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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の二:サダク編:キュンキュンブーメラン
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燃える宇宙①

 レイラ達は、屍になった魔物達を足跡としてサダクの後を追っていき、遂に王の間まで到達した。彼女達は、その異常な情景に理解が追いつかなかった。異様なほど強い赤い光で輝いていて何も見えなかった。しかも、強風が吹き荒れていて何が起こっているのか把握できなかった。


「なぁぁっ!目が開けられん……どゆことじゃぁ、レイラッ!やばやばのイミフ~ッ!!」


 ギエナが叫んだが、レイラも無論分かっていなかった。


「ま、眩しい……。何も見えない……。サ、サダクは……?」


 レイラ達の眼が徐々に慣れてくると、そこは王の間"だった"事が分かった。

 壁や天井は吹き飛ばされていてただ大きく平らな場所に変わり果てていた。その中心地に赤く輝く何かが空中に浮かんでいて、その周りには強風が吹いているかのように破壊された城の一部や王や王女、スウドの部屋にあったであろう家具がそれを中心にしてぐるぐると回っていた。


 レイラは、更に眼が慣れてくるとその中心にいるのは一人の魔族だと分かった。信じたくはなかったが、それはサダクだった。


「サ、サダクッ!?サダクなのっ!?あ、あぁぁぁ……、ど、どうして……。サダクッ!サダクッ!」


 しかし、レイラが叫んでもサダクは何も聞こえていないかのように空中に浮遊したままだった。彼は両手両足を広げたまま、衣服は飛び散って裸となり、身体は燃えるように真っ赤になっていた。この眩しい赤い光と強風は彼が原因であるとが分かったが、どうすることもできなかった。


 サダクの変わり果てた姿を理解出来なかったのは、イェッドとポリマも同じだった。


「……こんなの見たこと無かったわよ……どうするのよ」


「し、仕方ない……あの姿に戻るしかない……」


「キャンッ!……じゃない、えぇ、ここでっ!?」


 しかし、その時、空中浮遊魔法を唱えて飛び立つ者がいた。


<< ワ・ウヌ・ソヤ! >>


「あっ」


 イェッドは彼女の危険を察知して羽根を広げて後を追うと、その腕を掴んで止めようとした。


「レ、レイラ……いけないっ!何が起こっているか分からないんだっ!!」


 レイラは、イェッドの腕を振りほどこうとしたが強く握られて動けなかった。


「い、いやっ!離してっ!!イェッド、私を行かせてっ!」


「だ、駄目だっ!」


 ……ガンッ


 すると強風で飛び交っていた家具の一部がイェッドにぶつかって、彼はそのまま何処かに飛ばされていった。


「痛っ!酷ぉぉぉいぃぃぃっ!」


「わぁぁ、イェッドォォ!?大丈夫かいなぁぁっ!こんなに風が強くっちゃ探せないよぉぉ……」


 ギエナの声もむなしくイェッドはそのまま強風とホコリの中に消えていった。


「ご、ごめん……、イェッド……」


 レイラは、イェッドに謝ると振り返ってサダクに近づいていった。


「眩しい……、目が開けられない……まるで太陽みたい……。サダク……サダク……」


「……」


----- * ----- * -----


 宇宙即我は、過去、くうの悟りを得た宗教者が経験した神秘体験だった。地上での修行の究極の姿であり、自分の本当の姿が霊体であることを実体験とする悟りだった。それは自分が世界と一体となり、宇宙と一体となる。

 しかし、サダクのそれは悟りとは最も遠いこの世のしがらみ、つまり煩悩のうちの怒りという感情によって引き起こされた。故に、それは苦しみに満ち、混乱状態のままでただただ魂が大きくなっていった。


"あぁぁぁぁ……、何なんだこの感覚はぁぁぁ……熱いぃぃぃ……熱い熱いぃぃぃ……。ハァッ、ハァッ……お、俺がぁぁぁ世界を一つになっていくぅぅぅ……何なんだこれはぁぁぁっ!"


 魂が巨大化するにつれて、彼は世界と自分が一体となっていくのを感じた。


"ハァッ、ハァッ……。せ、世界は広いと思っていたが……ち、違う……。大きな丸い何かに入ってるだけだったのか……"


 魔族達の世界は惑星の中にある地下の空洞世界だった。サダクや魔族達は惑星や宇宙という概念を知る由も無かった。

 更に彼は大きくなり、魔族の住まう惑星よりも大きくなっていった。


"ぐぁぁぁっ!……ハァッ、ハァッ……そ、その周りは……く、黒い……。真っ黒な空間……?こ、この丸いもの浮いている……"


 惑星をも超えた彼は遙か向こうに見える燃えるような赤い星にも近づいた。


"あ、熱い……、熱い……。これはなんだ?お、俺のように燃えている……。で、でかい……。熱い、熱い……"


 その燃える星に近づき、身体中が燃えるのを感じながら、サダクはその正体を直感として知った。


"あ、あぁ、だ、だがどうして?どうして分かったんだ?何故か分かるんだ?これが……これが昼間を作っているんだ……。俺達を照らしている光は……こ、これだったのか……"


 太陽系まで大きくなると、太陽の周りを回る他の天体にも気がついた。


"……ハァッ、ハァッ……。ほ、他にも沢山の丸いものが炎の周りを回って……、それが一緒に動いて……"


 無論、銀河まで広がってもそれを彼が理解出来るはずもなかった。


"あぁ、違う……、もっと沢山の炎が……集まって……?あぁぁ……熱いぃぃ、熱いぃぃ、熱いぃぃ……止めてくれ止めてくれ……あぁぁぁぁ……。レ、レイラァァァ……レイラァァァ……、レイラァァァ……"


 宇宙空間にポツンと存在する一つの銀河系からの叫び声は何処にも届いていないかのようだった。


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