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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の三:サダク編:それは誰のためか
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 今日はキエティ達はウルサリオン族の街を訪れていた。

 商売仲間として同行した未亡人スハイルと、同未亡人のアスピディは、村以外に出たことはなくてウルサリオン族の街に興奮していた。


「村長、ここはとんでもねぇところだぁ……」

「んだ、おらビックリして腰が抜けそうだぞ……」


 キエティは、キョロキョロする二人が余りにも滑稽で笑ってしまいそうになった。


「ほら、あんまり周りをジロジロと見ないで堂々としなさい。国を代表して来ているのよ」


「はっ!すんま……申し訳ございません……だ」

「ももも、申し訳けけけ……」


 事前に教えた敬語もたどたどしく、キエティは頭を抱えた。


「はぁ~、あなた達は申し訳ないけどしゃべらないでね……」


「ははぁ~」

「分かっただぁ……ではなくて、かしこまり……ました」


「この道をまっすぐ行けば目的地よ」


 目的地の邸宅は、街の外れ、少し高い丘の上にあったため街に入ったときから見えていた。その巨大な壁に囲まれた邸宅は、街を見下ろすように建っていて、その大きさに三人は圧倒された。


「着いたわね……しかし、ここまでとは……」


「はぁ~、ぶったま……。驚きましただぁ……」

「と、とんでもねぇ、……大きさでございますことですだぁ……」


----- * ----- * -----


 キエティは、商売を始めるにあたり、南東に位置する商売上手なウルサリオン族に目を付けた。


 まだ彼女が城で王女として暮らしていたとき、ウルサリオン族の長と呼ばれるアンカにキエティは聞いてみた。


「アンカ、この国で採れる肉や野菜は売り物になりませんか?」


「王女様、恐れながらそれらのものは何処の国でも流通しておりまして……」


「そうですか……」


 スアリ・エクア国は経済的な自立は出来ていたが、それらは自分達で狩りなどをして採取したものであり、物珍しい商材はなく、それを売る程には経済的に成長していなかった。結局、それがこの国の限界であろうとキエティは感じていた。ウルサリオン族も主に販売目的でやって来ていた。


「我ら一族は最強の魔族ぞっ!商売など下級魔族のやることだっ!くだらぬっ!」


「失礼いたしました……おっしゃる通りでございます……」


 商業の発展をキエティは王に提言したこともあったが一蹴されてしまった。

 小さい国で満足していてくだらないのは、あなただと言ってしまいそうだったが、王に逆らうことは出来なかった。


 無骨な魔族だったため、商売をするなどの発想はなく、他国を侵略することでしか成長は出来なかった。しかし、他の魔族達も一筋縄でもいかず、これ以上の国の発展は不可能に近かった。三ツ目族の支配地域は、大陸の北東部の限定されていた。


(商業を発展させないといけないけど……)


 課題だけが彼女の中で残り続け、そのまま流刑罪になってしまった。


 しかし、キエティが都落ちした村には魚介類という商材があった。それが大量に採れる目処まで立って彼女はこれだと考えた。これを売れば商売が成り立つと考えた。


 だが、商品はあって商売をする才能を持つ者は村にはおらず、それ以前に人が全く足りていなかった。キエティは商品となる魚介類を仕入れてくれる相手を考え、すぐにウルサリオン族のアンカを思い浮かべた。


(彼女なら何とかしてくれる……!)


 そう思った彼女は早速アンカ宛に手紙を書いた。


 村にハルピュイア族を呼ぶ煙を立て、その手紙をウルサリオン族の町長であったアンカに送った。返事はすぐに戻って来た。すぐに会いたいとのことだった。


「お母さん、嬉しそうだね」


「ふふ、そうなのよ。昔のお友達に会えることになったのよ」


「へぇ~、良いなぁ。僕も行きたいっ」


「ごめんね、ちょっと遠いからダビはお留守番してね」


「えぇ……、うん、分かったぁ」


「良い子ね」


----- * ----- * -----


 そして、今日がアンカと約束した日だった。


 入口には門番のウルサリオン族が二人立っていたが、予め手紙を送っていたため、三人はすぐに中に入れてもらえた。途中に通った邸宅の庭には巨大な池や木々が立っていた。トレント族が動き回っていたため、彼らに庭師をさせているのだと分かった。


 三人は巨大な扉を開けてもらうと邸宅の三階にあるアンカの書斎に案内された。


「お久しぶりでございます、王女」


 アンカは立ち上がるとキエティに丁寧に挨拶した。


「アンカ、もう王女じゃないわ……知っているでしょ?」


「ハァ……、噂は本当でしたか……」


 情報通の彼女が知っていないわけもなく、キエティは少しわざとらしいなと思った。


「ふふふっ、今は国の西にある村で村長よ」


「はぁ……、失礼ながら落ちぶれてしまいましたね……」


「ふふふっ、まさにっ!」


 少しおどけたキエティにアンカは同情しているようだったが、同時に率直な意見をズバッと言ってしまう彼女にキエティは呆れた。だが、それが彼女らしく逆に好感を持てた。


「しかし、あなたの三ツ目は希望を失っていない。あの時のまま……そう……野望を持っている眼」


「ふふっ。アンカ、あなたもあの時のまま……さすがね」


 野望を持っていると看破したアンカにキエティは吹き出してしまった。さすが一代でここまで街を大きくした女だと思った。


「いやですよ、王女……いえ、どうお呼びすれば?」


「キエティと呼んでくださいな」


「それではキエティ、あなたのその三ツ目は私に何をもたらしてくれるのかしら」


「早速来たわね」


「そのために来たんでしょ?」


「ふふふっ、少し待ってね」


 既に同列となったと二人は砕けた話し方に変わっていた。


「スハイル、アスピディ、さぁ、出してちょうだい」


 キエティの指示で二人は、小さな箱を取り出して蓋を開けた。アンカは近づくと箱の中身をのぞき込んだ。


「あら、魚?これは……どうかしら。食べたことはあるけど、う~ん、あまり美味しくないわよね……」


 中身はもちろん村の漁業で採れた魚だったが、それを見てアンカの顔は少し曇った。ウルサリオン族を含め、多くの魔族達は肉食がメインだったから興味が薄れたように思えた。


「しかも死んだ魚よね?でも変だわ……腐っているはずなのに匂わないわね。水に浸かっているけど、それに工夫があるの?」


「いいえ、死んでないわ」


「え?」


「眠っているのよ」


「眠っているのっ?!」


「睡眠魔法をかけているの」


「はぁっ!睡眠魔法ですってっ!あははっ!まさか魚に使うなんてっ!!」


 ここに来る前にフナボシは魚が腐ることを心配していたが、死んでしまうから腐るのだとキエティは思った。それならば眠らせてしまえば良いのだと思った。

 現在も二酸化炭素を海水に溶かして魚を低活性化させて輸送する方法があるが、彼女のそれは魔法を使ったものであり、魔法が使えるこの世界特有の特殊な輸送方法だった。

 また、氷魔法で凍らす方法も試したが、解凍すると品質が落ちてしまったため、冷凍による輸送方法は取らなかった。


「でも、魚ねぇ……」


「まぁ、いいから。手紙に書いたとおり調理場を貸してくださいな」


「そうだったわね。案内させるわ」


 キエティ達は予定通り、アンカの家にある調理場を借りて料理を始めた。三人は顔を見合わせると早速料理に取りかかった。


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