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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の三:サダク編:それは誰のためか
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新商売

 自宅で村民達の作ってくれた魚料理を食べていたキエティは昼間の起こった事を思い出していた。それは彼女がエンチャントロープを使って海に浮かんでいる時、驚くべき事に彼女の周りに魚が数匹暴れながら浮かんでいたことだった。


(あれは何だったのかしら?……まさか魚が溺れてしまった?)


 自分でそう思いながら笑ってしまいそうだった。


「……お母さん、何か楽しそう。どうしたの?」


「ふふっ、何でもないわよ、ダビ。お魚、美味しいわね」


「うん、美味しいっ!」


 ダビの喜ぶ姿を見てキエティは微笑むと、次のアイデアにニヤリとした。


(でもそうね、試してみる価値はありそうね)


 母親が野望に燃える笑みにダビは身体がゾクッとし、少し怖いなと思った。


 翌日、キエティは、早速アイデアを形にしようと試みた。

 エンチャントロープを大きな輪っかにすると輪に沿って重しを付けた。ダビは母親が何を作っているの全く分からなかった。


「お母さん、それなあに?」


「ふふっ、新しい漁業道具よ」


「ふぇ?それでお魚を捕るの?」


「そうよっ」


「???」


 ダビは訳も分からず頭にはてなマークがついた。


----- * ----- * -----


 翌日、キエティは、それを漁業に出ようとしている村民達に渡した。


「これを漁で使いなさい。漁に出たら沖でそれを投げるのよ」


「はぁ?漁でぇ?ただの救助ロープにしか見えねぇがぁ?」

「確かに村長さんが作ったロープでわしら助かってるが……コレはなんだべ?」

「まぁ、村長さんが言うんだ。やってみるべぇ」


 漁師達は訳が分からなかったが、沖に出た後、彼女の言ったとおりその輪っかを海に投げた。なお、この時代の網漁は"寒天海"のため引っ張り上げることが出来ず使えなかった。


「これで良いんだべか?」

「うまく沈んでいったがぁ。どうだぁ?」

「何が起こるんだべ?」


 しばらく様子を見ていた漁師達は驚きの光景を目にした。


「おぉっ!?」

「さ、魚がぁっ!魚がぁ浮かんで来ただぁっ!!!」

「は、早くすくえぇぇっ!」


 その輪っかが海に沈んでいくとそれが通ったところは水に変化した。それに伴い溺れた魚達が浮上してきた

。漁師達は歓喜の声を上げて急いでそれらを船の上に上げた。


「すげぇぞ」

「大量だぁっ!」

「た、食べ切れねぇぞっ!」


 思わぬ大漁に漁村は大騒ぎとなった。

 地上に積み上げられた魚の山には見たことも無い魚も混ざっていた。新漁法によって海の中程で泳いでいる魚も採れたからだった。


「ほんらぁ、見てみぃ、村長っ!」

「すんげぇ、道具だぁっ!」

「ありがとうございますだっ!」


 キエティも喜ぶ村民達を見て満足だった。


----- * ----- * -----


 その晩、村民達が揃ってキエティの元に魚料理を持って訪れた。魚料理はいつも食べさせてもらっていたが、今日はいつもとラインナップが違った。


「そ、村長……この魚なんだべが……」


「どうしたのよ?あぁ、あのロープで採れた新しい魚ね。早速料理したのね」


「そうだべ。ちょっと食べてみてくれっ!」


 村民達がいつもより勢いがあって何だろうとキエティは思った。しかしその理由はすぐに分かった。


「な、なにこれっ!」


「お母さん、このお魚美味しいっ!」


 ダビもその味に大喜びだった。


 元々、魚料理を食べる食生活はこの世界では珍しい食べ物だったが、新魚は今までの魚と違い、焼いても良し、生で食べても良しの極上の味だった。脂がのっていて深みのある味は舌を振るわせた。キエティとダビはあっという間にそれを食べて尽くしてしまった。


「美味しかったわっ!ありがとうっ」


「ありがとう、おじさんっ、おばさんっ」


 二人の喜ぶ顔を見て漁師達は嬉しそうに喜んだ。それを見てキエティは次のアイデアを思いついた。


(お、お母さんがまた怖い顔で笑ってるぅ……。また何か思いついたんだ……)


 ダビは恐れながらも母親の次のアイデアを楽しみにした。


----- * ----- * -----


 数日後、漁の休みの日にキエティは、村民達を集めるとそのアイデアを説明した。


「みんな集まったわね」


「んだ、集めただ。何だべ、村長。今日は漁も休みだぞ」


 村の代表格だった老齢の三ツ目族フナボシがキエティに答えた。


「この村を発展させる考えが浮かんだのよ」


「また別の道具だべか?」


「違うわ。新しい漁業方法で魚が余ってしまっているでしょ?」


「んだな、保存出来るようにしているから大丈夫だが、さすがに取り過ぎかもしれねぇだ」


「それよっ!ここで採れた魚を売る事にするわっ!」


 キエティは意気揚々とそう言った。数ヶ月経った彼女は村長としての風格が出始めていた。しかし、彼女のアイデアに村民達は消極的だった。


「はぁ?魚を売るぅ?」

「こんなの売れるのかぁ?」

「食べる者なんていないべぇ……」


 村民達は今まで魚を売ることなど考えてもいなかった。売る方法なども思いつかない上に、魚を他の魔族達が食べるとはとても思えなかった。


「それに早く食べねぇと腐っちまうぞ、村長。保存用のやつを売るのか?」


 フナボシはどうやって売るのかと思った。保存用に乾燥させた魚ぐらいしか売れないと思ったが、うまみが抜けて余り美味しくはなかった。


「まぁ、販売は私に任せなさい。あなた達は漁業を続ければいいわ。それと私の手伝いが出来るかどうか確認したいから、後で一人一人家に来て頂戴」


「はぁ?分かっただ」


「あ、子どももよ」


「なんだぁ?子どもにも手伝わせるのかぁ?」


「そうよ、資質があればね」


「資質ぅ?商売の資質だべか?」


「違うわ、まぁ、良いから準備をよろしくね」


 フナボシはキエティが村にやってきてから生活が一変するようなことが多くあって呆れていた。


「本当にあんたは不思議な人じゃなぁ」


「必死なだけよっ!私にはやらなくちゃならないことがあるのっ!!」


「分かった、分かっただぁ、怒るでねぇ……。みんな一旦家に帰るだぁ。ワシが呼んだら村長の家に行くだぞぉ」


 村民達は理解出来なかったが村長の命令に従うことにした。


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