その夜
イェッドは上空から街を眺めていた。直下にはレイラ達の泊まった宿の屋根が見えた。
はるか上空に見える太陽の光を透過させている水晶は真っ黒になっていた。それはこの星を照らす太陽の光が差していないことを意味していた。つまり、この星は地球と同じように自転をしていて、昼になれば水晶を通して太陽光を透過させていた。夜になれば無論太陽光は届かなかった。しかし、よく見れば乱反射した星々の光も映っていて、真っ暗になるはずの世界に少し光をもたらしていた。
ここにいる人類は星が自転してるから朝昼晩があることや、宇宙には多数の恒星が存在していることを理解出来ないだろうなとイェッドは思った。
「誰も来ないでしょ?」
「……そう……だぞ……Zzz」
「わぁっ!!」
突然、後ろからポリマとその足に蜘蛛の糸でぶら下がっているギエナに声を掛けられて、イェッドは落っこちそうになった。
「ポ、ポリマ……と半寝状態のギエナ……。な、なぜ後ろから話しかけた……」
「たまには変化を入れないとこっちも飽きちゃうのよ」
「ふわぁぁ……、Zzz」
「飽きちゃう?まぁそうだよね……」
「……それよりもう寝なさいよ」
「そだぁ……ね……ろぉぉ……Zzz」
「心配できてくれたのね、いつもありがとう」
どうやら二人は睡眠を取らないイェッドを心配して見に来たようだった。若干一名は眠気に勝てないのか意識がなかった。
「まぁ、念のために様子を見ていないと……。あいつらの攻撃を始まると不味いでしょ?」
「今までそんなことなかったでしょ?」
「Zzz」
「でもさ、これを見てよ」
イェッドは襲撃しようとしていた者達から奪った腕輪をポリマに見せた。ポリマは怪訝そうな顔をした。
「……金の腕輪?銀じゃなかった?」
「Zzz」
「そうなんだ。だから余計に気になってね……」
「多少の違いは発生するわ」
「Zzz」
「まぁ、そうだけど。今回はどうにも気になる……。それより、君たちこそ寝なよ。この身体は多少寝なくても大丈夫みたいだからさ」
「う~ん……。だけど、あまり無理しないでよ」
「そうだ……ぞ……Zzz」
「うん、ありがとう」
下に降りていくポリマ達にイェッドは手を振ると、街を見回るために何処かに飛んでいった。それを下からポリマは不安そうに見つめた。
ガンッ!
それが故に、ぶら下がっているギエナの事を忘れ、彼女は宿の天井に頭を思いっ切りぶつけた。
「いっ……たぁぁぁぁぁっ!この羽根胸娘なにするんじゃぁぁぁっ!」
「クスッ……あらっ、ごめんね」
大きなたんこぶが出来て涙目になったギエナにポリマは吹いてしまった。
「笑ったなぁぁぁぁっ」
「ごめんって言ってるじゃない」
「目が覚めちゃったいっ!……あぁ~、イェッドは偵察を続けているんだな」
すっかり目が覚めたギエナは遠くに飛んでいくイェッドを細めで見つめた。
「そうね……」
「な~んか不安そうじゃまいか?」
「自分でもよく分からない。何でだろう……。あいつも心配だけど、今回は何か起こりそうで不安なのよ」
「こんかい?まぁ、いっけど。心配しすぎだよ、こんな可愛い小熊ちゃんたちが何かするとは思えん」
「甘いわねぇ……見た目に騙されちゃだめよ」
「えっ、そうなん?」
「まぁ、しばらくしたら分かるわよ……」
「ふぇ?」
「寝ましょ」
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翌朝、戻らないイェッドを心配したレイラ達だったが、宿の前に彼はちょこんと立っていた。どうしたのかと皆が驚いた。
「昨日はどうしたんだよ、みんな心配したんだぜ?」
「サ、サダク、う~ん、そうだなぁ、いやぁ、みみみ、道に迷ったかも……ねぇ……あはは……」
相変わらずの下手くそ演技でポリマとギエナは頭を抱えた。
「まぁ、戻ったら良いじゃない。行きましょっ」
ポリマは仕方なく助け船を出したが、あっかんべえをした。イェッドは頭を掻きながら苦笑いをしていた。
「眠くない?大丈夫?」
「うん、レイラ。大丈夫だよ。ありがとう」
「そっか、それじゃぁサダクの国に出発だぁっ」
「うぉぉぉっ!……イテテ」
勢いよくレイラに乗ったギエナだが痛む頭を押さえた。その頭を見たレイラは驚き声を上げた。
「わっ、ギエナすごいたんこぶっ!どうしたのよ……」
「寝相悪いから、巣から落ちたんだよぉ」
「えぇっ、それで昨日大きな音が鳴ったのかぁ。夜、ちょっと目が覚めちゃった」
「ありゃ、ごめんちゃい」
ギエナはテヘペロでイェッドの様子を見に行った夜間行動を誤魔化した。
「(あんたもアレぐらい出来ないと駄目よ)」
「あはは……」
ポリマに下手くそ演技を突っ込まれてイェッドは苦笑いをするだけだった。




