に魔法書を読んだのだろうかと思った。


「キナー……」


「は、はいぃぃ……っ、ご、ごめんなさいっ」


 キエティがキナーンを呼んだが、その途中で彼はビクッとすると後ずさりして頭を下げながら謝った。


「まだ何も言ってないわ……何がごめんなさいなの?」


「そ、その、か、勝手に持ち出してごめんなさいっ!」


 彼はそう言うと持ってきた魔法書を差し出した。


「魔法書ね……。まだ読み終わってないでしょ?良いわよ、読み終わるまで貸すわ。いずれあなたに読んでもらうつもりだったしね」


「い、いえ、大丈夫ですっ!」


「……何が大丈夫なの?」


 言葉が途切れ途切れでキエティは何が言いたいのかサッパリわかなかったが、次の言葉でそれがハッキリした。


「よ、読み終わりましたので……」


「えぇっ!?読み終わった?本当に?」


「は、はい……。ごめんなさい、勝手に持ち出して……その……面白くて面白くてっ!……だって、応用魔法が多くて、炎と風を組み合わせて炎の竜巻を作る魔法とか、水魔法と空気を冷やす魔法から凍り魔法を作るとか、いやぁ、もっと凄いのは暗黒魔法でして、眼を見えなくしてしまうとか、空を飛ぶ魔法も凄かったなぁ……はっ!」


 キナーンは魔法書の内容に集中する余りキエティ達の反応を見ていなかった。


「ご、ごめんなさいっ!あの……その……」


「すごいじゃないっ!」


「えっ!えぇっ!お、怒らないのですか……」


「怒るわけないじゃない」


 キナーンは呼び出された時点から怒られるものだと思って朝から不安で仕方が無かった。王国の本を勝手に持ち出したのだから、殺されてしまうかもしれないとさえ思っていた。しかし、逆に褒められたので理解が追いつかなかった。


「どどど、どうして……」


 キエティは、田舎語で話さない彼を見て知性の高さも感じた。しかも、敬語を使うので本当にここの村民なのかとさえ思った。


「あなた……本当にこの村で育ったの?」


「も、もちろんです……」


「やだなぁ、お母さん。キナーンのお父さんはフナボシさんだよ~」


「えっ、フナボシの?」


 あの田舎言葉丸出しのフナボシの子どもだと聞いて更に訳が分からなかった。


「う~ん……、まさかねぇ……え?それより魔法書を読み終わったということは……」


 しかし、それ以前に魔法書を読み終わったと言ったのでまさかと思った。


「も、もしかして、あなた魔法を使えるの?」


「あ、あの……えぇっと……」


 キナーンは急にモジモジとし始めて何か言いにくそうになった。そんな彼ににイラッとしたのか、ダビがサポートし始めた。


「んだよ、炎の魔法とか氷の魔法とかやってたじゃんかぁ」

「わ~~っ!ダ、ダビ、言うなってっ!怒られるよっ!」


「えぇっ!炎と氷魔法を使えるのっ!?」


「お母さん、こいつエンチャントロープも作ったんだよ」

「わぁ~~~っ!ダビ、だから言うなってぇっ!!」


「う、嘘でしょ?エンチャントロープを?本当なのっ?」


 エンチャントロープを既に作ったと聞いてそこまでやるかとキエティは思った。


「あれはだって古代の魔法で詠唱だって長ったらしくて複雑で凄く難しいわ……覚えるのだって大変なのに……」


「簡単だって言ってたよな」

「そそそ、そんなこと言ってないよぉ~」


「簡単!?あれが?」


「言ってたじゃんかぁ、嘘つくなよぉ」

「う、うぅ……うそじゃない……もん」


「はぁ~……それでどうしてエンチャントロープを作ろうと思ったの?」


「お父さんがエンチャントロープの力が弱くなったって言ってたから、そ、その試してみたというか……」


「試すって……そんな簡単じゃないでしょうに……あぁ、あなたには簡単なのね……。そ、それでちゃんと機能したの?」


「は、はい……お父さんはうまく水になったぞって……」

「えぇ、違うだろぉ。お母さんが作ったやつよりも広かったって言ってただろぉ」


「そそそ、そんなことは……。村長以上の広さなわけありませんっ」

「キナーン、嘘つくなよっ!」


 少し謙遜しすぎるキナーンをダビはフォローしていて二人の仲の良さが伺えた。キエティは感心したが、しかし、緩徐はキナーンがとんでもないことを言った事に気づいた。


「ちょっと待って、"広かった"って水になる範囲がっ!?」


「そうだよ、みんなそう言ってたよ~」

「バ、バカァッ!ダビィ~、言うわないでよぉっ!」


「あなた、それをどれぐらいの時間で作ったの?」


「1時間ぐらい……」


「はぁ~、1時間で作ったの……あれを……」


「ちちち、違います。やっぱり、1日ですっ。3日ですっ」


 魔法が使えると言うと怒られると何故か思い込んでいるキナーンだったが、それよりも自分は数週間掛けて作ったエンチャント魔法をいとも簡単に作ったことにキエティは本当だろうかと思った。


「はぁ~、まぁ、分かったわ。みんなにも聞いてみましょ……」


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