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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の二:サダク編:キュンキュンブーメラン
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広がる心

 一方、レイラ達と分かれたサダクは、怒りとも混乱とも彷徨いとも言えないまま、ただ目的地の、つまり、城の上部にある王の間を目指していた。


「この城は俺達のものだぁぁぁ」

「入ってくるなぁぁぁ」

「外にいろと言っただろうがぁぁぁ」


 城の中には知性を持った魔族達がたむろしていて、文字通り自分達の牙城として徘徊していた。それを見てサダクはブチ切れた。


「貴様らぁぁぁ、何をしているっ!!!」


 魔族達は外にいたノラ魔族が間違えて城に入ったのだと勘違いした。しかし、目の前に現れたのは三ツ目族であり、驚くと共に報告のあったサダクだとすぐに認識した。


「こいつ、連絡のあったクソ王子だぞ」

「倒せば褒美がもらえるぅぅぅっ」

「殺せぇぇぇっ!」


「クソ王子で悪かったなぁぁぁっ!」


 しかし、鬼気迫る勢いのサダクは、三ツ目の念力を剣を持たない左腕でコントロールし、魔族達を戦闘態勢に入る前に壁や天井に吹き飛ばした。


「俺の前に出てくるなっ!!!」


「ぐぁぁ……」

「ぎゃぁぁぁ……」

「ぐぉぉぉ……」


 サダクの三ツ目は目覚めた頃よりも深い青色になっていて、念力もより強力になっていた。それ故、ゲームでは城内はボスラッシュであったが、それらは彼の念力で飛ばされるか、剣圧で真っ二つにされるかのどちらかだった。そのため戦闘らしい戦闘は行われず、全て一瞬で終わった。


「スウドは何処だっ!」


 そして、子どもの頃から慣れ親しんだ城だったため、あっという間に王の間に到着した。


「お、王子だとっ!?」


 しかし、そこに居るはずの王はおらず、ボスクラスのダークエルフが王のまねごとをして椅子に座っていた。その周りには部下のハイリッチとグリフォンが虚偽の支配者を守っていた。


「はっ!はははっ……今頃戻ってどうするぅぅ。愚か者めぇぇぇ……」


 ダークエルフは立ち上がり杖をサダクにかざして魔法を唱え始めた。


「そこは……」


 しかし、サダクが左腕を大きく上に上げるとそれに合わせてダークエルフは念力で勢いよく天井に打ち付けられた。


「……お前らが座る場所ではないっ!!!」


 更に左腕を勢いよく下ろすと、天井で瀕死状態になったダークエルフがそのまま急降下して、固い地面に強烈に叩きつけられ、命尽きた。


「グギャ……」


「お前らもこの場から消えろぉぉぉっ!!!」


 彼らの部下だったハイリッチとグリフォンは逃げ惑うも、同じように壁に飛ばされて朽ち果てた。


「ぐげぇぇ……」

「ぶぉぉ……」


 それらの死を確認するまでもなく、サダクは更に上部に位置する王と王女の寝室や、作戦室を訪れた。しかし、これらにも誰もいなかった。


「どうして誰もいないんだっ!!クソ親父もお袋も何処にも居ないっ!役立たずの家臣すら居ないっ!」


 そして、一番の懸念だった弟のスウドの部屋を訪れた。するとそこにはタンスを開けている王族の服を着ている子どもが居た。


「ス、スウドッ!!!……お前無事だった……のか」


 しかし、それはサダクの希望が見せた幻覚だった。目の前に居たのはただのゴブリンであり、サダクの方を振り向いて驚いた表情を見せた。その瞬間、サダクの怒りは頂点を迎えた。


「貴様ぁぁぁ、スウドの服を着て何をしているんだぁぁぁっ!!!」


 ゴブリンはサダクに襲いかかって来たが、その瞬間剣圧で真っ二つにされた。


「グブエェェェ……」


 そして、そのまま身体は念力で窓から吹き飛ばされた。


「スウドォォ……お前も居ないのかぁぁぁっ!!ふざけるなぁぁぁぁっ!!」


 既にサダクの怒りは抑えきれないところまで達していた。この場に家族が居なかった事だけではなかった。今まで自分をクズ扱いした王や王妃、そして、家臣への怒りまでがわき上がって抑えきれなくなっていた。身内の怒りは自分を育てた城に向けられ、やがて街も街に住む人々も、学校へも世界中へも向かって行った。


「全て全て全て全てぇぇぇっ!全てがイラつくっ!……俺……俺は……俺は俺は俺はぁぁぁ、俺を許さないっ!!!」


 そして、自分自身への怒りに変わった時、その抑えきれない感情に同調するように赤い光が彼に集まり始め、彼は壊れた。


「……っ」


 その瞬間、サダクの魂は大きく広がり始めた。三ツ目は青から血のような深紅色になっていた。


「がはっ……」


 部屋中の物体は宙を舞い始め、大きく回り始めた。一部は壁に当たり破壊され、一部は窓から大きく外に飛ばされた。彼自身の身体は燃えたぎるマグマのような色になっていた。


"じ、自分が広がるっ!と、止められないっ!うぁぁぁぁっ!や、止めろぉぉっ!"


 その叫び声は音声だったのか、魂の声だったのか誰も分からなかった。


 ただ、ただ、サダクは大きくなっていった。


 弟の部屋まで身体が広がり、やがて城をも包み、街すら包んでいった。そのまま更に大きくなり続け、魔族達の住む巨大な洞窟空間まで大きくなり、更に星の大きさまでに大きくなった。


"あぁぁぁぁ……、何もかもが俺の中にある……。何もかもが俺になった……"


----- * ----- * -----


 この異変を察知したポリマとイェッドは、恐怖に怯えた。


「あっ、イェッド……。サダクが……、サダクが広がっているっ!!」


「ま、不味い……。これは悟りによる宇宙即我ではないっ!駄目だ、サダク、自分を抑えろっ!!」


 二人の動きを見たレイラはサダクという言葉を聞いて何か大きな異変が起きているのに恐怖した。


「サダクッ!?今、サダクって言ったの?彼に何が起こったのっ!?ねぇ、イェッドっ!!!」


 レイラはイェッドを大きく揺さぶった。彼は下手くそ演技すらせず、ただ一言だけ言った。


「急ぐんだっ」


「う、うんっ」


 レイラは頷くと城の上を目指した。


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