予言者達
ウルサリオン族の街を出発したレイラ達は、スアリ・エクア国への一本道を北に向かって歩いていた。
スアリ・エクア国は、ポラリスほどではなかったが、それなりの大きさを誇っていた。北は海に面しており、元々漁業で発達して街だった。我々からすると不思議だろうがゼリー状の海にも魚は住んでおり、食することが出来た。また、漁港から発達した巨大な港には各国からやって来る商船の入口にもなっており、商業目的の魔族達も数多く訪れる街だった。
また、陸から少しあがると大きな丘があり、そこに城壁を持った大きな城が建っていた。街も大きく壁が覆っていて、城の周りも壁があり、謂わば二重構造で城は守られていた。
イェッドは周りへの警戒を怠らなかったのだが、その動きが余りにもせわしないのでサダクはやり過ぎじゃないかと思った。
「んなに心配するなって、イェッド」
「えっ!いや、だってさ……」
「もうすぐ俺に国に着くんだ。国に入っちまえばどうってことないぜ?街にはでけぇ城壁があるしな」
「そうなんだけど、どうにも……」
レイラは気づいていた。そういうサダクこそ、出発してから不安そうに剣の柄を何度も握っていたり、三ツ目がせわしなく動いていたりと、イェッド程ではなかったが周りを警戒していることを。
(そうだよね。みんな不安になってるし、緊張しているのが分かる……。ギエナでさえ黙ってるし……)
レイラはこれから起こることがゲーム通りだったらどうしようかと考えていた。
(あっ、あぁ……やっぱり……)
やがて、スアリ・エクア国が見えてきて、彼女の不安は的中した。街の入口に入ると今度はサダクが真顔になった。
「……こ、これはどういう事だ……」
サダクが出発したときとは明らかに街の様子は異なっていた。
街を覆う壁は破壊されていて防御壁が一つ失っている状態だった。街の中は荒れ放題であり、黒い煙が至る所から立ち上っていた。サダクは何があったのか理解出来なかった。
「ま、街のみんなは……、スウドは……」
「イェッド……」
「どういう事だ、レイラッ!お前なら分かるんだろ?どうしてこうなっているんだっ!!分かるはずだっ!教えてくれっ!!!」
サダクはレイラの両腕を掴んで鬼気迫る勢いで聞いた。いつも未来を知っているかのようなレイラならこの状況を知っているはずだとサダクは思い込んでいた。
「……わ、私にも分からないよ……」
レイラは半分告白したような物言いでそう言った。しかし、彼女もどうしていいか分からなかった。彼女の知っている世界はただのドット絵でしかなかった。リアルで見る破壊された街など見ていなかった。
「サダク、冷静になれ……お前がさっき、僕に言っただろ?」
「イェッド、お前もかっ!お前も何か知ってるのかっ!」
「ぼぼぼ、僕は……し、知らない……かも」
「やはり、お前も知っていたのかっ!ポリマ、ギエナお前もかっ」
ポリマはイェッドを見て駄目だこりゃと呆れるしかなかった。
「知らないわよ、落ち着きなさい」
「あたしも知らないよぉ……」
しかし、冷静さを失ったサダクは怒りとも混乱ともつかなくなっていた。
「サダクッ!どこに?」
「お、お前らみんな俺をバカにしていたんだろっ!ふざけるなっ!」
レイラの言葉も無視して、サダクは一人で城に向かって走っていってしまった。ポリマは呆れ果ててしまった。
「あ~、ま~た一人で行っちゃった……。熱血バカって本当にイヤッ……。あんた達、急いで追いかけるわよ」
皆は武器を構えたが、レイラはまだ躊躇しているようだった。
「私は知っていた……。知っていたのに……う、うぅぅ……ごめんなさい。サダク……私は酷い人間なの……」
するとイェッドがレイラに向かって大声を上げた。
「レイラ、君が諦めたら駄目だっ!彼を支えることが出来るのは君だけなんだっ!」
「だけど……私は悪い子……サダクを支えること何て……」
「君がある程度先を読めることは知っているし、僕とポリマもそうだ」
「えっ、あなた達もゲームを知ってるの?」
「ゲームではないけど」
「そ、それなら……。はぁ~、やっぱり、思った通り……。みんな私と同じ日本人なのね……」
レイラは疑問に思っていたことを吐き出した。その瞬間、彼らが自分がオンライン授業で見ていた生徒達の姿が重なったように見えた。
「あっ……、ま、まさか同じクラスの……?」
「あはは……。まぁ、それよりも今は彼を助けることが先決だよ。君の思いを大事にして欲しい」
「うんっ!……そうだね、行こうっ!」
「あ~ぁ、言っちゃったぁ……、あたしは少し違うかも知れませんぞぉ、レイラちゃん」
「ギエナもかぁ……だと思ったぁ~」
「うわぁ、バレりんこ?」
「だって、口癖の"じゃまいか"を国の名前って言ったじゃない」
「そだっけ?あははっ!」
「後で色々と教えてよねっ」
「分かったよぉ、親友っ」
サダクの目的地はゲームのシナリオ通りなら一箇所しか無かった。
「ゲーム通りならサダクの向かった場所はお城だね」
「そうだよ、予言者さん」
イェッドは少し皮肉ったようにそう言った。
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ギエナは、ポリマの眼がハート目になってイェッドを見つめているのが気になった。
「ポリマ嬢が黙っていると思ったら眼がイェッドに釘付けじゃん。まぁ、いつものことじゃまいか」
「何よっ!」
「あたしらも行こうよ、わんた」
「ふんっ」




